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57、コスパで行動する男

 翌日は何もなかったかのように始まった。


「では今日も諸君らには昨日に引き続きこの遺跡を調査してもらい、魔法研究の成果をあげるべく頑張っていただきたい。遺跡の中はどのようになっているかわかったと思うので……」


 朝の日差しを浴びながら、生徒たちが座っている前で教師が拡声器を片手に大声で話す。

 拡声器を持っているのに大きな声で頑張って怒鳴るせいで聞くのも生徒たちはうんざりしていた。

 対する教師はとても熱を持って意気込みを話す。

 まだ太陽も本気を出していない時間帯なのでとても暑いわけではない。

 しかしながら前の禿頭の教師は額に玉の汗をにじませながら今日の遺跡調査にてやるべきことを話していた。

 リンクくん人形はオートにしているため綺麗な姿勢で教師の話を聞いているように見える、が自室の俺はというと当然聞き流している。


「……おい、網島。おかしくねぇか?」


 右のスピーカーから俺を小声で呼び止める声が聞こえた。

 モニターを見ると眉をひそめた箭原が映っている。


「……どうした??」


 俺はマイクを通して応答した。


「どうした、じゃねぇよ。——お前は気にならないのか? 昨日あんなことがあったのに何もなかったかのようにまた遺跡に潜るんだぜ? 流石にまずくねぇか??」


「……そうだよな」


 箭原が言っている“あんなこと”とは、昨日りったんに向かって発動した、魔法省の調査チームが見落としたとされる“罠”のことだろう。

 俺もあんなことがあったため、流石に今日の遺跡調査は中止されるものだと思っていたが、朝合宿所のスピーカーで予定通り今日も調査をすると伝えられたときには、自分の耳を疑ったものだ。

 今もなお話している教師の方を見る。

 下手したら人の命を奪っていたかもしれない危険な罠であったのにもかかわらず、その件に関して目の前の禿頭の教師は何も触れていない。

 ここまで何もなかったかのように振舞われると、もしかしてこの教師はあの一件のことを知らないのだろうか、と思ってしまう。

 俺たちの班の担当になった教師の梅州は適当な人物に見えたため、あんな危険な事件があったのにも関わらず上に報告していない可能性がある。

 昨日とは打って変わって少し不安げに見える箭原が話を続ける。


「まさか、またあの部屋で調査しろなんて……言われないよな?」


「流石に……、な? 調査場所は変更されると思っているけど……」


「お前もそう思うか? あんな深そうな落とし穴を見たのが衝撃すぎて、昨日俺は寝付けなかったんだよ。あの部屋まだ何かありそうだから、またあの部屋で調査するのはちょっと気が引けるな……」


 箭原の言うことは正しい。

 あの部屋にはまだ何かあるが、結局のところ夜のうちに俺も完全に調べきれていない。

 不安要素が数多く残っている。

 そんな状態でりったんをまたあの部屋に入れるわけにはいかない。


「以上、それでは各班調査、始め!」


 いつの間にか前にいた教師は話を終わり、周囲にいた生徒たちも立ち上がっては班に固まって遺跡に入って行く。

 俺たちも立ち上がる。


「とりあえず、梅州先生のところに行こう」


 箭原は無言で頷くと俺の背後に回った。

 どうやら、お前が詳しいことを聞きに行け、ということらしい。

 仕方ないので俺が前を進む形であの適当教師の前まで歩いて行った。


「おっはよう! 君たち。いい朝だね」


「先生、聞きたいことがあるのですが?」


「なんだい? 彼女なら募集中だよ」


「先生は遺跡にしかけられていた罠のことについて学校にちゃんと報告したのですか?」


 単刀直入に疑問に思っていたことを聞く。

 余分なことを話したら、のらりくらりと話を変えられそうだったので、敢えてダイレクトに質問をする。

 対する教師は、そんなことかぁ、と呟きながら、


「疑っているのかい? ちゃんと報告したよ、遺跡に魔法省の見落としたものを生徒たちが見つけたかもしれないって」


と、とんでもないことを言い始めた。


「先生、その言い方だと罠があったなんていうニュアンスが全く感じられないのですが」


「何か問題があるのかい?」


「も、問題だろ!? なんでもっとちゃんと報告しなかったんだよ!」


 俺の背中にいた箭原が身を乗り出してくってかかっている。

 そんな彼をあやすように梅州は笑う。


「ははは、だって気になるじゃないか。僕のモットーはコスパの追求を怠らないこと。あの部屋を少し調べれば、お宝が見つかりそうな気がしないか? コスパ最高じゃないか! それなのにあの部屋を手放すのは勿体無い」


「お前! それでも教師か!? ふざけるな、クソ野郎!!」


「こらこら、箭原くん……だったよね? 汚い言葉を使うものではありませんよ〜」


「……ッく!」


 箭原は頭に血が上っていたので、腕を引いてやることで踏みとどませる。

でも彼が怒るのはしょうがない。

 詰まる所、梅州は教師に向いていなそうだ。

 それなのに教員免許を持っているせいでこのような理不尽が起こる。

 俺はこの教師の動向に注意を向けることにした。


「じゃあ残った皆さん、早く中に入りましょう。そうじゃないと日が暮れてしまう」


 俺たちは昨日と同じ、遺跡の最深部へと潜った。


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