第46章『聖都クリスタルヘイムの戦い』後編
「――来なさい、堕天使ルシファー!」
シャルロッテの叫びが、異空間と化した玉座の間に響き渡った。
ルシエラの手から放たれたのは、空間そのものを腐砕する黒熱の神雷。 ドォォォォンッ!!
「私たちが……シャルロッテ様を守ります!」 エミーナが『破邪顕正』を突きだし、最上位の聖極光障壁を展開。黒熱の神雷を受け止めるが、その凄まじい圧力に障壁がミシミシと悲鳴を上げる。
「押し切らせないわよ! 火属性奥義――『神炎領域』!!」 ロゼッタが白炎の津波を放ち、ルシエラの視界を遮ると同時に神雷の軌道を強引に逸らす。
「愚かしい!」 ルシエラが六枚の黒翼を一振るいすると、衝撃波によってエミーナとロゼッタが弾き飛んだ。だが、二人が作ったわずか「一瞬の隙」――それこそが、シャルロッテの求めていた唯一の勝機であった。
「神剣……『空斬刺鏡』……!」
シャルロッテは浮遊感とともに、ルシエラの懐へと跳躍した。 彼女の手にする神剣は、もはや刀身の形すら留めていない。完全なる「透明な無」。
「ハハハ! 無駄だ! 我が真の肉体は地脈の不滅と結びついている! いかなる斬撃も――」
「切り裂け……『絶空』!!」
一閃。
『絶空』の刃は、ルシエラの不滅の肉体と地脈との繋がり、さらには彼女を守る邪悪な神威の概念そのものを容赦なく一刀両断にした。
「ガ……ハッ……!? 我が……神威の概念が……斬られた……だと……!?」
ルシエラの胸元から漆黒の神血が吹き出し、彼女の絶対の不滅性が内側から崩壊を始める。 だが、堕天使の怨念は消えなかった。ルシエラは狂乱の表情でシャルロッテの首を掴もうと細い手を伸ばす。
「道連れだ……セレスティアの小娘ぇぇぇッ!!」
その時――。
シャルロッテの背後に、紫銀の輝きを纏ったヴィオレッタの幻影が重なった。 ヴィオレッタの温かな声が、シャルロッテの意識に直接響き渡る。
(シャルロッテ……今です! 神剣の『無』によって概念を打ち破った今こそ、宇宙の全魔導を解き放ちなさい!)
「ヴィオレッタ様……! はいッ!!」
シャルロッテの体内に、授けられた最高上位の『宙界属性』の魔力が極限まで暴走・凝縮された。 『絶空』によって「無」となったルシエラの胸元の空間へ、シャルロッテは左手を突き突き立てた。
凝縮されるのは、超高密度の星々の命。 ひとつの銀河が誕生し、そして崩壊する超新星爆発の圧倒的エネルギー。
「これが……私たちの世界の……未来を切り開く力です!!」
「宙界最高位属性魔法――『新星爆発』――ッッ!!!!」
超絶の閃光が爆発した。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!
ルシエラの胸元から放たれたのは、あらゆる闇を消滅させる超高密度の星光の爆発。 『絶空』によって防衛概念を失っていたルシエラの堕天使としての肉体は、超新星爆発の圧倒的な光と熱と重力波に直接晒され、細胞の一粒、魂の一片に至るまで、完全に分解・消滅していった。
「おのれぇぇぇぇぇ……御玉ぁぁぁ! セレスティアぁぁぁぁッ!!」
堕天使ルシファーの化身・女皇帝ルシエラの絶叫が、異空間に響き渡り――やがて、完全な光の中へと消え去った。
◇
異空間が解除され、崩れかけた大聖堂の天井から、暖かな春の陽光が燦々と降り注いだ。
ルシエラが消滅したことにより、聖都を覆っていた暗黒の気配は完全に霧散し、魔導帝国の絶対的な支配は、ここに完全な終焉を迎えたのだった。
「終わった……のね」
シャルロッテは神剣『空斬刺鏡』をゆっくりと鞘へ戻し、その場に膝をついた。 エミーナとロゼッタが駆け寄り、涙を流しながらシャルロッテを強く抱きしめる。
「シャルロッテ様! やりました……やりましたね!」 「まったく、ハラハラさせやがって! でも……最高の決め技だったわよ!」
「ええ……皆のおかげです。本当に……ありがとう」
大聖堂の外へ出ると、そこには歓声を上げる連合軍の兵士たちの姿があった。 ジュリアンは大公としての威厳を保ちつつも、シャルロッテへ深々と感謝の礼を捧げ、ビー・スーは豪快に斧を突き上げて勝利の勝鬨をあげていた。 そして、拘束されたセレスティーヌは、もはや誰も自分を助けてくれないことを悟り、惨めに取り乱しながら兵士たちに連行されていった。
前世の凄惨な復讐の連鎖を断ち切り、今世でかけがえのない親友たちとともに勝利を掴み取ったシャルロッテ。
聖都クリスタルヘイムの白銀の街並みに、美しい朝焼けの光が満ちていく。 セレスティア伯爵軍の『六棘の霜華』の旗印が、どこまでも青く澄み渡る空の下で、新たな時代の到来を告げるように、力強く、そして優雅に翻っていたのだった。




