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24、達成された目的

 冷え冷えとした黒い鉄の扉が低い音をたてる。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 開くとそこにはまた扉があり、扉には大きいハンドル車がついていた。

 先ほどの大扉を開けるのにも職員の方が手間取っていたので、この扉を開けるのにはさらに時間がかかりそうである。

 しかしここにいる人間はそれ以上進もうとしない。

 進めないのだ。


「見えるかい? ——あれが悪魔召喚の魔法陣だよ」


 穂満さんは近くの小窓を覗きながら言った。

 ここは日本のとある遺跡から見つかったとされる “ 悪魔の魔法陣 ” の石板が安置されている金庫の中だ。

 照明は申し訳程度のダウンライトが一つ天井についているだけであり、とても薄暗い。

 先ほどまで内装に凝っていた魔法省はどこに行ったのやらと思った。

 予算を使うところを間違えている気がする。

 扉には小さな小窓がついており、俺たちはそこから中の様子を伺っていた。


「中にもまた更に格子がついていて、すごい警備が厳重ですね」


「そうなんだ。なんでも最後に黒江氏が中に入った時、石版を持ち出されないように設置したのだそうだよ」


 先ほどの筋肉役人を頭に浮かべた。

 今の所、彼は今回の事件で最も怪しいとされる人物だ。

 彼の過去の行動も一応は把握しておかなければならない。


「あれは魔法省が作った檻じゃないんですか?」


「うん、次の扉までの鍵とかは魔法省が設置したものなんだけど、あの中の檻だけは別物なんだ」


 確かに言われて見るとデザインは粗末なものでただの鉄の柵であったが、明らかに異質な点がひとつあった。

 ——その檻には魔法陣が多数刻まれていたのだ。

 さすがはエリートなだけであって、複雑な魔法陣を自作の檻に施しているらしい。

 やはりこの建物は国の魔法の権威が集まっているのかもしれない。

 しかし、ここに来てやっと魔法らしい魔法が使われているのを初めて見たとも言えるのだが、そこはあえてスルーしておこう。


 というのも、今まで魔法は生活の簡単な作業、例えば洗濯をして服を畳んだりしたりするようなことにしか使われてこなかったため、歴史的にもまだ研究途上である勘が否めない。

 よってものすごく発展を遂げた機械に頼る人が大半である。

 なので魔法省といえども機械化が進んでいてもしょうがない。


「なるほど、迎撃術式ですか……。この中に入るとたちまちその物体は燃えて灰になってしまいますね。——どこでこんなものを作れるようになったのやら」


「そうなんだよ。だからここに入れるのは黒江氏の許可を取らないといけないんだ」


「だから今回はここまでしか入れなかったんですね」


 なるほど、だからよく調べられなくてもしょうがないか、と心の中で呟く。

 俺は扉についた小さな窓に近寄ると、そこに顔を近づけた。

 格子で囲まれた空間の中央にショーウィンドウのようなガラスの箱が机の上に乗っている。

 その中に土っぽい石板が横たわっていた。普通の人ならばそれに何が書いてあるか見えない。

 しかし今小窓を覗いているのは人形である。

 たとえ持ち出せなくても何が書いてあるか調べることはできる。

 カメラをズームすると石板に書いてある魔法陣がよく見えた。


「どうかい? 網島君には見えるかい?」


「えぇ、はっきりと。……書いてある魔法陣は今まで見たことがないものですから解析には時間がかかりますが」


「——それはすごいね。事件につながるものは何か見つかったかい?」


「いいえ、ただ僕の興味は満たせたようです」


 リンク君人形は扉から離れると背後の穂満さんと顔を合わせた。


「ちなみに話は変わりますが、魔法省の監視カメラの映像とかって見れますか?」


「う〜ん、ごめんね。監視カメラの映像とかは2階のセキュリティルームにあって色々な人が出入りしているからね……。しかもPCもローカルネットだから外部アクセスはし辛いだろうし……。申し訳ないけどここよりもこっそりとは入れなさそうだね」


 確かに、今までこの建物に入ってからそんなに人と顔を合わせていない。

 もともと穂満さんは俺を無理にこの建物に入れるように手配してくれたのだ。

 人に俺のことを指摘されると何か都合が悪いのかもしれない。


「そうですか」


 リンク君人形はそう言うと、丁寧に腰を折り曲げた。


「今日はありがとうございました。では俺はここで帰ることにします」


「もう満足したのかい? なんなら夕飯ぐらい奢るけど……」


 穂満さんはそう言うとまたハッとなった面持ちになった。


「そうだったね、君は食べる必要がなかったね」


「えぇ」


 実際、ここまでで収穫はそこまでない。

 しかし穂満さんは気づいていないだろうが俺たちは目的をある程度達成していた。

 あとはそれを待つだけである。

 入ってきた大きな扉の鍵を掛け直すと、元来た廊下を引き返した。

 こうして、俺は、もといリンク君人形は家に帰ることとなった。



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