60、影はつながっている
もともと俺たちの班は六人班であったが、実際に行動していたのは五人だった。
一人足りないのは、杉崎という男子が好き勝手に何処かへと行ってしまったからだ。
彼はなかなか協調性の無い人物だったことも覚えている。
なぜそんな風に記憶していたからと言うと、杉崎は去り際、
「お前らが行きたかったら行けば良い。俺は犯罪者予備軍、外人、間抜けドベと一緒に行動するつもりはない」
と吐き捨てて行ったため、あまりいい印象が無いからだ。
そんな杉崎が今更この部屋にやってきたため、俺は嫌な予感がした。
杉崎は俺たちを阻むように扉の前に立つと口を開く。
「お前らどこ行くんだ? 俺様に何も言わないで何処かへ行くとはいい度胸をしている」
俺たちは彼が何を言いたいのかわからないため口を閉じていると、杉崎は話を続けた。
「黙っていることしかできないほど、お前らには脳が足りていないのか? ならば親切に言ってやろう。——さて、同じ班員である俺様にもお前らがここを調査してわかったことを差し出してもらおうか」
杉崎は俺たちに向かって、情報を渡せと手を差し出した。
俺は心の中でなるほど、と呟く。
後ろに振り返ると、石掛が口元にわずかな笑みを浮かべているのが見えた。
そこで俺は杉崎が宍戸達とグルだったことを理解した。
奴も固有魔法使いだったのだ。
そこで俺たち普通の魔法使いと一緒につるむことを毛嫌いして俺たちと一緒に行動をせずに宍戸達のところに行っていた。
俺たちがいない間は宍戸と一緒に行動していたのだろう。
だから今、杉崎は宍戸についてこの部屋に来た。
そして自分が一応は同じ班員であることを利用して情報を差し出せ、と俺たちに要求することで、俺たちからこの部屋の情報をちゃっかり手に入れて、手に入れた情報を宍戸に差し出す算段かとすんなりと理解できた。
クロエが奥歯を噛み締めるのが見えた。
「なんだ、女。実に嫌そうな顔をしているじゃないか。同じ班員として当然の権利を主張しただけなのに実に不快だな」
「あなた、同じ班員とか言っているけど、あなた、フラフラと何処かへ行ってしまったせいでずっといなかったじゃない。私たちと情報共有ができていないのも自業自得だわ」
「自業自得? それは悲しいな。俺様は体調を崩していて残念ながら参加できなかったんだ。それでもお前は自業自得だと言うのか?」
「……っ!」
「梅州先生、先生からも俺をハブるのは良くないとこいつらに教えてください」
杉崎に呼ばれて、先ほどまで何も反応していなかった梅州が動き出し、無言でクロエの目の前に行くと、彼も杉崎同様手を差し出す。
「仲間はずれはよくないなぁ。……ほら、先生に渡しなさい」
このような状況になってしまうと逆らうわけにはいかない。
どうやら口はクロエより杉崎の方が上だったようだ。
クロエは意外と感情に任せて言葉を発するという傾向をメモしておこう。
「わかったわよ。……これで満足かしら?」
クロエは大きなため息をつくと、手に持つ紙束を梅州に渡した。
そして梅州は受け取った紙をそれぞれ適当に読んだ後に、今度は杉崎に渡した。
「先生、ありがとうございます」
「いやいや、僕は教師として当然のことを言ったまでだよ」
梅州が照れ臭そうに頭を掻く。
この教師は完全に宍戸側の人間になったらしい。
こいつは信頼ができない。
「お前ら、何をボサッとしてんだよ! さっさと出て行け!!」
石掛が威勢良く怒鳴る。
「ひっ……ヒィ!」
石掛の怒気に土部が飛び跳ねた。
思えば、土部はとてもビビっている。
先ほどまではどうってことなかったのに、宍戸達が来てからと言うもの背中には汗の滝が作った跡が見えた。
そんな彼が先頭を切って走り出す。
ずっと立っていた俺たちもそれを追いかけるように走り出した。
「おい、ちょっと待てって土部!!」
意外だったのが、箭原よりも土部の方が足が早かったことだ。
体つきは悪くない箭原が一生懸命走ったものの、土部は追いつかれることなく瞬く間に何処かへと行ってしまった。
少し走った後に、息を切らしたりったんがギブアップした。
「はぁ……、はぁ……、もう私ダメかも…………」
「……大園さん? ちょっとみんな止まって」
クロエがりったんの隣に寄り添い、様子を伺う。
ここはさっきまで俺たちがいた部屋よりも一階層上の通路。
天井に一列に並ぶ白熱電球が暖かな光を放ちながら足元を照らしていてくれる。
その通路の中央にりったんを囲むように俺たちは立ち止まっていた。
「クロエちゃん、ありがとう。……もう大丈夫みたい」
「大園さん、無理しないで何かあったら私たちにちゃんと言うのよ」
「うん、ありがとう……ってあれ? 土部くんはどこに行ったの?」
「彼は……そうね、見えなくなってしまったわね。心配だわ」
箭原が立ち止まった俺たちに気づいて引き返して来た。
「はぁ、はぁ、冗談きついぜ。なんで俺たちはあの部屋から追い出されねぇといけねぇんだ、ったくよぉ。土部も見えなくなっちまったし、この合宿は全くどうなってるんだか……なぁ、網島?」
いきなり話しかけられたが、今回はスムーズに返答することができた。
「そうだよな。でも俺は逆に追い出されて安心してる。あの部屋も……いわくつきだったしな……」
りったんが不安そうな表情でこちらを見て目を伏せる。
罠があるなんて調査する前には思っていなかったし、そのせいでりったんを危険な目に合わせてしまった。
次行く部屋はちゃんと消毒をしてから調査を始めたい。
「ゆっくりでいいから、歩いて行きましょう」
クロエがりったんの肩を支えながら前へと進む。
その時に悲鳴が聞こえた。
太い悲鳴は土部のものだった。




