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20、スカルフェイス

2018/04/08 誤字を訂正しました

 弾は一直線で標的に突き進んで行ったが、急所を仕留めるための弾が数弾、何かに当たったかのようにそれていった。

 必死で軌道を修正しようとするが、その力には逆らえない。


(なぜ!?)


 理由はすぐにわかった。

 割り込んで来た魔法が盛り土の方からかけられていることに。

 さっき何も喋っていなかったマスク男の両手には、いつの間にか手袋がはめられていた。

 私の抵抗をあの男はすぐに察知し、全ての弾の処理は無理でも、急所を避けるように要所要所の弾に魔法をかけて軌道をそらしていた。


 ——二十ほどの銃弾がキャップ男に着弾する。

 黒い服は破れ、血が滲み出る。

 それは当分の行動を制限するものだが、急所に当たった弾は一つも無いためある程度の処置を施したらまた復活してしまうだろう。


「……やって…………くれましたね!?」


 キャップ男はもがきながらうずくまる。


(——失敗した!?)


 頭で思い描いていた光景と違う現在に戸惑う。

 しかし突然ハッとなって地面を見る。

 そこには先程キャップ男が持っていた銃が転がっていた。


(あれを手にしてトドメを刺さないと!)


 かがんで手を銃へと伸ばす。

 しかし簡単に手に取らせてくれるほど奴らも甘くは無かった。


「そうはさせねぇ!」


 先程狂ったように銃を乱射していたフードの男が、早くも銃を取ろうとする私に気づいて発砲しようと構えた。


(ダメだ……、間に合わない!?)


 今更また木の陰に隠れるような隙はなく、ましてや向こうがこちらの息を止める前にケリをつけられるような手をこちらは持ち合わせていない。

 考えても考えてもどうしようもないという現実が頭を離れてくれない。


(……ここで終わり…………なのかしら)


 今となってはすごく明晰に物事が見える。

 倒れたキャップ男、駆けてくるマスク男、引き金を引こうとするフード男、そして逃げられない私。

 この構図に私は詰んだことを確信した。

 そして抗えない未来に身を委ねようとした。


(——悔しい)


 私は二週間前にはこんなことに巻き込まれるとは思わなかった。

 いつも訪れてくれるちゃんとした明日に何も疑問を抱かず、幸せに暮らしていた。

 なのに今ではテロリストの片棒を担がされ、利用された挙句、果てには裏切られて殺されようとしている。


(……悔しい……だけど…………もうちょっと……………………生きたい……………………)


 一瞬という時間は永遠のように引き伸ばされ、目から涙が溢れ出て来た。

 そして自分の最後を悟る。

 全てを諦め、目を瞑ったその時、フード男は引き金を引いた。


「死ねぇ!」


 銃口から無数の火花がほとばしった。

 男は銃の反動に歯を食いしばりながらクロエに狙いを定め続けた。

 薬莢は方々へと転がるものの、銃声は一定のリズムを保ちながら響き渡る。

 銃は吐き出せるものを全て吐き出すまで鳴り止まなかった。

 その威力は明らかなものである。

 よってクロエの最後に聞いたのは、弾幕が奏でる死のワルツになる“はず” …………だった。


 銃口から煙が上がる。

 それは本来なら仕事をし終えた証拠であるが、銃を握る男の手は引き金を外さなかった。


(……あれ? …………私、生きてる?)


 痛みはどこにも感じない。

 おかしいと思い、クロエはゆっくりと目を開けた。


 ——まず目に飛び込んで来た光景は傷一つない自分の五肢であった。

 そして今の今まで死を覚悟していたせいで、自分の無事に感謝するどころか、むしろ拍子抜けの感がある。


(助かった!?)


 そしてようやく自分の命が繋がったことに安堵した。

 強ばっていた指先が胸をなでおろす。


(でも弾幕はすべて外れたの??)


 考える余裕が出て来て素朴な疑問が湧き上がった。


(私を囲んでいたあの者たちは私を見逃したのだろうか?)


 そんな私の考えを見通したように、周囲で同じ疑問を発する者がいた。


「どうして……外れたんだ!? テメェ、何者だ!?」


 フード男の嫌な声が耳をつんざく。

 声の方向を見ると、先ほどのフード男が目を見開きながら私の方を指差していた。


(——何者? それって私のこと?)


 しかしそれは違うとすぐにわかった。

 今まで気づかなかったことが不思議なくらい近い距離に、“それ”はいたのだ。

 暗めの茶色のトレンチコートに身を包んだ“骸骨”が、そこにはいた。


 しかしそれは完全なる骸骨とはずいぶんと異なっている。

 白い頭部には光沢があり、それは人工的に作られた産物であることを主張していた。

 ぽっかりと空いているはずの瞳孔には黒いガラスが詰められており、口は通気口なような穴が歯のように並んでいるだけで、その顔は仮面ではないかと思った。

 そしてその仮面に私は見覚えがあった。


「……あなたは、あの時の!?」


 私の問いに、仮面は答えない。一瞬口元はニヤッとひん曲がったように見えたが、それはそのように見える仮面なだけであって、実際に笑ったわけではない。


(この仮面が……私を助けたの?)


