42、移動時間が世界で一番無駄な時間だと思う
そしてなんやかんやでバスの中。
三泊四日の研究合宿の初日。
学校で朝7時に集合してかれこれ三時間ほどバスに揺られているが、クラスの者達はまだ元気が残っているようで、たくさんの鳥が騒いでいるような会話は途切れることはない。
リンクくん人形は中央から少し後ろにずれた席に座っていた。
隣には、土部勝男、という真面目な男子が眠っている。
彼は俺と同じ班になったのだ。
このバスの座席は班でまとまっており、必然的に班のメンバーと席は近くになる。
幸いなことに彼はガタイがいいわけではないので席が狭くならず、また彼も積極的に自分から喋ることもなかったので非常に快適であった。
もっとも、座っているのは人形であるので自室にいる俺が気にすることでもないのだけれども。
後ろにはクロエとりったんが座っており、何やら楽しそうに会話をしていた。
彼女達も同じ班になったのだ。
余り物、という言い方はよくないけれどまだ班が決まっていなかった者同士が集まっていたら、担任の寺田先生に自然に班としてまとめられていた。
クロエも決まっていなかったらしく、班決めの時には一人であっちへ行ったりこっちへ来たりとふらふらしていた。
てっきり既にどこかでグループに拾ってもらっていたかと思っていたら、彼女は意外にもクラスに馴染めていないらしい。
この班にはあと二人、杉崎と箭原という男子がおり、リンクくん人形の前の席に座っていた。
彼らは彼らで仲がいいというわけでもなく、二人ともそっぽを向いている。
こんな構成のこの班は、はたから見ると前途多難な班に思えるが俺にとっては非常に都合の良い班だと思う。
りったんの近くにリンクくん人形を配置でき、必要があればクロエに助けてもらえばいいし、何より必要以上に班員と関わることもなさそうだ。
おかげで自室の俺はこの合宿の準備に集中して取り掛かることができた。
バスの一キロ後ろをトレーラーが追いかけているが、このトレーラーにはドローンだのリンクくん人形の充電装置だのが山のように積まれており、バスと一緒に遺跡の近くにある合宿所を目指している。
このトレーラーの準備に一番手間がかかったが、とりあえず予定通りに事は進んでいる。
「はぁ……、ちょうどひと段落、といったところかな」
ジジィがいないので一人で全て準備をこなすのは正直骨が折れたが、案外うまく行くもんだなと自分に感心した。
しかし実のところはというと徹夜で寝てない自慢なら負けないといってもいいほど寝ておらず、体はだるいし頭も熱い。
器用にこなせているようで、無理をしているだけのようだ。
ベッドに横になるため俺は席を立ってひと休憩しようとしたところ、急なアラームが俺を引き止めた。
「!?」
このアラームの音はりったんに危険が近づいている信号。
急いでモニターに向き直る。
バスは林道に差し掛かっていた。
中の雰囲気は先ほどと愛も変わらず和気あいあいとしており特に異変がない。
しかし外のドローンのカメラに切り替えたところ、上空に小さな影が写り込んだ。
映像を拡大すると拳ほどの大きさの石が三つほど、ものすごいスピードをもってバスめがけて飛んで来ていた。
あんなのがバスに着弾すれば木っ端微塵である。
その前になんとかしないと。
ドローンで直接射撃しようと思ったが、ドローンは平面に固定しないと目標を貫く精度が格段に落ちてしまう。
ここはリンクくん人形にさりげなくなんとかさせるしかない。
リンクくん人形を意のままに操る事のできるヘルメットをかぶって椅子に腰掛ける。
そしてリンクくん人形に意識が乗り移ったのを確認すると、シートベルトを外してさっとバスの窓を開けた。
「う……ん? ……アミシマくん!?」
隣の土部が窓が開いて聞こえた風の音に目を覚まし、窓から身を乗り出している俺に驚いていた。
「すまん、ちょっとトイレ!」
俺は窓から飛び降りて受け身を取る。
結構なスピードで転がったが、幸い、壊れている箇所はなさそうだ。
茂みに隠れると制服を裏返して光学迷彩着る。
これは俺お手製の光学迷彩と制服のリバーシブル、早速役に立つ日が来るとは思っていなかった。
念のためにと考えていたあの日の自分に乾杯。
自分の姿が消えたことを確認すると、バスにワイヤーを引っ掛けてバスの屋根に飛び乗り、接近する石と向き合った。
あと数秒もすれば俺の立っている場所に着弾するだろう。
三つの石の着弾地点を予測する。
「スタンバイ、シミュレート」
俺は片手にサイリウムをさっと構えると、腰を低くして迫る三つの小隕石に対して備えた。




