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33、ゴールデン・メン


 莉子めがけて魔法が発射される。

 クロエはそのことに気づくと、何かをしなければ、という気持ちがはやって莉子に届きもしない手を伸ばした。


「大園さん、——危ない!!」


 しかし無情にも時間は止まってくれずに、来るべきその瞬間は迫ろうとしている。

 そして魔法の脅威に狙われている莉子本人はというと、自分がもうダメかもしれないと悟りつつも、諦めてはいけない、この子だけでも助けなければと必死に子供を抱きしめていた。


 敵の十もの魔法陣が完成しようとする。

 アリーナに光が溢れた。


 その光はとても眩しく、その場にいたものが目を細める。


 ——そして。




 アリーナの中は急な出来事にしんと静まり返る。

 しかしそれはテロリスト達の魔法陣のせいでこうなってしまった訳では無い。

 彼らの魔法陣は成功しなかった。


 それだけでは無い。


 ここには先ほどまでの出来事がなかったかのように、綺麗に脅威が消え去っていた。

 なぜかテロリスト達が全員いなくなっていたのだ。


 しんと静まった会場の中、莉子は目を開けると、腕の中の小さな女の子はどうしたの、といった表情で彼女を見上げていた。

 少女にとっては自分が危険に晒されていたことにすら気づいていなかった。


「無事だった……、良かった、本当によかった!」


 そんな女の子の無傷な様子を見て、莉子は目の端に涙を浮かべてまた強く抱きしめた。


「ねぇ……、おねぇちゃん痛いよ……、でも……泣かないで…………」


 小さな彼女は自分を抱きしめてくれている莉子に戸惑いつつも慰めていた。

 よくできた女の子である。


 周囲の観客達もそれにつられ、自分の無事に安堵し、中には飛び上がったり、隣の者と抱き合ったりとホット一息つき始めたところで、莉子の腕の中にいた少女は何かに気づき、空を指差した。


「ねぇ! お姉ちゃん! あれ見て!!」


 莉子は涙を拭うと顔をあげる。

 そして少女の指差す方を目で辿った。


 それは莉子だけでない。

 近くにいた蒼井や釜瀬、クロエも何があったのかと少女の示す方向へと顔を向けた。


 上空に広がるのはとても奇妙な光景だった。

 そこには金と銀のひらひらのついたタイツを、ぴっちりと着た多くの男達が笑顔で空を飛んでいたのだ。

 頭には金冠をつけて、背中には透明な羽まで生えている。

 彼らは蝶のように舞いながら優雅に宙を漂う。

 金銀のひらひらは、風でなびき、星屑のように天井を覆った。

 それは妖精のようで、男達が飛んでいるとは思わせない優雅さを兼ね揃えていた。


「ええっと……あれは…………何かしら?」


 クロエはとてもシュールな光景に戸惑った。

 しかし目をこらすと男達は全員、先ほどのテロリストであることに気づいた。

 そして自然と、こんな芸当ができるのはリンクただ一人であることを直感的に理解していた。


「ええっと……。プロの引きこもりって………………もしかするとどんな人の手にも負えないかもしれないわね」


「フォッフォッフォ、どうじゃ、よくできているでやんす?」


 そう言いながら、クロエに先ほどある兵士に脅されていたおばあちゃんが近づいて来た。

 そんなおばあちゃんの声にクロエは聞き覚えがあった。


「ジェイガンさん! ……先程は素晴らしい演技でしたのに、いまはすっかりキャラ崩壊しかけていますわよ」


「おやおや、左様でございますか」


 おばあちゃんはないヒゲを撫でながら、笑顔で親指を立てた。


「坊ちゃんがお待ちです。さぁ、行きましょう」


「えぇ、行きますわ……。あとで何をやったのか、ちゃんと説明してくださいよ」


 お婆ちゃんの変装をしたジジィは出口に振り返る。

 そんなジジィの背中をクロエは追った。




 時を同じくして、アリーナにはなんとも可愛らしい、ポップでチャーミングな曲が流れ始めた。

 それと共に、今まで黒かった中央に設置されている巨大ディスプレイにデカデカと


 “ ド ッ キ リ  大 成 功 !! 

     〜スタダ5周年おめでとう!〜”


と文字が表示され、その文字の間をCGの星が飛び交っていた。

 ()()()()の四文字を見た莉子は安堵する。


「な〜んだ、ドッキリだったのか」


 ドッキリにしては多少真に迫っていた気もするが、画面に表示された手の込んだCGを見る限り、おそらくスタッフさんが一生懸命温めて来たドッキリなんだろう。

 と、莉子はスタッフさんが自分達に仕掛けたサプライズなのだと勘違いした。


「……ごめんね、びっくりさせて。私行かないと」


 立ち上がり、自分を見上げる女の子の頭を撫でる。

 不思議そうにしている女の子に微笑むと、莉子はステージに走った。

 曲の前奏はグループのメンバーの山田摩耶(ヤマダ マヤ)が繋ぎ始める。


「……ということで、私たちも知りませんでしたが、ドッキリだったみたいです! いやぁ、ちょっとスタッフさん! やりすぎですよ!! でもドッキリでよかった〜。……それでは! 場もあったまったとこで、新曲、行ってみよーーー!」


 観客もそれに見事流され、笑いながら歓声をあげた。

 宙に浮いている妖精と化した男達も一層元気に空中で踊り始める。


「イェ〜〜〜イ!」

「フォオオオオオオォォ!!」


 ドッキリの演出に多少最初は観客も戸惑いを見せたものの、次は目玉の新曲とだけあって、会場は今日一番の盛り上がりをみせた。




 ——そして。

 会場の様子をモニターで見ながら、アリーナから離れた六畳の部屋でひとりお茶を飲んでいる少年がいた。


「無事、成功してよかった」


 少年にはこの計画が成功する確信を持っていたものの、本当にその通りに()()()()現実になってくれて安心していた。


「まだ……次の仕事があるな」


 ひとりでそう呟くと、彼はまたキーボードを忙しく操作させ始めた。

 六枚の画面にはすでにアリーナの様子は映されておらず、違う場所が次々と映し出される。


 この少年——網島輪久は決してこの事件の中、この六畳一間から傍観を決めていた訳ではない。

 彼は何を水面下で行動していたのか。


 ——それを知るにはライブ前まで遡る。


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