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15、襲撃と来客

 ボールは校庭にいる生徒たちの上空を震えながら漂っている。


 しかし彼らはボールのコントロールがうまくいっていないのか、ボールに手を向ける者は苦悶の表情を浮かべており、監督している先生は叫んでいた。


「飛んでくぞっ! 全力で校舎から軌道を外せ!!」


「もう……無理で…………す……」


 彼らの中でも最も息を切らした一人が手を下ろした。おそらく魔力を使いすぎたのだ。

 その次の瞬間、枷が外れたかのようにボールは意志を持って直線的に加速して行った。


 ボールの軌道の延長線上には俺たちの教室があった。

 しかし、どうやら狙いはりったんではなく、ボールは教室の中央へと向かって勢いよく進んでいた。

 

 ——敵の意図はなんだ?

  俺は自分だけの魔法を使う。


「スタンバイ、シミュレート!」


 ——頭の中に数秒先の未来予測が流れ始める。


((ボールは窓を破って教室に突入すると凄まじい光と音を伴って爆発した。それがスタングレネードの役割を果たし、どさくさに紛れて“クロエ”がりったんを抱え窓から跳躍する。))


「クソッ、……15秒しか視れないか」


 兎にも角にもこの未来予測を変化させなければならない。

 窓の外で待機中のドローンを校舎の壁にはりつけ、命令を送った。


「ホーネットワン、スナイパーモードへ移行。ボールを……ロックオン!」


 モニターの中央に照準が現れる。

 それが接近するボールへと重なった時、俺はキーボードのEnterキーを押した


「——発射!」


 バコォン! と勢いの良い音が銃口からほとばしった。

 銃弾が見事命中し、ボールは風船のように爆ぜる。

 するとボールの中に仕込まれていたグレネードに引火し、周囲には爆音と閃光が撒き散らされた。


 部屋のスピーカーから高周波の音が流れ、モニターは一瞬だけ光で真っ白になった。

 が、またすぐに映像は流れ始めた。

 ただのスタングレネードだ。

 殺傷性を持ったものではないから怪我をしている人間はいない……はず。

 だからと言ってまだ安心できない。

 周囲の“消毒”、つまり安全の確保と確認が必要だ。

 キーボードを指が激しく叩く。

 それと共にモニターの映像もぐるぐると変化した。


 何一つ見逃さないように息を殺しながら視点を切り替えて周囲の状況の確認を図った…………。

 外で頭を抱えて座る生徒、ひっくり返った教師。

 木に隠れている清掃業者、何事かと窓にしがみつく職員、そして時間差で降ってきたボールの破片……。


 特に……何も怪しげな動きはなかった。


 クラスの中はというと、教師も含めて皆、窓から身を避けながら外を見やっている。

 しかしその視線と表情から、明らかに状況を把握できていなさそうなことがわかった。


 しかし……一人を除いては。 

 クロエは皆が何事かと窓を見ているのにもかかわらず、口を開いてただ一人だけ机をじっと見つめていた。


「こいつが黒幕……なのか??」


 俺の魔法“超演算”は、この世をコンピュータのように処理できる魔法だ。

 この魔法系の中でも“シミュレート”は集めた分の情報だけそれに関わる周囲の未来を予測することができるという代物だ。

 その未来予測ではクロエがりったんを抱えて窓から飛び出していた。

 どういう経緯かは分からないが彼女が今回の一件にひとつ噛んでいることは間違いなさそうだ。


「——ちょっと待てよ。ここは3階だぞ……、外に仲間がいるのか?」


 窓から飛び出したクロエの逃走予定経路が気になる。

 まさか共に飛び降りてずっと抱えて連れ去るということはあるまい。

 数あるグレネードの中でスタンを選択したのはりったんを無傷でどこかへ連れ去ろうとしていたのだと考えれば、飛び降りてからの事前に考えられたプランがあるはず。

 再びモニターを切り替える。

 空に……浮遊物なし。

 校舎周りに不審車両なし。

 屋上に人影なし……。


「となれば……地下!」


 この校舎に地下に降りれるのは様々な経路があるだろうが、近くで侵入しやすいのはマンホールからである。

 しかしそのマンホールを開けるにはそれ専用の道具が必要である。

 また、りったんがいくら軽いとは言えクロエ一人でずっと抱えているとは思えない。

 協力者の存在を考えるならば……。


