113.魔女の厄災
「魔女……? 『破滅の六魔女』のことか?」
皇帝の言葉にレイドールは首を傾げた。
『破滅の六魔女』とは、三百年前に『大厄災』と呼ばれる災害を発生させて、当時栄えていた国のほとんどを滅亡に追いやった怪物である。
大厄災の後もたびたび事件を引き起こしており、その悪名はもはや伝説やおとぎ話になっていた。『嘘を吐くと魔女にさらわれて、頭から食べられてしまう』――などと子供のしつけに使われるくらいである。
「『破滅の六魔女』だったら、すでにほとんど討伐されていると聞いているが? 『炎』のアーカーシャ、『水』のカルメラン、『風』のフーフール、『土』のオスマンに……そして、『闇』のネイミリア。討伐が確認されていない『光』のグラスリードだって、百年以上も歴史に登場していない。すでに魔女の災厄は終わったんじゃないか?」
「ほお、随分と魔女の事情に詳しいじゃねえか」
「それは……俺だって聖剣保持者だ。聖剣と関わりの深い、過去の伝承のことくらいは調べているさ」
身内に一人いるからだ――などと口にすることは勿論なく、レイドールは肩をすくめてごまかしの言葉を口にする。
ザーカリウスは「ほう?」とわずかに眉をひそめながらも、追及することなく話を続ける。
「お前の言う通りだ。三百年前の大厄災以来、たびたび騒ぎを起こしてきた魔女どもはほとんどが倒されている。しかし――いずれそう遠くない未来に帰ってくる」
「はあ? どういう意味だ」
「予の国――アルスライン帝国は『大厄災』からいち早く復興して、それ以来、魔女討伐を国家の目的として掲げてきた。滅んだ国の史跡をたどって魔女が現れる以前の歴史を調べ、さらに魔女討伐の兵器である聖剣の所在を追った。そして……一つの事実にたどり着いた。魔女による『大厄災』は三百年前に初めて起こったものではない。一定の周期で幾度も引き起こされているのだ」
「…………!」
レイドールは息を飲んで黙り込んだ。
この大陸の歴史は三百年前に魔女によって断絶させられており、それ以前の記録はほとんど残されていない。魔法技術なども衰退しており、魔女が現れる以前のことを知る者は皆無なのだ。
ネイミリアという魔女を知るレイドールでさえも、彼女の口から魔女の復活について聞かされたことはなかった。
「三百年に一度ほどの周期で、この世界には【魔女の復活祀】と呼ばれる呪われた夜が来る。そして、その終末の夜によって六人の魔女は復活して世界に災いをもたらすのだ」
「……その復活がじきにやって来るってのか? どうしてそんなことがわかる」
「兆候はお前だって知っているはずだ。聖剣の活性化だよ」
ザーカリウスは壁に立てかけられているデュランダルを手に取った。
炎を司る聖剣はザーカリウスに応えるように大きく脈打つ。
「デュランダル、クラウソラス、ギャラルホルン……帝国にある三本の聖剣が所有者となる人間を定めている。貴様のダーインスレイブもだ。大厄災以前の歴史書が発見されてわかったことだが、過去にも複数の聖剣が同じ時代に保持者を有したことがある。決まって、【魔女の復活祀】の直前のことだ」
「つまり……魔女に立ち向かうために聖剣が使い手を求めているということか?」
「そういうことになる。大陸北方で信仰されている『聖教』の教えでは、聖剣は【破滅の六魔女】に立ち向かうために神が与えたものであると伝えられている。なれば、魔女どもが復活する時期に活性化するのは道理と言えるだろうな」
「なるほど、な……」
神妙な顔つきでレイドールは頷く。
皇帝の語った言葉がどこまで信頼できるかはわからない。しかし、筋道は通っているように感じられる。
帝国のこれまでの覇道は決して野心のみが動機ではない。魔女の復活を見据えて、ザーカリウスなりのやり方で世界を救おうと考えた結果のものだったのだろう。
「決闘に負けたはずの俺を殺すことなく見逃したのも、魔女にぶつける戦力にするためか?」
「ご名答。お前が使えないようであれば殺すのも已む無しと考えていたが……まあ、及第点といったところだな。今後の伸びしろを期待して生かしておいてやる」
「そうかよ……有り難くって涙が出るな」
レイドールは不愉快そうに鼻を鳴らして腕を組んだ。
上から目線で言われるのは気に入らないが、それでも圧倒的強者であるザーカリウスに認められるのは悪い気分ではなかった。
相反する複雑な感情から眉間にシワを寄せて、レイドールは真向かいに座る皇帝から目を逸らした。
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