31、相克する”魅力”と”命令”
迫力のあるテクノポップがアリーナにこだまし、ファンの歓声が上がる。
ここではアイドルグループ “ スターダスト ” のコンサートが始まっていた。
「うりゃ!」「おい!」「うりゃ!」「おい!」「うりゃ!」…………
観客は掛け声で盛り上がる。
観客達は基本、男性中心で若者が多い構成だったが、スターダストのファンの年齢層はとても幅が広いため幼稚園児から果てにはおじいちゃん、おばあちゃんといった世代までこのライブを楽しんでいた。
急にステージが暗転する。
そして次には強い光が観客に向かって発せられていた。。
「うおおぉぉ!!」「イエーーーーィ!」
ステージ上には、5つのシルエットが浮かび上がる。
ステージの奥からの光が五人のアイドルに後光のように射し、白い光の中に五つの黒い影が立っていた。
「み〜んな〜〜〜! 準備オーケーー!?」
観客の熱気は最高潮まで達する。
五人のアイドルには観客の視線が一極に集中していた。
流れ出した音楽に合わせて彼女たちは踊り、そして歌う。
ファンはそのリズムに合わせて手に持ったサイリウムを振っている。
——ファンとアイドルがシンクロする。
その一体感のある光景に、初めてライブを見たクロエは度肝を抜かれた。
(とっても、……熱い!!)
アイドルの良さというものを、クロエは今まで微塵も感じたことがなかった。
存在は知っていたもの、同じ年代の女子がただ歌って踊ってちやほやされるだけの存在だと正直思っていた。
……見くびっていたところがあった。
しかしクロエは目の前に広がるファンたちがアイドル達に惹きつけられている光景は、あの五人のアイドルたちがただ可愛いから、ただ踊りがうまいから、ただ歌がうまいから生み出せるものではないと直感で悟った。
それは彼女達が観客を楽しませようとする “ 努力 ” なのか。
はたまたそれは生まれ持った“ 才能 ” によるものなのか。
——じっと見つめていてもクロエには分からない。
(…………こんな尊いものを、誰にも台無しになんか…………させちゃいけない!!)
クロエは最初、テロリスト達を、いや、大好きなお父様が悪事を働くのを止めるためにリンクのバイトを手伝おうと思っていた。
しかし、今は違う。
ファンの思いが一つになるとともに、クロエも自然と五人のアイドルを応援していた。
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湿り気の多い曇り空、多くの人が集まっているアリーナをトラックが一台一台やってきては囲み始める。
徐々に黒いトラックは増えて行き、それは滞りがなかったドーム周辺の車の流れを止めつつあった。
人々の中にはマナーが悪いトラックの集団に交通を妨げられ、顔をしかめる者もいた。
しかしここに不満を言うものはいない。
人々は皆、その行列に不穏なものを感じ取っていたのだ。
彼らはある一定の距離をとってトラックの前から通り過ぎる。
そして彼らの行動は、間違いではなかった。
彼らには見えていないトレーラーの中身。
それは外から見えない個室であり、長椅子が壁の側面に沿うように2つ配置されていた。
その長椅子には、武装した兵士たちは向かい合わせでスペースを余すことなく座っている。
——武装したものたちは皆、血気盛んなテロリストであった。
そしてアリーナに向かっているこのトラック集団の——最後尾。
目的地から一番離れたところに位置している黒の高級車の中で、筋肉隆々の黒スーツに身を包んだ壮年男性が腕を組んでいた。
彼は足をせわしなく小刻みに揺らす。
「……なぜ出発が遅れた!」
黒江龍蔵は怒りに燃えていた。
「現在調査中です。原因を究明次第、すぐに報告します」
「それは聞き飽きた! ——もうよい!」
黒江は目の前の運転席を蹴り上げた。
そこには頬に十字の切り傷が特徴的な浅黒い男性が座っていたのだが、彼は蹴られた衝撃でハンドルにつんのめった。
あまりの衝撃に男性は顔からハンドルにぶつかり、クラクションをブブッと鳴らす。
運転手は呻きながら一瞬ひるんだそぶりを見せたが、また慌てたように姿勢を整えると、ハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
そんな運転手の無様な姿を見ても黒江の気は収まらなかったが、彼が追撃の蹴りを運転席に入れることはなかった。
その代わりに、黒江は目の前の男に状況を尋ねた。
「……無事、作戦はできるのか?」
答えようによっては、命はないと思わせるような低い声。
そんな声に震えながらも、しっかりとした口調で運転手は答える。
「……ほっ、報告によりますと、先発に送り込んだ第一小隊以外の隊は予定より二十分の遅れがある模様です。——このままではプランは実行できないかと思われます」
先程まで怒りに燃えていた黒江であったが、時に冷静さが重要だと言うことも知っている。
そこで彼は考えた末に一つの結論を述べた。
「仕方ない、予定とは大幅に違うが、目的地に着き次第作戦を実行せよと伝えろ」
「——は!」
運転手はそれを聞くと、手元にあったトランシーバーにボスの命令を伝える。
その時、アリーナ前の広場にはトラックが十台ほど集まっていた。
その後ろの扉が一斉に開く。
それを合図に中からアサルトライフルを携えた兵士たちが一斉に飛び出した。
扉から溢れ出るそれは川の流れのように淀みがない。
彼らには秩序あった。
向かう方向はそれぞれ示し合わせたかのようにまっすぐで、皆がある目的地へと駆け出す。
その秩序を生むのは舞台が優秀である故か。
それともボスからの圧力から逃げるためか。
——銃の乱射で建物の扉が壊されるとともに、開戦の狼煙が上がった。




