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49、部下になると大変だからソロプレイ

 石掛(いしかけ)は自分の手で持つものを信じられないらしく、目を見開いて固まっていた。

 さっきまで握っていたデバイスが気づかないうちにタオルと入れ替わっていて、それがゴミ箱に捨てられていたなんて受け入れがたい事実である。

 きっと今目の前にあるデバイスが本物でないと信じたほうが楽で早い解答になるだろう。

 しかし彼は今なお迷い続ける。

 自分の手に持つデバイスと、そして自分がさっきまで持っていたはずのデバイスが共に本物だったという矛盾の中で。

 固まっている石掛の向こうからモヒカン男が向かってくる。


「嘘……、言うな。俺は……宍戸さんのデバイスを……捨ててない…………」


 石掛とは対照的に、自分が宍戸のデバイスを捨てた張本人に仕立て上げられようとしているせいで声が少し震えていた。

 そんな彼の声に反応して、石掛は意識を取り戻すと口を開いた。


「そ、そうだ! 俺は犀牙が宍戸さんのデバイスを捨てるなんて思えねえ。俺たちはあの方にご恩がある。宍戸さんを裏切るような真似はぜってーしねぇ!!」


 俺は指をさされ、睨まれる。


「目撃したとか言ってるけどな、お前が犯人じゃないのか?? こういう時は第一発見者が一番怪しいんだよ!」


 俺は心の中で大きく頷いた。

 うん、全くもってその通りです。

 俺は石掛にソフトクリームをぶつけると、彼の意識がそれた一瞬の隙を狙って、ドローンで彼の持っていたデバイスと似た紫色のタオルを入れ替え、本物をゴミ箱に捨てさせた。

 しかし、誰もが俺と釜瀬やソフトクリームを被った石掛に注目していたせいで、肝心のデバイスを見ることに集中していた生徒はおらず、途中ですり替えられたなんて気づく者はいない。

 そして人は思っている以上に自分の目の前のものすら見えていないものだ。

 だからこんな手品がいとも容易くまかり通ってしまった。

 俺は彼らの指摘に頭を悩ませるフリをしながら先生に向かって話す。


「そう言われると……、確かに頭しか見ていなかったので、違うモヒカンがあの手袋を捨てていたかもしれないですね……。でも確かにこのモヒカンが捨てていたように見えたのですが……、」


「モヒカンモヒカンうるせーな。犀牙(サイゲ)の頭、バカにしてんだろ! てめー、マジでふざけんなよっ!」


 石掛はそう言うと、殴りかかってきた。


「うわっ!?」


「食らいやがれ!」


 簡単に避けれるのだが、俺はあえてギリギリに避けたように装って、大げさに飛び退いた。


「死ねっ!」


「やめろ、石掛」


 続く拳が大振りに振りかざされるが、それが俺に届く事は無かった。

 石掛はゆっくりと振り返り、声を上げる。


「し、宍戸(ししど)さん!? 待ってください、コイツは俺が……」


「俺に同じ事を二度も言わせるな」


「……」


 そこには肩まで行かないぐらいまで黒髪を伸ばした、目つきが鋭い男が立っていた。

 彼は髪をうっとおしそうに搔き上げると、石掛を見下すように少し睨んでいる。

 しかしそれもすぐにやめ、紳士的に先生へと手を差し出した。


「先生、それは間違いなく俺のものだ。見つけてくれたことに感謝する」


 寺田先生は軽く頷いた事を確認した宍戸は、今度は俺と、遠くにいるりったん、そしてその背後の少女を一瞥する。

 落ち着いている彼の雰囲気はとっても不気味に思えた。

 彼が宍戸グループの息子、宍戸龍騎(ししど りゅうき)か。

 同世代の生徒たちから恐れられる何かを持っているというのもわからない話でも無い。


「石掛、それを渡せ」


 石掛は命令されると、言われるがまま宍戸に埃だらけのデバイスを渡した。

 宍戸はそれを払わずに懐にしまうと、食堂の出口へと足を向け、出て行こうとする。

 石掛は、そんなボスを手で引き止める。


「宍戸さん、待ってください、コイツらに何もしなくて良い……」


「黙れ」


 宍戸は殺る気満々の石掛の胸ぐらを掴むと、地面に投げ捨てた。

 そしてデバイスを素早く装着すると、横たわる石掛に魔法を発射。


「スタンバイ、虚構(ファントム)苦痛(オプレッション)


「おうふっ!? グハァ、ウッ!! オエェ……」


 石掛は地面で転がりながら、何かに蹴られているかのように定期的に跳ね、悶え始める。

 その絶叫は建物をこだまして、聞く者にさえ尋常ではない痛みを想起させるものだった。


「何をしているんだ! やめなさい!」


 事態を重く見て慌てた寺田先生が、宍戸の肩を掴むと、宍戸は魔法を止めた。


「先生、これは身内の問題だ。あんたも黙っていればいい」


「なら身内の問題を学校に持ち込むな。ここでは君達は皆この学校の生徒として扱われる。暴力行為はやめなさい」


 あれ先生? 俺が殴られそうになった時は止めてくれなかったような……、気のせいか。

 それにしても宍戸のあの魔法、解析してみないことには何が起こっているのか容易には想像できない。

 一人でに石掛は見えない足に蹴られているかのように飛び跳ねていたが、石掛が痛みを感じているということは、あの見えない攻撃が精神魔法か物理魔法のいずれかによる作用という事を意味している。

