38、あガガガがうあガウガ!?
「言っただろ? 同じ手は通用しないって」
俺は気流に乗って引き寄せられながらも、目の前で拳を引き絞るゴリラに警告した。
しかし御構い無しに、ゴリラは右足を踏み込みながら俺の腹めがけて拳を突き出してきている。
しょうがない、と俺はため息をつきながら腰に手を当て、そして腰からいつの間にか伸びていたワイヤーロープを手前に引いた。
「恨むなよ、——ショック!!」
リンクくん人形から大電流がほとばしる。
その電流はロープを伝いながらものすごいスピードを持って走っていった。
紐の先では、ちょうど黒江氏の踏み込んだ右足が接触したところであった。
電流は足へ伝わってゴリラに流れ始める。
ゴリラはビクッと肩を震わせたかと思うと、そのまま小刻みに震えながら固まった。
「あガガガがうあガウガがキフガああアああ!?!?」
罠にかかった猛獣は悲鳴をあげながら震えるも、拳を突き出そうとしたまま体は思うように動かない。
体から若干煙が登ったように見えたが、それは先ほどダンボールに突っ込んだときについた土埃が振動で撒き散らされているだけだろう。
決してゴリラの肉が焼けているわけではない。
「もう十分か」
俺はワイヤーロープから手を放す。
その途端にゴリラは肩の力も抜け、地面に倒れこんだ。
「ぉのれぃ……、ぁらか じめぇ、仕込んでぉったかぁ……」
先ほどの電流が効いているんだろう。
若干、ろれつが回っておらず、何を言っているか聞きづらい。
俺は倒れこんだゴリラの元へと歩いていく。
「フハハハぁハ、参った、参った……。貴様にぃしてやられたなぁ…………」
地面に這いつくばりながらも、ゴリラの眼光は鋭い。
「現代人の忠告を聞かないからだ、——古代人」
ゴリラは肩で息を切らせながら、無理やり舌打ちをしようとしたが、舌が回らないせいで空気をヒューヒューと吸い込んでばかりである。
無理だと悟って、彼はやめた。
俺はそんな悲しい状態に追い詰められてしまった彼の元に近寄ると、しゃがみこみながら、聞き損ねていたことを尋ねた。
「一つ……さっきお前に聞き損ねたことがある。なぜ……りったんが生き返りの魔法が使えると分かったんだ??」
黒江氏はなぜかりったんが生き返りの魔法を使えると分かっていた。
この事実を知るのは俺と、ジジィと穂満さんしか知らないはず。
この情報の出所を調べなければ、また違う方向からりったんが狙われる可能性がある。
なぜ黒江氏だけをわざわざアリーナへ向かうのを阻んだのか。
それは、この話を第三者に聞かれたくなかったからだ。
俺の質問に黒江氏は眉をしかめると、そんなことか、と呟いた。
「フフフ、なひをひまさら?? むかひより生ひ返ひの魔法が使える者の周りにはとても澄んだ魔力あ取ひ巻ひておるぅ……。それを見れば自ずから明らはなほと。あの小娘の魔力はとても膨大で澄んでおる」
口の痺れは取れていないようで、聞き取りにくいところがあったが彼の口から告げられた内容に俺は驚いていた。
「おい、お前……もしかして魔力が見えるのか?」
「当はり前であろうぅ。……もしや、ひ様らには見えんのか??」
ゴリラは信じられないものを見たかのように、まだ動き辛い両目を無理やり見開いた。
「こっちこそ当たり前だ……。だけど、それを聞いて納得した」
——現代の知識では魔力を可視化することはできない。
それが常識であったし、俺もそう思っていた。
しかし、この古代人を信じるならば魔力は“見える”ものらしい。
どのような方法を使えば魔力を見ることができるのかという謎がまた一つ増えたが、りったんの能力になぜ気付けたかという疑問に納得の行く答えを得ることができたしそれを考えるとこの情報はとても大きな収穫であった。
「まぁ良ひ……、それより貴様、このわたひをどうするつもりだ?」
少しずつゴリラの滑舌も良くなってきたところで、俺は彼のひたいに手を当てる。
「長い眠りからようやく覚めて色々やりたいことはあったかもしれないが、また眠ってくれ……。お前はとっくの昔に滅びた人間なんだ」
「フフフフフ、なぜか抵抗する気もおひん……」
「じゃあな。……スタンバイ」
俺の右手が淡い輝きを放ちながら、白く発光する。
ゴリラの額の中央に点が現れ、次第に点と点が繋がり、それは一つの魔法陣となった。
「悲願は達成されなかったが、珍しいものが見れた……。私の負けだ」
ゴリラは眼前に浮かぶ魔法陣を見つめながら、表情を緩めた。
俺の魔法陣からは白い線が伸びて行き、ゴリラの顔を舐める。
「デリート」