「あの清掃業者か!」


 先ほどモニター映像をザッピングした時にちらっと映った清掃業者。

 学外からの侵入は最も容易な職業だ。

 よってクロエの協力者である可能性が最も高い。

 業者の清掃道具が入っているらしきコンテナが、窓下の通路の脇に置いてあったのでカメラをズームした。

 するとちゃんと清掃道具が入っていたが、それ以外にも人がは言えるくらいの大きさの麻袋や縄、果てにはマンホールを持ち上げる用のバールが入っている。

 念のため地下にもドローンを侵入させ、中の様子を赤外線カメラで撮影した。

 何か特殊な準備をしているかと思っていたが、中にはネズミやゴキブリといった生物がいるばかりで、特にさしたる細工はなかった。

 となると立てられる説は、


「クロエはあのボールの主導権を握ってあらかじめ中に仕込んでいたスタングレネードで教室を混乱に落とすと、その後は外にいた清掃業者に扮した仲間にりったんを渡し、また教室に戻ってのうのうと学生生活を送ろうとしていた……」


ということになる。


 協力者がいるならばクロエ自身がりったんを運ぶ必要がない。

 またクロエの個人情報にハッキングした時に、得られた情報に細工された形跡が見当たらないことから、クロエの個人情報に偽りがある可能性が低いと思う。

 よってクロエも社会的立場を保つため、りったんを階下に送った後には教室で、俺たちと共に何があったかわからないといった表情をしていたはず……だ。


 外には野次馬が集まり始め、中では生徒たちが心配そうに会話をしていた。

 ボールの爆発のせいで、もはや授業に集中できる者は先生を含めてもいない。

 その騒動に紛れて清掃業者は逃げようとしていたが、爆発したボールの破片の近くにいたため注目されており、何人かの職員に捕まって色々と爆発時の様子を聞かれていた。


「ドローンを今のうちに撤退させよう。——ホーネットワンからナインまで、全機、帰投命令」


 スナイパーライフルを今回は使用したため、ライフルの銃撃音を少なからず聞いていたものもいる。

 後々警察がやってきて、運悪く見つかってしまったらたまったもんじゃない。

 命令を受け取った見えざるドローンは全て上昇し、校舎から特定の方向にまとまって飛び立って行った。

 ドローンの行く先にはこの事務所がある。



 ——全てのドローンが撤退した後、教室では生徒の安否を尋ねる職員と遅れてやってきた警察が生徒に爆発した時の様子を細かく聴取してきた。

 職員は皆に怪我がないことが分かるとすぐにホッとしたように去って行ったが、警察の方はまるでお前が犯人だ、というような勢いで生年月日から当時の様子まで細く聴取してはメモを取っていた。

 俺も色々と聞かれので、基本は他の生徒が何を言っているかを参考に話を組み立てて適当に答えたが、それに加えて清掃業者が怪しげな器具を使っているのを見た、という情報を追加しておいた。

 それを聞いた警察は満足した表情で、協力ありがとうと言って次の生徒を呼んでいた。




 今となっては警察も帰って、皆もうホッとしたのか今日あったことを興奮して語っている。


「マジでやばかったよな。——俺あの時死んだかとおもったわ」


「アタシも! すぐに机の下に入っちゃったもん」


「……机の下に潜るのは地震の時だと思うのですが」


「しかしあの爆発、いまだに原因がつかめていないのは恐ろしいっス」


 俺は色々と内容を把握できているせいで、どうしてもクロエの様子を伺ってしまう。

 今は全てのドローンを帰らせてしまったので、彼女の様子を知るにはリンク君人形のカメラ頼りだが、どうにも不便である。

 当の本人は、予定の失敗を悟ったときには頭が真っ白になっていたようだが、今は先ほどの授業の時に出された問題をすることで平然を保っているように見えた。

 俺からすると彼女の行動は厚かましいと思うが、ひとまず彼女は自分も被害者であるとよそわなければならないのも分かる。

 いや、これまでの情報から本当に彼女も被害者なのかもしれないと仮説を立てれば……。

 俺は彼女をうまいこと利用できるかもしれない。


 ようやく俺も肩の力を抜いていいか、と思った頃。

 ——事務所に急な来訪者があった。


「坊っちゃま。——お客様でございます」


 ジジィがノックし、俺を事務所に連れて行った。


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