第12章 東の国の陰謀 東からの使者Ⅱ⑩
「結局シェラック=フィットの所在は掴めないのか?」
「申し訳ありません。シューリー様が魔道研究所から離れられませんので」
「他の暗部ではシェラック=フィットは手に負えないとでも言うのか?」
リン=ソウシュクは苛立っていた。本国から連れて来た自慢の暗部たちがシャロン公国の地方の州でしかないグロシア州騎士団参謀にさえ及ばないという現実に。
「俺は間違っていたのか?やはりシャロン公国には二度と手を出してはいけないということか」
「リン様、それほど深刻な事態ではないと思うのですが」
「どういう意味だ」
「シェラック=フィットという騎士団参謀はその地位に似合わない程の力の持ち主、ということではないでしょうか」
ラナンは本当にそう思っていた。自身がズィーイ皇国では上位魔道士であるラナンであったが、シャロン公国では魔道が上位とされているプレトリア州の街中ではそれほど脅威と思われる魔道士には出会っていなかったからだ。
プレトリア州は確かに剣よりも魔道を重要視しているようだが、それは平均的な魔道士を大量に生む結果となったのではないだろうか。
「そういうものなのか」
「確信がある訳ではありませんが、ザグレブ市内のいくつかの有名魔道私塾を見てみましたが、ズィーイ皇国で言う上位魔道士クラスはひとりも居ませんでした。精々中位魔道士というところでしょうか」
プレトリア州は確かに魔道を剣よりも重視している。そしてシャロン公国全土までそれを広めようとしている。その意味では目的はズィーイ皇国のそれと重なる。
「シャロン公国では中位魔道士が精々、それに対してわが国では上位魔道士が多数いる、ということか」
「そうです。今のこの状況を踏まえると先の戦争の二の舞にはならないと思うのですが」
「そこの方針はお前が口を挟むべきところではない。判断は俺に一任されてはいるのだがな」
本国からリンにシャロン公国に対する戦争の是非を判断するよう指示されていた。リンが戦争をするといえば戦争になるのだ。
「勿論承知しております。ただ私見を少し述べさせていただいたところです」
「わかった、まあいい。いずれにしてもシェラック=フィットの様なこちらの上位魔道士に匹敵する者も居ることは居る、と見る必要がありそうだ。戦争に加担しないであろう数字持ちとよばれる魔道士も少しは考慮しておく必要はあろうな」
「その点ですが」
「なんだ、何か掴んだのか?」
「シェラック=フィットの師匠に当たる魔道士が数字持ちの魔道士の一人の様です」
「そうなのか?」
「はい。情報によるとシェラックの師匠であるノルンという魔道士は序列9位で氷のノルンという名で呼ばれているそうです」
「氷のノルン。序列9位ということはシャロン公国で9番目に強い、と見なければならないな」




