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59、汚い男達

 突然の訪問者に俺たちの手は止まる。

 入り口の方を見ると、石掛(いしかけ)犀牙(さいげ)、そして宍戸(ししど)というあの厄介な三人が立っていた。


「おうおうおうおう、こんな見事な部屋、このマジョリティ風情には勿体無いなぁ、おい。」


 石掛が率先してズカズカと部屋の中に入り、俺たちが調べている目の前の壁を物色し始めた。

 犀牙、宍戸も続いて入ってくる。

 そんな彼らを見て隣にいた土部が困ったようにこちらを向いて俺に囁く。


「……なんで宍戸、くん達がこの部屋に?」


「……さあな」


 土部が心配そうに一歩下がった。

 しかし彼がそのように怯えてしまうのも分かる。

 ガラの悪い彼らがこの部屋に来たのだ、俺たちに何か実害を伴うちょっかいをかけてくると思ったのだろう。

 俺も昨日、石掛の顔にアイスクリームを発射した手前、奴が俺に対して何もしてこないのも不気味だ。

 きっと裏があるに違いない。


 そう思っていると、石掛がこちらに振り向いた。


「おっと、お前は昨日のアイスクリーム野郎と土部じゃねぇか。また会えて嬉しいぜ、へっ」


 彼は驚いてわざとらしく喜んでみせるが、顔の端には悪い笑みが残っていた。

 つまり、石掛は俺たちがいると知っていて、この部屋にやって来たのだろう。

 石掛は話を続ける。


「でも! これはおかしい!! 俺たちの今日調べる場所はここ。そしてお前らが今いる場所もここ。ということはどっちかが調査する場所を間違えていることになるが、当然、どちらが間違えているのか、分かるよなぁ!?」


 両手をポケットに突っ込んで石掛は俺に顔を近づける。

 顔が近い状態で大声で話すものだから、リンクくん人形には当然唾が沢山飛んだ訳で、とても不快な気分になった。

 土部は俺の後ろにすっかり隠れて震えている。

 そんな時、遠くから声がした。


「そうね。 ここは私たちの調査場所よ。あなた達はどうやら調査する場所を間違えているみたいね」


 クロエが腕を組みながらやって来た。

 目には鋭い光が宿っている。

 その姿に付け入る隙はなく、いつもとは違って低いトーンで話すものだから見方であるはずのこちらまで気圧された。


「これはこれはクロエお嬢様じゃないか。聞いたぜ。お前の父ちゃん、捕まったんだってな」


「——あなた達、私のことを調べたのね」


「調べたら簡単に出てくるぜ。残念だったな。俺たちはクロエお嬢様みたいな固有魔法使い(ユニーク)とだったら一緒にこの部屋で調査をしてもいいかと思っていたが、俺たちは犯罪者とは付き合わない主義なんだ。もちろん他の奴らもな。そこでお前らにはこの部屋から出て行ってもらう」


 石掛は俺を含め周囲にいた者、——クロエ、りったん、箭原、土部、俺——の順に指をさして出口の方へと手で追い払う。

 それに対して反応したのは箭原だった。


「……先生も黙っていないでしっかりと言ってくださいよ、調査場所あってますって」


 箭原は宍戸達が怖いのか小声で俺たちの担当の教師——梅州に懇願する。

 しかしおかしいことに梅州は何にも反応しない。

 難しい表情をしたまま腕を組んでいた。

 代わりに石掛が返事をした。


「無駄だ」


 皆一斉に彼の方を見た。

 それを見た石掛は何を面白いと思ったのか腹を抱えて笑いだす。


「アハハハハ……」


「な、何がおかしいんだよ。先生も早くこいつらになんとか言って……」


「だから。無駄だって言ってんだよ、梅州は今、自分の遺跡調査に熱心で何も見ちゃいないんだ。奴はちゃんと給料分の仕事をする男なのさ」


 給料分の仕事、という言葉に俺は引っかかった。

 給料分の仕事をしているのならば引率の教師は生徒の話をしっかりと聞かないといけないはず。

 なのにそれをしていない梅州をあえて石掛は、“給料分の仕事をする男”と表現した。

 それが意味することはつまり、梅州は宍戸達に買収されている、ということ。

 梅州は買収されているがために今俺たちが何を教師に言っても、宍戸達に関することは聞き入れてもらえないだろう。

 クロエもそのことに気づいたようで、梅州を少し睨む。


「あなた、買収されたのね」


「さすがクロエお嬢様、固有魔法使いでいるだけはあるな。そうだ、この教師は俺たちが買収した。だから俺たちがここで何をしようとも奴は見逃してくれるのさ」


「……汚いわ」


「汚い? 犯罪者の娘に言われるとは心外だ。これでもくらえ!!」


 そう言うと、石掛はデバイスを手際よく手にはめるとその手で床を殴る。


「——スタンバイ、石の息吹(ロック・ブラスト)!!」


「——っ!?」


 石掛に殴られた床はたちまち隆起し始め、左右に割れる。

 そしてその割れた床からまた新たな石柱が夏草のように生えて、石柱の先端はクロエの頭を狙った。

 クロエはそれを察知し、さっと身を翻して避ける。


「何をするのよ!?」


「ふん、俺もお前を流石に見くびっていたようだな。でも今度は手を抜かない。——どうする、今のうちにこの部屋を出ないともう一発お見舞いするぞ」


「誰があなたの言うことなんて……」


「クロエさん、皆さん、出ましょう! ここは危険です!!」


 俺の後ろで震えていた土部がいつの間にかクロエの手を引っ張って外に出ようとしていた。

 それにつられてりったんと箭原も外に出て行く。


「聞き分けのいい奴だ、よかったなお嬢様、命拾いして」


「ちょっ、土部くん!? 手を離して、私はこの人たちに……」


「いいから出ましょう!! 早く!!」


 土部は額に大粒の汗を浮かべて外に向かって走る。

 傍観を決めていた俺も、流石に外を目指すことにした。

 宍戸達のやり方は気にくわないが、逆にちょうどいいかもしれない。

 この部屋はどちらにしろ危険だ。

 なら地表に近かった、もともと宍戸達の調査場所だった場所に行った方が安全なのでそこで作業すると言うのは悪い話ではない。

 しかし宍戸達は俺たちをそう簡単に逃がしてくれるわけではなかった。


「待て」


 俺たちがこの部屋を出ようとした時、扉の陰からそれを阻むものがいた。


「——杉崎!?」


 土部が目を見開く。

 そこにいたのはもともと俺たちの班のメンバーであった杉崎であった。


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