53、新発見にスラマッパギ
洞窟のような遺跡からの探索を中止し、地上に出てきたときには既に日が落ちかけていた。
俺たちはこの後の予定は班で動くことはなかったのでここで各自の部屋へと別れる。
別れ際、教師だけが能天気に笑いながら手を振っていたが、生徒たちの顔色は皆よくなさそうだった。
まさか命に関わる罠が自分たちに割り振られた場所に残されていたとは誰も思ってなかったはずだ。
今度は場所を変えて魔法陣の研究を行うことになるだろうが、また自分の命が狙われているかもしれないと考えると気が重い。
特にりったんは顔がこわばっていたが、大丈夫だったろうか?
遺跡の罠の一件以降、クロエがりったんを気にかけて色々と話しかけているようだったけど、あの罠が合宿のトラウマになったらかわいそうだ。
彼女の調子はまた今度クロエにでも聞いてみよう。
リンクくん人形は食事をうまいこと抜け出しその後の風呂もすませたが、実際の俺はというと、今、自室で焼きそばを頬張りながら六枚のモニターを見つめている。
気になることがさっきの遺跡にはあったので、リンクくん人形の代わりにドローンを使って先程の罠があった部屋を調査していた。
「ここだ」
カビ臭い遺跡の一部屋にある壁画は一直線にヒビが入ったようにズレており、床には何かを引き摺ったような痕跡が見受けられる。
カーソルを合わせてエンターキーをタン、と軽く押すと気になっていた場所が拡大された。
引き摺ったような痕跡を観察してわかったことは、ここ最近につけられたものらしく、白く引っかいたような跡である事。
この跡は小さいキズのようであるが、深めに抉られているので、ネズミなどの動物がつけたものではないと思われる。
つまり最近、誰かがこの遺跡に入ってこの部屋にこのようなキズをつけたと考えても良い。
この見過ごしてしまいそうな跡は一体何によってついたのだろうか?
りったんの罠の危険を知らせるアラームがなる直前、俺はこの些細なずれと痕跡を見つけて違和感を持っていた。
まず遺跡内のこの部屋は、他の部屋と違って一回りも小さいこと。
そしてもう一つはこの部屋の保存状態は他の部屋よりも格段に良く、壁画がすすけて汚れているところもほとんど見当たらないのに、この一部分にだけはなぜか“ズレ”と言うほころびと小さな傷跡があること。
この二つの違和感が俺を調査に駆り立てた。
「ずれが線状になっている……、他に特徴はっと…………」
詳しく調べる前に残りがわずかとなった焼きそばを口にかき込む。
焼きそばは自分がつくれる少ない料理のうちの一つだけど、いつもそんなに入れないソースを多めにしてみたら案の定味は濃くなって、口がすぐに乾いてきた。
こんな時にジジィがいてくれたらもっと美味しいものが食べられたに違いないけど、彼は今タイを楽しくぶらついている頃だろう。
そういえば聞いてなかったけど、ジジィはいつ帰ってくるんだろうか?
「アイツ、最後まで話はぐらかしていつ帰ってくか教えてくれなかったな……」
ジジィは俺が信頼している数少ない人物の一人だ。
大切な人なので、俺もちゃんと帰る日くらいは聞いたのだが、その都度、
「そうだ坊っちゃま、お土産はトム京バナナでよろしいでしょうか?」
「いや、トムヤムクンと東◯バナナまぜないで!?」
とか、
「そうだ坊っちゃま、齢六十一にしてペットを飼いたいのですが……、お許しいただけますでしょうか?」
「ペット?」
「はい、いるとシャワーが無くて済むらしいですぞ」
「いや、象は飼っちゃダメだからね!?」
とか、
「坊っちゃま、…………スラマッパギ」
「それ、インドネシアの言葉だからね!? タイの挨拶じゃないぞ!!」
とか言ってはぐらかしてくるせいで、結局帰ってくる日を教えてくれなかった。
まさか、この事務所が嫌になって帰ってこないとかないだろうか?
いやいや、俺が信頼している人物に限ってそんなことは……。
……信頼している以上、これ以上悩むのはやめておこう。
面倒臭くなって適当にジジィをタイへと見送ってしまった自分にも非があるけど、そろそろ電話しようと思っていたところだからこの問題はすぐ解決するだろうと思い、ひとまずおいておくことにする。
代わりに、モニターに映る壁のズレを注意深く観察した。
「壁画も特に怪しいところはなかったしな……」
りったんが罠にかかりそうになった事で他に罠がないか俺はドローンでこの部屋をくまなく探したが、あの吹矢と落とし穴を起動する以外の魔法陣は見当たらなかった。
「となると、このキズの近くを中心に色々と考えたほうがいいか」
このキズは明らかに不自然だ。
特にこの壁画も線状に綺麗にズレているということが気になる。
このズレには一体どんな意味があるのだろうか。
ん? 線状に綺麗にズレているのが気になるな……。
そしてその近くには何かを引き摺ったような跡……。
「もしかすると……」
俺はこの遺跡の内部の地図を3Dマップにしてモニターに広げた。
この地図によると、この洞窟はとぐろを巻いたような螺旋状で、ここまでにくるのに洞窟の中をぐるぐる回って下ってきたらしい。
その洞窟の道の円の内側には空間を余すことがないように部屋が作られ、配置されている。
3Dマップの最深部にある部屋に赤い点が表示されているが、これは現在ドローンがいる場所を示している。
ここで俺は奇妙なことに気づいた。
洞窟の近くに作られる部屋は、なるべくスペースを無駄にしないように一杯一杯に作られているのがわかるが、今ドローンのいるこの部屋には少し余裕がある。
なぜこの部屋も空間を無駄にしないように作られなかったのだろうか?
ここまできて俺はなるほどな、と呟いた。
「このズレた壁の向こうには、隠し部屋があるのか」




