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51、本当に当たりの場所なのか

「で、いつになったら着くんだよ? ——本当にそこ、あたりの場所なのか? こんなに深く潜ってもまだつかないとか俺はモグラじゃねえ」


箭原(やはら)くん、そうやって愚痴を言っても雰囲気が悪くなるだけだよ。大園さんが引いた場所は間違いなく当たりだ。間違いない。この僕が保証する」


 目の前を行く土部(どべ)が箭原をなだめる。

 今、俺たちは遺跡に入って既に一時間歩いていた。

 この遺跡は洞窟をベースにしたものらしく、進めど進めど白熱電球が照らす鍾乳洞とつららを逆にしたような石筍が広がるばかり。

 遺跡の特徴といえば、時々昔の人が手を入れたであろう部屋や、そして人工的に切り開かれた道が時々現れる程度である。

 俺も最初はこれが世に聞く石灰石(せっかいせき)か、これが世に聞く石筍(せきじゅん)か、と見るもの全てが新しく見えたものの、それが一時間も続くと目新しさがなくなり、この単調な映像が味気なくなってきていた。

 列の先頭に目を向ける。

 りったんとクロエは何を話しているのか、おしゃべりが止まることがない。

 推しが楽しそうにしているのを見るのは嬉しいし、そしてそのカナリアのような笑い声が俺の耳を癒してくれる。

 今日も推しが最高です。

 最高すぎて多分何時間聴いても、俺、頭の中でまたリピートしちゃう!

 寝る時にこの笑い声を聞きながら聴いたら快眠できそう!

 いい夢が観れるといいな!!

 と、俺はいつものように推しに感謝して今リンクくん人形を自室から歩かせているわけだけど、俺の目の前にいる箭原は歩くことに疲れて足取りも重くなってきた。

 彼はまた不満を言う。


「第一、俺はせっかくの合宿なんだから、適当にやり過ごせればよかったんだよ。真面目に参加するの、バカらしくないか? なぁお前もそう思うだろ? ——網島?」


「えっ?」


 不意に話しかけられてなんと言うべきか迷っていると土部がまぁまぁ、と箭原を諭す。


「いやいや、やるだけの価値はあると思うよ。魔法陣の調査なんてとても身になりそうじゃないか? 運が良かったら新しい魔法陣を見つけられるんだよ?」


「なんだ、お前。結構やる気があるんだな」


「うん、僕は固有魔法使いになるのが夢なんだ。できることならこの学校で習った知識を使って、新たに魔法を作り、社会の役に立てる人になりたい。だから今回はチャンスなんだよ」


「お前……、相当なマジメくんなんだな。知らなかったよ、同じクラスにこんなマジメくんがいたなんて。マジメくんなんて絶滅したかと思ってたぜ。……もしかして、俺が知らないだけでお前もマジメくんか、——網島?」


「……えっ?」


 箭原は結構距離感がつかめない。

 ちょくちょくさっきから彼は話しかけてくるのだけど、俺は返事をどのスタンスで返そうかいちいち迷ってしまう。

 なんと言おうか俺は黙っていると、背後から声が聞こえた。


「君達は夢を持ってこの合宿に参加しているのか。有望有望。将来が楽しみだねぇ」


 俺たちは立ち止まって後ろを振り返る。

 すると、道の角からこの洞窟には場違いのパリッとしたスーツに革靴という出で立ちの男性が姿を現した。

 彼はこの班にあてがわれた教師、——名を梅州(うめす)という。

 若くて身なりもきっちりスーツをこんな場所で着ているものの少し抜けたところがあり、先程なんて


「あっ、忘れ物したから先行ってください」


とだけ言って地図だけ渡して戻って行ってしまった。 

 しょうがないので俺たちは渡された地図を元に俺たちはこの遺跡の中を下っていたのだが、この若年の教師は一時間たってやっと今、追いついたのだろう。


「あ、遅くなってごめんよ。それにしてもよく迷わずにここまでこれたねぇ。優秀優秀」


 彼は近くにいた箭原の頭をぽんぽんと叩く。

 しかしやられている本人である箭原はあからさまに嫌がる。


「やめろよ、俺は教師だろうと上から物を言う奴は嫌いだ」


「ははは、それは申し訳ないことをしたね。私はそんな気は全くなかったんだけれどね。……あっ、それより君たちの班にはもう一人いなかったかい? 私の見間違いでなければもう一人君達の班にはいたはずなんだけど」


