22、魔法省への潜入
今朝は曇り空であったが、昼前には雲間から光が差し込み始め、植木の草花をそよ風が揺らしていた。
ここはビルが林立しているとても自然とはかけ離れた環境だが、風は季節を教えてくれている気がした。
もっとも自分は風なんて随分当たってないせいで、感覚を忘れかけているが……。
画面のリンクくん人形から送られてきた映像から、そうかなーって……。
気分だけでも春でいようと思いました、まる。
黒のセダンから降りたスーツ姿のリンクくん人形はビルに囲まれていた。
その中でもっとも高い建物の前で佇んでいたところ、自分を呼び止める者がいた。
「網島くん! こっちだよ!」
「穂満さん、こんにちは」
建物の入り口から駆け足でその男性は出てきた。
中肉中背といった容姿で額には常時汗が滲んでいるものの、それと同時に人付き合いの良さも滲んでいる。
彼は昨日事務所に来た魔法省の役人、穂満政作だ。
「時間ぴったりだね。……ギリギリすぎて来ないんじゃないかと焦ったよ」
「すみません。——以後気をつけます」
画面の中の人形は丁寧に頭を下げた。
穂満さんは頭にハンカチを当てながら、いいのいいのと笑った。
「それじゃあ早速、中に入ろうか?」
「はい、よろしくお願いします」
穂満さんは背を向けると、目の前の一際大きい建物へと歩いて行く。
俺は遅れないようにそれについて行った。
彼に今から入らせてもらうのは魔法省の内部だ。
俺は今まで見たことがないので、魔法省の幹部失踪事件にかこつけて、中に入れるのを楽しみにしていた。
しかし今回の最大の目的は、失踪した幹部のことや、悪魔召喚の魔法陣について情報を集めることにある。
俺は魔法省の内部を散策しつつ、それとなく調査をしなければならない。
大きな二枚戸の自動扉をくぐると、そこにはスミレの花びらを模した絨毯が広がっていた。
少し空いたスペースには綺麗に春の花が活けてあったりと、とても落ち着いた空間がそこにはあった。
「さぁ、こちらへ」
穂満さんは俺を受付の方へと促すと、ペンを渡した。
「——ここで一筆ちょうだい願えるかな?」
受付嬢が紙を手渡してきた。
おそらく外部の者が省の内部に入るときには、色々と手続きがあるのだ。
普通ならもっと面倒なはずだが、穂満さんのおかげで名前を書くだけで良いらしい。
俺は網島輪久と四角い欄に書くと、ひし形のバッジを胸元につけてもらった。
これが入省許可証の役割を果たすらしい。
「これでとりあえずおおかたの場所には入れるはずだけど、どこに行きたい?」
「そうですね、まずはトイレに」
穂満さんは一瞬、ん? という顔をした。
なぜなら今目の前にしているのは網島輪久そっくりの人形であり、トイレに行く必要なんてないことを知っていたからだ。
しかし事情を察してくれたのか、どうぞどうぞと言った。
「そうだよね、とりあえずはトイレで“用を済ませないと”いけないもんね」
「うまいですね。ということで、案内していただけないでしょうか?」
「こちらへどうぞ」
穂満さんはそう言って長方形のゲートをくぐった。
その先には男性の係員がおり、横の看板には“デバイスや危険物の有無の確認にご協力ください”と書かれている。
このゲートは金属探知機で、その先の係員はカバンなどに入っている危険物やデバイスを調べているのだろう。
——やっていることは空港と同じだ。
リンクくん人形は金属をふんだんに使っており、また、色々とまずいものを持ち込もうとしているので完全にアウトである。
ゲートをくぐったら、たちまち機械音に攻めたてられるだろう。
穂満さんは、ゲートの向こうでこれだけは免除が無理だった、と申し訳なさそうに肩をすくめていた。




