114.英雄の宿命
「……話を戻そうか。奪った領地を返してザイン王国から手を引くということは、この国のことは俺に任せるってことでいいんだよな?」
「おう、その通りだ。大陸西方地域の守りはお前に任せよう。せいぜい魔女どもにやられないように頑張るんだな」
ザーカリウスはカラカラと笑いながら続ける。
「俺がお前に求めている役割は二つ。魔女の侵略から人々を守ること。そして、行方が知れない聖剣の捜索をすることだ。伝承では十二本あるとされている聖剣だが、所在が知れているのはたったの七本。いずれ来る戦いのためにも、残る五本も見つけておきたいからな」
存在を確認されている七本の聖剣。それはレイドールも聞いたことがあった。
ザイン王国が所有しているダーインスレイヴ。帝国が所有している三本。そして、先ほどのザーカリウスの話にも出てきた『十二聖教』と呼ばれる勢力が二本の聖剣を所有している。
残る一本であったが、大陸の東端にある『楼蘭都』という国が所有しているという話であった。
「行方不明の聖剣は五本……そんなに簡単に見つかるものだろうか?」
「可能性があるとすれば獣人や亜人の国が密集する大陸南方地域。そして、ザイン王国のさらに西側にある諸国だろうな。楼蘭都のさらに東にあるという極東の島国も考えられるが……」
「ふむ……」
レイドールはザイン王国を中心とした大陸西方地域の地図を頭の中に思い描く。
大陸中央と西方の境界上にあるザイン王国であったが、実のところ国境を面しているのはアルスライン帝国だけではない。王国の西側には山脈を隔てていくつかの小国が存在している。
西の小国群とはわずかに交易がある程度の付き合いであり、聖剣の有無も判然としなかった。
「まさか……聖剣を探すために西の小国群に攻め込めとか言わないよな?」
「ははっ、ザイン王国にその余力があるのならそれでもいいけどな! ま、やり方は任せるさ。予は最終的に全ての魔女が滅びれば過程など構わんさ!」
「…………」
レイドールは苦い顔で黙り込む。突然に与えられた情報が多すぎて整理することができず、頭の中が混乱してしまう。
魔女の復活に、行方不明の聖剣。
そんなおとぎ話のような問題を持ち込まれて、いったいどうしろというのだろうか。
レイドールにしてみれば、重要なのは帝国を追い払って兄と決着をつけることだけである。
それなのに、どうして世界の危機のような大事の問題を持ち込まれなければいけないのだろうか。
(随分とまたデカい話になったもんだな。俺と兄貴の争いが取るに足りない兄弟喧嘩に思えてきたぜ……)
レイドールは自嘲するように唇を吊り上げた。
自分を追放した者達を見返して、奪われたものを取り返す。
そのために再び聖剣を手に取ったというのに、どうしてこう次から次へと問題が舞い込んでくるのだろう。
あるいはこれが『偉くなる』ということなのかもしれない。
自分の力が世間に認められているからこそ、多くのものを抱え込むことになってしまったのだろうか。
「……理不尽だな。いや、今に始まったことじゃないんだが」
「人生なんてそんなもんだろ? 聖剣に選ばれた人間が平穏無事に一生を終えられると思うなよ」
世の無常を嘆くレイドールの顔を見て、ザーカリウスがようやく気付いたのかとばかりに愉快そうに笑った。
「世界はとんでもなく理不尽で容赦がない。だけどな……俺達には聖剣がある。弱者として一方的に踏みにじられるのではなく、強者として理不尽な世界に抗う権利を与えられているだけマシってもんだろうよ」
「……含蓄のある御言葉だ。感動するよ」
覇王とも呼べる男の言葉に、レイドールは頭痛を堪えるように額を抑えた。
ザーカリウスが言う通り、たとえ兄王に勝利したとしてもレイドールに平穏な日々など戻っては来ないのだろう。
レイドールが始めた復讐の戦いはすでに兄弟喧嘩の域を越えていた。国を巻き込み、多くの人間を巻き込んでしまっている。
そして、一度は帝国軍を破り、世界最強の男と決闘をしながらも生き残ったことで、新たな英雄レイドール・ザインの名前は大陸中に轟いていくだろう。
どれだけの理不尽が降りかかってきても、もはや逃げることなく立ち向かうしかない。
それが聖剣に選ばれた者の宿命であり、世界救済の運命を背負わされた英雄の運命なのだから。
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