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58、刻まれていく因縁

 少しカビ臭いこの部屋の壁面はびっしりと絵が描かれている。

 魔法陣や象形文字、そして絵……ここには古代の文化がしっかりと根付いていたことが壁面を見ることで理解できる。

 その中でも壁のある一部には紙で「危険:近寄らないこと」と張り紙がしてある。

 これは目の前にいる教師、梅州が先ほど貼ったものだ。


「みんなもわかっていると思うけど、ここの罠は危険だから近寄らないようにね」


 梅州は彼を取り囲む五人の生徒、——俺、土部、箭原、りったん、クロエ——と目を順に合わせながら楽しげに話す。

 対して俺たちはというと不安な空気が流れていた。


「もちろん分かっているわ。先生もわかっているのならばこの部屋の調査をやめた方がいいと思わないのかしら」


 クロエが鋭い目つきで梅州を睨む。

 多分、気持ちはここにいる俺たちは皆同じだ。

 この教師に振り回されることで俺たちが危険に晒されているのはおかしいと思う。

 しかし、そんなクロエの言う事にも全く気にかけずといったようで教師はハハハと笑うと、


「そうかもね。では各自で調査を始めてくれるかな」


と指示を出した。


 しぶしぶ俺たちは言われたように魔法陣の調査を始める。

 俺はなるべくりったんの近くで作業をする事にしようと思ったが、彼女の近くにいるクロエが目で「あっち行け」と追い払ってくるので少し遠めの壁の近くで作業を始めた。

 隣には土部がいた。


「網島くんもこの場所が怪しいと思ったのかな?」


 彼は顎に手を当てながらニヤリと笑う。


「土部……、お前、なんか楽しそうだな」


「うん。実は昨日この部屋に罠があるのを見てすごい衝撃で眠れなかったんだけど、その分ワクワクしてきたんだ」


「ワクワク? 怖いわけではなく?」


 俺は彼の口からそんな言葉が出てくるのは少し意外に感じた。

 土部の行動は規則正しいようなイメージがある。

 また見た目からもメガネをかけた前髪パッツンの真面目くんが、危険な場所を見てワクワクなんて言葉を使うのはとても思えなかったからだ。

 土部は俺に好奇心の理由を教えてくれた。


「もちろん怖いって言うのもちょっとある。でもこの部屋には魔法省のプロですらも見逃したものがあるって言うことは、他にも何か眠っている可能性があるってことだよね。そう思ったら、居ても立ってもいられなくなったんだ。僕たちは運がいいのかもしれないね」


「……なんか、意外だったな。土部がそんなにはしゃぐなんて思わなかった」


「そうかな? でも普段だったらもっと落ち着いて行動するかもしれないね」


 そう言うと土部は壁面の絵を指でなぞる。

 そこには家のような箱の中に男女とそして小さい人間——赤ん坊だろうか?——が描かれた、この遺跡が作られた当時の生活風景が現れているような絵。

 その家の箱の入り口ではいかつい四体ほどの土人形が扉を叩いていた。


「これ、とっても変わってる絵だね」


 土部が目の前の絵を指差す。


「そうだな。見方によってはこの家の住人は土人形に襲われているように見えるな」


「襲われる……。そう言われると親近感を感じてしまうよ」


 土部はふと絵から目をそらしたように見えたが、また絵に目を向けると話を続ける。


「僕の家は固有魔法使い代々仕えるただの魔法使いの家系でね。……僕の家はなかなか頑張って働いてきたんだ」


「……」


 語り出した土部の横顔は少し儚げだった。


「まあ、働くといっても雑用係みたいなものだね。車の運転手とか、固有魔法使いの家の掃除とか……。両親共に同じ家に使えていて、それはもう固有魔法使いのご主人に心酔しきっていたよ。親の口癖は「私たちには魔法の才能がないから、固有魔法使いの方々が社会で活躍できるようにご奉仕しなさい」って何度も言ってたな」


 それから土部は黙る。

 彼はじっと目の前の壁画を見つめており、きっと深く何かを思い出しているのだろう、拳を握りしめたのが見えた。


「僕もきっと、そうなんだろうなって、能力のない僕たちはきっと固有魔法使いに使えていくのが正しいことなんだろうなって思ってたんだ。…………そんなある日、学校から帰ると家の周りに近所の人たちが群がっていたんだ。嫌な予感がして隣のうちのおばさんに「何があったんですか?」って聞いて見たんだ。…………そしたら、いつもは「正男くんは良い子ね」って褒めてくれるおばさんが血相を変えて、「いたぞ! 犯罪者の息子だ!!」って僕の腕を掴んだんだ。僕は何が起こっているのか全く分からなかったよ……」


 土部がため息をついた時に、俺たちのいるこの部屋に笑い声が響いてきた。

 俺たちは何事かと、声がする入り口の方を向く。


「お〜〜っと、噂通りスンゲェ部屋じゃねぇか。失礼するぜ」


 入り口から入ってきたのは石掛と犀牙、そして気だるそうに頭を書き上げる宍戸だった。


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