第12章 東の国の陰謀 東からの使者Ⅱ⑧
「目を離すなと言っておいたはずだが?」
「申し訳ありません。リン様。あの者の隠形魔道は我らの手には余るようです」
リンのシェラック=フィットに対する評価は魔道の腕はそこそこだがリロンやルークには劣る、と言うものだった。ただ権謀の才は抜きんでた者があるという認識だった。
「そうなのか。シェラックさえ我らの手に余るとなると、やはりシャロン公国の魔道は侮れん、ということか。先の戦争に負けるのも必然だったのだろうな」
ズィーイ皇国とシャロン公国は戦争をしていない、というのが公式なズィーイ皇国立場だった。ただ少し局地的ないざこざが起こったが直ぐに収まったとして、戦争ではないということになっている。
ただリンなど若い者はシャロン公国との戦争に、それも魔道による戦争に負けたという認識を持っていた。
皇国内の学校では教えてはいない歴史だったがリンたち一部の者の間では常識となっていたのだ。
「まあ、今なら負ける気はしないがな」
シャロン公国に十三人の数字持ちの魔道士と呼ばれる高位魔道士が居ることはズィーイ皇国でも知られている。
数字持ちの魔道士と対峙すればシャーリーでは対抗できないだろうとリンは見ていた。勿論リン本人でもだ。
ただ今であれば突出した魔道士は少ないとしても高位の魔道士の数はズィーイ皇国が遥かに多い。
それに数字持ちの魔道士たちはシャロン公国が戦争状態になっても出てこないと踏んでいた。先の戦争でも数度持ちの魔道士と呼ばれる者の参戦は無かった。ただそれでもズィーイ皇国は敗れたのだが。
そこでズィーイ皇国では一人の超絶した魔道士の力に頼るのではなく比較的高位の魔道士の数を揃えることに専念してきたのだ。
その数が圧倒的となったことを踏まえて、満を持してリンがシャロン公国を訪れていた。その目でシャロン公国の実情を確認し政治的に魔道中心の国にすることができればよしとして、それが叶いそうもないのであれば戦争を吹っ掛けるつもりなのだ。
実はズィーイ皇国の国是として魔道中心の国を作ることを根幹に置いているだけでシャロン公国を支配下に置こうと言う野心は大きくはない。
シャロン公国が魔道中心の国に代わりさえすれば独立国として存続することに異議は無かった。
ズィーイ皇国においては魔道中心の国と言うのは、最早一種の宗教としての立ち位置だったのだ。
「とりあえずシェラック=フィットを野放しには出来ない。早急に居場所を付きとめるのだ」
「承知しました」
ユスティに掛けられた強大な加護といい、自慢の暗部の追跡を振り切ってしまうシェラックといい、リンの想定を超える相手の力量にリンは少し苛立っていた。思うように事が進まない。
「俺の力不足によるものか、時の運なのか。まあ何でもかんでも順調に進んでしまえば、それはそれで興を削がれてしまうのかも知れんが」
リンは少し今の状況を楽しんでいるかのようだった。
「まあ、手はいくらでもある」
その様子を見ている者。ここにもリンの想定を上回る隠形魔道の使い手が居た。但し人ではなく使い魔ではあったが。