「それは……」


 杉崎はスタート地点で早々に俺たちと別れたっきり、一度も合流していない。

 彼の行方を把握していないのは班として問題があるので、それをこの教師に指摘される可能性がある。

 リーダーになったりったんはそう思って何かを言おうとしたが、それを教師が止める。


「杉崎くんは……」


「いいのいいの、さっき違う班の所にいたのを見かけたから」


「そうなんですか?」


「うん、楽しそうにやってたからいいよ」


 わざわざ知っていることを聞いたのか。

 若いはずなのになかなかいやらしいことをしてくる教師じゃないか、どこでそんな性格になってしまったのだろうか。

 俺の苦手なタイプの人間かもしれない。


「おっ、君が噂に聞く大園さんかぁ! うん、噂通りに美人さんだねえ」


 またもやわざとらしく驚いて見せると彼はこの班の先頭に立った。


「では私が案内するよ。な〜に、目的地はすぐそこだよ」


「は、はい……」


 生徒達五人は皆、このつかみどころの無い教師を前に戸惑っていたが、素直に彼に従って前に進む。

 一定間隔おきに配置された白熱電球の道を歩きながら、俺たちは角を右に曲がると、そこには今までで一番大きな空間が広がった。

 そしてその空間の異質な風景に思わず歓声が上がる。


「うわぁ……! すごいねクロエちゃん!!」


「そうね、魔法陣の原盤なんて初めてで私も少し驚いたわ」


「す、すげぇな! マジで当たりっぽい雰囲気があるぜ!」


「言った通りちゃんとあたりで僕も安心したよ。……これなら見つかるかもしれない」


 壁一面には新聞の活字のような象形文字と魔法陣がいくつも彫刻され、目がチカチカする。

 天井は今までの場所の二倍ほどの高さがあり、なかなかに開放感があった。

 その天井と床を大きな柱が支え、その支えている柱にも何か文字らしきものが彫られていてとても手が込んでいる部屋なんだと理解できる。


「ほら、すぐそこだったでしょう?」


 教師の梅州は口端をにっと吊り上げ、自分の部屋を紹介するかのように喋り始める。


「ここの壁画を君達に調べてもらう予定だよ。ここなんか生活魔法が書いてあるらしくてね、水回りとかの魔法が集まっているらしくて、こっちは農業系の魔法らしくて……」


 皆やる気スイッチが一気に入ったのか、先ほどまで胡散臭そうに聞いていた彼の話を今では集中して聴き始めた。

 確かにこの部屋の雰囲気は非日常的で、宝でも隠されていそうな雰囲気がある。

 彼の話を聞いていたら、少しでもそれが手掛かりになるかもしれない。

 そう思うと、やる気が自然に湧いて出てくるのも頷ける。

 しかしそんな中で、俺だけは話を聞かずに部屋をこっそりとドローンでスキャンしていた。


「ホーネットフォー、3Dスキャン」


 正直、俺は宝探しに興味はない。

 さらに言えば、この部屋の魔法陣は星のように無数に存在するものの、生活魔法が主で大したものがないのは一目で気づいていた。

 それよりも俺は気になるところがあった。


(壁画が少しずれているのと、その下に何かを引きずったような線が付いている。これは……)


 とりあえずそこを重点的に赤外線を照射し、表面だけでもモデリングして解析を始めた。

 ——その時。


 突然のアラームが自室の部屋中に鳴り響く。


「ビーーッ! ビーーッ! ビーーッ! ビーーッ……」


 りったんに危険が近づいていた。


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