18、軽率な救出
金髪の皮を被った何かは今りったんの隣で突っ伏していた。
そういえば先ほどクロエはクラスメイトに挨拶されてもロクに返事をしていなかった。
あれはクロエの偽物のように感じる。
中身は他人か、それともAIのどちらか。
外見をクロエとそっくりに作るためには特殊メーク、魔法、人形、ホログラム、整形、そっくりさんといった様々な方法があるが今回のこれはどれかに当たるのかもしれない。
わからないものは直接確かめるのが容易だろう。
しかし、それを直接確かめる前に本物のクロエの方の様子を確認した。
追跡中のドローンの映像をモニターに映し出した。
クロエ本人はというと、呑気に駅から降りて今通学路を歩いている途中であった。
いや、呑気にという言葉はおかしいかもしれない。
本人はあたりをキョロキョロと見回しては歩いていた。
足取りも決して軽やかとは言えないもので、時折何かを警戒するように後ろを振り返っている。
クロエは商店街を抜けて少し人通りの少ない道へと入った。
この道はうちの学生も使うものである。
よって少しの緑に囲まれながらずっとそのまま道なりに進むと学校が見えてくるはずだ。
俺はその先の少しカーブした道路脇に黒い車が止まっていることに気づいた。
窓は黒く塗られていてよく見えないようになっているが、片側のドアが開いている。
ドローンを車の開いた扉の前に配備して、中の様子を確認した。
中ではレポーター風の男と、いかついカメラマンや音声さんが車には乗車していた。
カメラのレンズは車内から金髪の美少女を捉えており、そしてカメラケースからは黒い冷え冷えとした鉄の管がはみ出ていた。
昨日、仕事をミスったクロエを朝っぱらから捕まえに来たということか。
「……銃か。おっかねぇな」
俺からするとクロエは敵だ。
間違いない。
しかし同時に、彼女には俺にとっての利用価値がある。
また、これまでの情報から得た推測による仮説から、彼女もやりたくてりったんを襲い続けた訳では無いと思う。
——だから俺は彼女を助けようと思う。
それが裏目に出るかもしれないということはわかっているけれども。
これから起こるどうしようもない理不尽を前にする人に、俺はどうしても手を差し伸べてしまいたくなる。
……それは相手が美少女だからかもしれない。
でも、結局俺は自分が最も可愛いのだと思っている。
だから自分が危機に陥ったときに差し伸べてくれる手が欲しいと思ってしまう。
引きこもってしまったら、周囲とのそういった関わりは絶たれ、そんな都合の良い手は憧れに過ぎないけれども、俺が昔、あの人に手を差し伸べてもらったように少しでも多くの人にこの才能を使いたい。
そう思ってしまう甘っちょろい自分がいた。
偽物のクロエの正体を調べるために、教室にいるリンク君人形に消しゴムを落とさせた。
消しゴムは不自然な軌道を描き、思いっきりクロエの足元に向かって飛んでいった。
その消しゴムがクロエの上履きにぶつかったかと思った時、消しゴムは消えた。
——消えたわけでは無い。
クロエの足をすり抜けて、向こう側に行ってしまい死角となってこちらから見えなくなってしまっただけだ。
「ホログラムか。ありがたい!」
ホログラムではなかったら、消しゴムを拾わせてそれとなく探りを入れる予定だったがその手間が省けた。
しかし、彼女は先ほど椅子を動かしたことから、なんらかの魔法が外部で椅子に施され、それによって椅子は動いたのだ。
ホログラムも魔法による光の屈折で作られたものだろう。
——その外部の者にも注意をしておかなければならない。
「手が今回は足りないからあれの出番だな。——スタンバイ、セットアップ!」
キーボードを操作し、事務所の地下のガレージのハッチを開ける。
WARNING!! WARNING!!
ハッチは事務所裏の木の茂みでうまいこと隠れており、外からは様子が分かりにくい。
そこからゆっくりと昇降版に乗って上昇して来たのはホンダのバイクCBR100RRにまたがった、トレンチコートにヘルメットという装いをした男性である。
彼はアクセルを威勢良くブオンブオンと吹かせた。
「スカルフェイス、——テイク、オフ!!」
ヘルメットの男性はバイクのロックを片足で外すと、茂みから勢いよく発進した。
目的地は……東明高校周辺。
光学迷彩が彼とその乗り物を隠し、見えなくなる。
威勢のいいエンジン音は次第に小さくなって行き、消えた。
振動を抑える魔法によって、音の発生源に逆の音波をぶつけることによって音を消されたのだ。
自室で俺はキーボードをカタカタと弾く。
この距離では、おそらくクロエが車に連れ去られるのには間に合わない。
だからクロエをうまいこと誘導する必要がある。
クロエの近くにいたドローンを操作する。
「ホーネット・スリー、スナイパーモードへ移行。クロエの足元の石を、ロック・オン! ——発射!!」
ドローンが銃声を放ちながら石を撃った。
当然石は粉々に砕け散る。
クロエは何が起きたか分からず、止まって周囲を見回した。
近くの木が風に揺れてはそちらを確認していた。
しかし彼女は遠くに止まっていた黒い車を見て、あそこから撃たれたと思ったのだろう。
「…………嘘」
と一言呟くと、急に体から力が抜けたのか地面に膝をついてしまった。
歩道にへたり込んだクロエを見て、流石に車に乗っていた犯罪者たちがそれにおかしいと気づいたようだ。
車をバックさせて方向転換すると、クロエの方に車を走らせた。
「…………やめて、……こっち……来ないで!!」
対してクロエはムチに打たれたように走り出した。
カバンは置いてかれ、道に寂しそうに転がっているが、クロエはそんなことは全く気にしていなかった。
「よし、ちゃんと逃げ始めた。あとはこっちが間に合わせないと」




