第12章 東の国の陰謀 東からの使者Ⅳ③
「そんなことは絶対にさせてはいけない。ルーク=ロジックもリロン=レインも、その背後には州太守が控えているのだ」
「判っておりますがシューリーは自らの魔道の腕に異常な自信を持っています。自分よりも高位の魔道士を認めない、というほどに」
シューリーがズィーイ皇国で一番だと自称しているのは、そう確信しているからではない。そうありたいとの思いの表れだった。
ただ実のところシューリーの魔道士としての序列はズィーイ皇国では上位二十人に辛うじて入る程度だった。一番にはほど遠いが高位であることには違いない。
ズィーイ皇国本国としては外交省次官リン=ソウシュクといい魔道士シューリーといい、最上位ではなく少し下位の者たちを使節団として派遣していた。
それは失敗した時の人的損失を考慮した結果だった。勿論本人たちはそんなことは知らない。大役を任されて名を上げる好機だと思って来ている。
リンが連れてきている暗部の者たちも子飼いの方が使いやすいだろうという表向きの理由だったが実は一流の暗部の者を出し惜しんでいたのだ。
「釘を刺しておいてくれ。もし暴走でもしたらお前の責任だからな」
リンは無能ではなかったがソウシュク国国王の嫡男として何不自由なく育てられていたので失敗をしたことがなかった。
自分の思うように事が進まないと気が済まないし、進まなかった時どうすればいいのかが判らなかった。
「判っております」
ラナン=カントウは直ぐにリンの部屋を辞した。シューリーに釘を刺しに行くためだ。シューリーはリン次官のいう事をあまり聞かない。その配下であるラナンのいう事を素直に聞くとも思えなかったが言わない訳にも行かなかったのだ。
ラナンは今回リン次官の随行員筆頭としてプレトリア州に来ている。本来ラナンの仕事はソウシュク国宰相である父サムス=カントウの補佐兼リン=ソウシュクの教育係だった。
つまり今回の使節団のお目付け役がラナンだったのだ。
「若様にも困ったものだ」
一人の時はリンの事を若様と呼んでいる。本人の前では使わない呼び名だった。リンが嫌がるのだ。
「さて、どうしたものか」
ラナンとしては今回の本当の目的をリン次官に悟られる訳には行かなかった。ズィーイ皇国としてはシャロン公国が魔道中心の国になろうがどうでも良かった。
父であるラン=ソウシュクがリンに説明した目的は全て嘘だった。リンの外交が失敗しても成功しても、どちらでも良かったのだ。
プレトリア州にはズィーイ皇国からリン次官の知らない暗部の者が何人も入っていた、こちらはズィーイ皇国でも有数の者たちだ。リン子飼いの暗部には全く悟られてはいない。
ラナンはその暗部を使って本来の目的を果たしつつあった。
「シューリーがルーク=ロジックでもリロン=レインでも、或いは両方を殺してくれたら楽なんだがな」
シューリーを自重させるよう伝えながら挑発するにはどうすればいいかを考えながらラナンは魔道研究所に向かうのだった。