 状況的にそう考えれば話があう。しかしこの仮面は、“あの時”私を無力化しようとしていたはず。それがなぜ今になって助けたのか、疑問が残る。

 しかしそのことを確認する間も無く、私の目の前にうずくまっていた男が震える手で自分の落とした銃を取ろうとしたのが見えた。


「あぶな——」


 私は危険を仮面の男に知らせながら、とっさに木の裏に飛び込もうとした。だがすぐにその必要はなかったと悟る。


 ——グシャッ。


「があぁぁぁぁぁっ!? あぁっ!? 手が……あぁ!?」


 何かが潰れるような音と共に、絶叫が聞こえた。

 恐る恐る顔を上げると、仮面がキャップ男の腕を踏んでいた。


「離せ! ……離せ!!」


 腕は既に潰れているのではないかと思ったが、キャップ男は必死に仮面の足をどかそうとしていた。

 しかし仮面はどんなに足を叩かれても動じる様子はない。

 この三人組の中で、最も余裕があったキャップ男の顔からは、冷静さは消え、青くなった額からは脂汗が溜まっていた。

 そして数分もがくと、あまりの痛みに気絶した。

 それを見たフード男は銃の弾倉をとても慣れた手つきで素早く装填し直すと、


「……クソが! これでも食らえぇ!!」


と言って、仲間がすぐそばにいるのにもかかわらず、仮面の男に向かって銃を撃ち始めた。

 それに合わせて仮面は、手に持っていた短かい棒のボタンを押す。

 棒の先からは青白い光が縦に伸びた。


(……光の……剣!?)


 そして腰を低く構えると、次の瞬間、向かってきた銃弾をはじき返し始める。

 光の剣は蝶のように舞い、無駄な剣戟は一切ない。

 ——見事な剣さばき。

 見る者は戦いを忘れ、思わず見とれてしまう。


(…………嘘!?)


 人力ではありえない光景に息を飲む。

 ——しかしそれも長くは続かない。

 銃の弾が切れたのだ。


「……何!?」


 フード男はカチ、カチと引き金を確かめるように引くも、その感触は浅く、弾が切れたことを悟った。

 と同時に、仮面はさらに腰を低くすると一気にフード男に距離を詰めるべく疾走した。

 フード男は身を守ろうと腰からとっさにナイフを引き抜いたが、——もう間に合わない。


「——ックハ!?」


 フード男の正中線のど真ん中、つまり“みぞおち”に仮面の鋭い右手の一撃が入ったのだ。 

 まともに拳骨をくらったフード男は、泡を吹いて気絶した。 

 一方で、仮面は三十もの弾を打ち込まれてもなお一つも傷を負う事は無く、戦いは幕を閉じた。


 ——しかし、仮面はそれで止まる事はなかった。

 右手に寄りかかったフード男を地面に投げると、今の出来事に驚いている三人目の男の方を見た。


 彼は三人組の残り一人だ。

 魔法を使えたはずだが、突き出している両手は震え、口は固く引き結んでいる。


「く…来るな!! 魔法を撃つぞ!?」


 次は自分の番だと気づいたのだ。

 凶悪なことをしてきたのにも関わらず彼は気が弱いのか、残された男は手を突き出しながら後退した。


 しかしそれで見逃してやるほど仮面も容赦はしていなかった。

 半身で足を開いてまた静かに姿勢を低くすると、腰についているワイヤーリールを手に取り、先端についていたフックをアンダースローで投げた。

 勢いよく投げられたそれは一直線に飛んで行き、魔法を使おうとしている男の突き出した手に巻きつくと、青白い電気が流れた。


「があ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”!?」


 彼は直立したままビクビクと地面をのたうち回り、果てには気絶した。


 ——こうして武装していた彼らは、この仮面によってあっけなく無力化されてしまった。

 木々の間を強い風が駆け巡り、雲間からわずかな光が差し込む。

 私は突如現れた仮面に唖然としていた。


(強い……!? 強すぎる!?)


 仮面はこちらに振り向くと、目を合わせず、確かな足取りでこちらに近づいてきた。

 しかし不思議と怖くない。

 私は木にもたれて仮面を見据える。

 表情は読み取れないためそれが不気味さを増すものの、殺気を感じなかった。


 仮面は近くで立ち止まると、自らの両手をパン、と叩いた。

 するとそこにはいきなりバイクが現れた。

 私は何が起こっているのか分からない。

 仮面は座席からヘルメットを取り出すと自分の頭に装着した。

 外から見ると、仮面は普通のバイク乗りにみえる。

 そして仮面は振り向くと、唖然としている私に球体を投げてきた。


 私は急なことに驚いて身を避けたが、隣でカランカランと転がっていたのは……ヘルメットだった。


「…………これをつけろって……いう事?」


 仮面は黙ったまま何も言わなかったが、その代わりに小さく頷いた。

 私はヘルメットへ手を伸ばし、頭にかぶせた。

 不思議と大きさはピッタリなサイズで私が使うのを見越していたかのようだった。


 仮面は私がヘルメットを装着したことを確認すると、バイクに乗って私に後ろを促した。

 乗れということらしい。

 その時、けたたましいサイレンの音が響き渡った。

 誰かが通報したのか、警察が来たらしい。

 急いで私は言われるがままにバイクの後ろにまたがった。

 ヘルメットをかぶった仮面は、私を見ると、小さな声で


「——しっかり捕まれ」


と言って地面を蹴った。

 仮面は元気のいいアクセルをブオンブオンと吹かせると、私を乗せたバイクは一気に加速し、周囲から消えて行った。




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