 どちらにせよ今の場面で宍戸は固有魔法使いとして優秀な魔法陣を持っていることがわかった。

 要注意人物となる可能性もあるため、気を抜かずに監視しよう。

 地面で悶えていた石掛は息を切らしながら呼吸をしていた。

 そんな彼を寺田先生は大丈夫か? と聞きながら起こそうとしたが、石掛はその手を払いのけると、


「先生、俺が悪いんです。宍戸さんを責めないでください」


と先程までの先生に対する態度とは打って変わって、弱々しく宍戸の行為を正当化した。

 しかし当の本人、宍戸はというとすでに出口をゆっくり出ようとしていた。

 石掛は重そうな体を無理やり動かして、立ち上がると宍戸を追いかける。

 あのモヒカン野郎も一緒だ。


「ふぅ、一件落着……かな?」


 ついつい今回の件に関してはでしゃばりすぎた感もあるが、あの宍戸という男の存在を認識できただけでも収穫かもしれない。

 あんなよく分からない人物は想像を超えた事をしでかす可能性が高く、それにりったんが巻き込まれてしまう可能性もゼロとは言えないせいで、今後とも宍戸の動向をチェックして行こうと心に決めた。

 今までゼロだった問題児リストに今日で三人も追加された。

 俺がそんな感じに考え事をしていると、背後からシャツを引っ張られたような気がして振り向いた。

 そこには見知らぬ少女が立っていた。


「ぁ、あの……」


 消え入りそうな声で小柄な彼女は目を伏せている。

 しかし話しかけてきたのは彼女の方からなのに、ずっともじもじして一向に喋り出そうとする気配がしない。

 俺はどうしようか迷っていると、彼女はそれを察したのか、ぺこりとお辞儀をして、消え入りそうな声で


「助……けてくれて…………、あり、がとう…………」


と上目遣いでこちらを伺うように見てきた。

 今にも泣きそうな表情である。

 だけど俺はこの見知らぬ少女に感謝を伝えられる心当たりがない。


「えっと、俺、何かしたっけ?」


 とりあえず聞いて見ると彼女は頭をぶんぶんと上下に振る。


「あの……デバイスを見つけたのは…………私で…………」


「あぁ、君はあの時の!」


 石掛に絡まれていた少女か、と一人で納得する。

 確かによく見ると、気の弱そうな感じがあの時の少女によく似ている、というかあの時の少女そのものだった。

 この少女は誰なのかという事を一つ理解できた上で、また浮かび上がってきた疑問を彼女に聞いてみた。


「でもなんで俺なんかに礼を言うんだ? 俺は何もしていないぞ」


 それを聞いた少女はぶんぶんと今度は左右に頭を振ると、


「あの、ままだと……連れて行かれてた……。あなたが注意をそらしてくれたおかげで、私は助かったの……」


と少し安心したかのように胸に手を当てる。

 なるほど、俺が石掛の注意を引きつけたことに勝手に感謝しているのか。

 声が小さく聞き取り辛かったが、少しずつ何が言いたいのか聞き取れるようになってきた。

 耳が慣れてきたのかもしれない。

 しかしとりあえず念のために先ほどのソフトクリーム騒動は意図的でなかったと釈明しておいた。


「でも俺は注意をそらしたくてあんな事をしたわけじゃ……」


「じゃあ……。 なんで……犀牙くんがゴミ箱にデバイスを捨てたって、嘘をついたの……? 私が見つけたのは、絶対に本物のデバイス……だったと思う」


「犀牙? あのモヒカンか。いやぁ、勘違いで時に口走っちゃうことも俺は良くあるから、もし違ってたらあのモヒカンくんには悪い事をしたな」


「私には、あなたが……嘘をつく人には見えないの…………」


 そうか……分かった。

 この小さい子、人を見る目がないみたいだ。

 俺はたくさん嘘をつくし、なんならこのリンクくん人形だって嘘の塊といっても過言でない代物だ。

 現にこの数分の間にも三、四個嘘をついている。

 しかし目の前の少女は目を輝かせながらこちらを見上げてきた。

 そんな困った俺の様子を見かねたのか、いつの間にか近くにいたクロエが話しかけて来た。


「ねぇ、この人は嘘をとってもつくのよ。あなたは人を見る目がないようね」


「クロエ……!?」


「ぅうん、違うもん……。この人は、正義のヒーローなんだもん……」


 俺は何にもしておらず、戦闘も、ひいては直接的に助けようとした訳でもないのに、この少女の中で俺は勝手に美化されていっているように感じる。

 それにしても……、ヒーローか。

 ただの引きこもりなのに、“ヒーロー”と真逆な事を言われて変な感じがするな、と心中穏やかでない。

 引きこもりがヒーローなんて呼ばれる時代がくるなんて、明日の天気はカエルが大量に降って来てもおかしくない。

 俺が黙っていると、クロエは一つため息を吐いた。


「で、あなたは誰なのかしら?」


「わ、わたしは……、おっ、小山内、です」


「小山内さん、覚えておくわ。私はクロエよ。で、ビジネス野郎は今度はこの幼女に手を出そうとしているのかしら?」


「幼女じゃ、ないの」


「あの小山内さん、違うところを否定してくれると助かる……」


 こうして、引きこもりはガラの悪い三人のにいちゃんと幼女と面識を持った。

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