17、化けの皮
外は薄暗く、朝の日差しが分厚い雲に遮られている。
そのせいで自然と自室も暗くなってしまう。
LEDの照明とモニターの光が部屋を明るくしようと頑張っているが、その空元気の明るさは虚しいばかりであった。
昨日の事件は朝からニュースになり、左下モニターには実際の爆発現場として俺たちの学校の校舎が映し出されている。
「……昨日、爆発があった学校です。ボールが爆発した際には外には体育の授業を受けていた生徒がいましたが、幸い怪我人は出ませんでした…………」
ニュースのレポーターはなんとかかんとか言った後に、魔法研究の危険性がどうたらこうたら言っていたが、話が大分それていると感じた。
事件は巻き込まれてみないと、中身の事情はしっかりと分からないものかもしれない。
リンク君人形が学校についた時には既に、様々な放送局が生中継をしているのか学校には朝から報道陣が押しかけていた。
リンク君人形はというと、できるだけ愛想悪く校門に入って行ったので誰にも捕まらなかったが、近くにいたコミュ力の高そうな生徒はマイクを向けられて様々な質問を受けていた。
これでは登校するのにも一苦労だ。
報道陣が校門の前を塞いでしまって生徒達はなかなか入れなさそうである。
こんな時にアイドルのりったんは無事に登校できるのだろうか?
そう思って教室に入ると先客がいた。
いつもはリンク君人形はクラスで最も早く登校するので教室には誰もいないはずだが、今日そこには……りったんがいた。
「あっ、網島君! おはよう!」
ここには俺(の人形)と美少女しかおらず、息をするのも憚られる尊き一瞬があった——別にリンクくん人形は息をしていないのだが——とりあえず息をするのを忘れてしまいそうな一瞬であった。
話しかけられた俺はなるべく変だと思われないように丁寧に返事をした。
「……大園さん。おはよう。——今日は早いですね」
「そうなの。報道陣が駆けつけてくると思って、1時間前から登校したの!」
「——1時間前!? 随分と早いけど眠く無いんですか?」
すると、りったんは少し顔を膨らませて
「もしかして網島くんって私がアイドルやってるの知らないの?? これくらいは慣れっこです」
と俺を軽く睨んで腕を組んだ。
あぁまじで尊い。卍卍。
「……知ってはいたけど、早朝すぎてびっくりしたんですよ」
「じょーだんっ! 真面目なんだね」
悪戯っぽく彼女は笑うと、こっちこっちと手招きをした。
そういえば彼女は席に座っているが、俺は緊張しているせいでまだ教室の入り口で話していたんだった。
招かれるままに俺はりったんの隣の自分の席に座る。
隣の机上には先ほどまで勉強していたのか、ノートと俺の教科書が乗っかっており、何かまとめているようだった。
「——ああ、これはね」
俺のみているものに気づくと、少し恥ずかしそうにまとめていたノートのページをパラパラとめくって見せてくれた。
「私、授業にあまりこれて無いでしょ? しかもこんなすごい高校だから授業について行くのがやっとなの。だからこうやって空いた時間に勉強してるの」
「……頑張り屋さん、なんですね」
「そのとーり! ……なんてね…………」
ピアノのコマーシャルの真似をして恥ずかしくなって声も小さくなっていったのは可愛い。
ぜひピアノ売ってちょうだーぃ!
「忙しいのに勉強も頑張るなんてすごいと思います。明後日、ライブなんでしょう? 応援してます」
「あっ、ライブのこと知っててくれたの? ありがとう!」
「もちろん、クラスメイトですから。そうだ、昨日の生放送も見ました」
「えっ!? 授業はちゃんと受けたの? もしかしてサボっちゃったの??」
「いや、サボって無いですよ。録画です……録画。文明の利器に感謝ですね。ついでに昨日大園さんがいなかった時の授業のまとめ、もしよかったらいります?」
感想を言ったら熱が入ってしまいそうでいうのは控えておいた。
……でも新曲の衣装可愛かったな。
特にダンスシーンは息のあった脚の使い方が見せ場でファンも自分の心が踊っているような気持ちになった。
またサビに入るまでのBメロの途中にりったんが、「……惚れた?」って元気にファンの方に問いかけるところがあるんだけど、まぢで惚れた。
「まとめ? 欲しいですっ! ……でも今回も何から何までごめんね。助かります」
ぺこりと彼女がお辞儀をするのでこちらもぺこりと頭を下げる。
また、俺が中途半端な敬語を使うせいで彼女もそれに引っ張られている気がした。
距離感を作ってしまったかもしれない。
……でも逆にその方が都合が良いか。
「——そういえばっ」
りったんが何かを思い出したかのように、口をパクパクしながら上目遣いでこっちを見ている。
何を言おうと思ってるの? 超気になる!!
彼女は数度視線が左右に彷徨わせた後、意を決した様に口を開いた。
「網島君の視線……じゃない…………。もしかして網島君って昔……私と…………会ったことありますか?」
何とも言えないグレーな質問にたじろいでしまう。
「……無いですよ?」
「本当に?」
やばい、困った。
こんな時にはどうすればいいのか。
ゲームみたいに今、美少女をしっかりと映しているモニターに選択肢が出て来てくれたらいいのに…………。
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1、『実は昔から応援してました! 推しです!』
2、『』(何も言わない)
3、『…………いつも君のこと……見てるよ、ぐへへ』
4、『……………………いっぱいしゅき♡』
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——ダメだ。選択肢もろくな奴がねぇ!
こういう時のためにクラスの人とも交流を重ねて会話のスキルを上達させるべきだったかも!
なんて心の中で難しく考えていると、りったんの方から助け舟を送ってくれた。
「ごめんごめん、そんなわけないよね。勘違いしちゃってた。——応援してくれてありがとうね。さぁ勉強勉強!」
そう言って、開いていたノートを机の上に広げると教科書をまとめ始めた。
科目は国語か。
魔法以外の教科ならば俺の助け船はいらない。
俺も自分のカバンから荷物を取り出し、来たる授業の準備を済ませると、その中でも分厚い本を取り出して読み始めた。
途端に部屋には静寂が訪れたため、外で騒ぐ記者たちの小さな声がよく聞こえる。
最初は二人の空間に緊張していて何も考えられなかった俺も、次第に慣れたのか本の内容が頭に入ってくるようになった。(二人だけの空間ではなく実際には自室で一人であるが、そのことは気にしていない)
そして同時に教室にもちらほらと人が入り始め、彼ら彼女らはりったんと挨拶をしながら朝の支度を済ませていた。
人がほとんど席につき始めた頃、扉口から金髪がチラついた。
クロエだ。
彼女はどこか落ち着きのない様子で周囲を見回すと、早足で席に着く。
椅子をゴトゴトと音を立てて、それを少し乱暴に扱っていた。
「昨日からつけたドローンのログは……」
もちろん、怪しすぎるクロエにはドローンで尾行をつけておいた。
彼女が原因でりったんに何かがあって、手遅れになってしまう前に予防をしなければならない。
そんな彼女を尾行してたどり着いた家は、都会の真ん中にある高級マンションであった。
その分警備も厳しくなっており、うかつにドローンを中に侵入させることはできなかったが、入口と窓からそれらしき人物が出て来ていないことから安易に家にいると思っても良いだろう。
昨日は帰宅後、彼女は家を出ていない。
そして今朝はというとしっかり登校して来てい……る…………?
俺はログのステータスを見ておかしいことに気づいた。彼女はまだ“登校中”だったのだ。
「じゃああそこにいる金髪は……一体…………?」




