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第44章『聖都クリスタルヘイムの戦い』前編

三頭龍の谷を突破したセレスティア伯爵軍、オーロラリス大公軍、そしてマーレン軍の連合大軍勢は、ついに魔導帝国の心臓部・聖都『クリスタルヘイム』をその視界に捉えていた。

平原の果てにそびえ立つ聖都は、幾重もの魔導障壁と、天を突く壮大な三重の城壁によって固く護られていた。最外郭である「第一の城壁」は、純白の巨石と不純物を一切寄せ付けない結晶金属で建造されており、その上空には常時、見えない魔導圧縮障壁が張り巡らされている。

「あれが……第一の城壁。これほどの規模の城塞、正攻法では年単位の攻城戦が必要になりますね……」 エミーナが『破邪顕正』の聖杖を握りしめ、圧倒的な建造物を前に息をのんだ。

「年単位なんて待っていられるかよ!」 ロゼッタが槍の柄を地面に叩きつける。「ジュリアンたちの軍も、ビー・スーの野郎どもの軍も勢いに乗ってる。ここで一気に第一の壁をぶち破るわよ!」

その時、城壁の上から地鳴りのような咆哮が響き渡った。 第一の城壁を守るのは、帝国第1機甲魔導師団。壁の上には無数の魔導砲が隙間なく並び、城門の前には死を知らぬ重装鉄騎兵と、巨大な魔導ゴーレムの群れが重厚な陣形を組み上げていた。

「愚かな抗いをする虫ケラどもめ! 聖都の第一の門すら開くことは叶わん! 全砲門、放てぇッ!」

空が赤黒く染まり、数千の魔導砲弾が雨あられとなって連合軍へと降り注いだ。爆炎と衝撃波が大地を削り、前線の兵士たちが次々と吹き飛ばされる。

「くっ……! 障壁を展開します!」 エミーナが前線へ飛び出し、『破邪顕正』を大地に突き立てた。覚醒した「光属性」の真なる輝きが解き放たれ、頭上を覆う巨大な多重光輪となって、降り注ぐ砲弾の嵐を次々と相殺していく。

「エミーナ、ナイスよ! 城門のゴーレムどもは私が引き受けるわ!」 ロゼッタが極彩色の炎を爆発させ、最前線へと疾走した。彼女の『煉獄の咆哮』には、万物を溶かす「火属性」の真理が宿っている。

「火属性奥義――『神炎穿孔破プロメテウス・ドリル』!!」

螺旋を描く白熱の炎が城門前に立ち塞がる巨岩のゴーレムたちを直撃した。鉄と石の巨躯が瞬時に高熱で赤く爛れ、高圧の爆炎によって内側から爆砕される。

「今です! セレスティア軍、第一の城門へ突撃しなさい!」 シャルロッテの号令とともに、覚醒したセレスティアの精鋭たちがなだれ込んだ。 一方、中央の街道からはジュリアンのオーロラリス精鋭騎兵隊が、南からはビー・スー率いるマーレンの精霊騎兵が猛攻を加え、わずか半日の激闘の末、第一の城壁は内側から爆砕され、完膚なきまでに突破されたのであった。



第一の城壁を粉砕した連合軍がなだれ込んだのは、「第二の城壁」内部に広がる広大な防衛区画であった。 そこは単純な城壁ではなく、立ち並ぶ建造物と高低差のある高台が複雑に交差する「黒の重厚迷宮」と化していた。

「気をつけてください、周囲の建物すべてに敵の伏兵が潜んでいます!」 エミーナが聖杖の光で影に潜む死霊兵を照らし出す。

狭い路地での混戦の中、セレスティア軍はオーロラリス軍と並んで進軍していた。その中で、シャルロッテの視線はジュリアンの傍らにぴったりと寄り添うセレスティーヌ・アストレアに向けられていた。

セレスティーヌは、相変わらず怯えた振りをしてジュリアンの腕にしがみついている。 「まあ……ジュリアン様、恐ろしいですわ。あんな気味の悪い兵隊さんたちが……私、ジュリアン様のお側を離れたら生きていけません……」

(相変わらずの白々しさね。この混戦に乗じて、何を企んでいるのやら……) シャルロッテが不快感に眉をひそめた、まさにその時だった。

迷宮の角を曲がった瞬間、第二の城壁の防衛隊長率いる黒騎士の集団が突如として上空の回廊から奇襲を仕掛けてきた。

「ジュリアン大公の首を貰う!」

「なっ……伏兵か! 陣形を立て直せ!」 ジュリアンが剣を抜き、迎撃しようとしたその瞬間――。

「きゃあぁぁぁっ! 助けて、ジュリアン様ぁっ!」

セレスティーヌがわざとらしく足を滑らせ、ジュリアンの体を押すように覆いかぶさった。 その結果、ジュリアンの体勢が完全に崩れ、敵黒騎士の長槍が彼の無防備な首元へと一直線に突き出されたのだ。

(あいつ……わざとジュリアンの体勢を崩したわね!? 自分を助けさせるフリをして、ジュリアンを死地へ追いやる気か!)

前世で自らを嵌めた『清楚な腹黒女』の本性が、いま明確に剥き出しとなった。 セレスティーヌの狙いは、ジュリアンをここで討たせ、オーロラリス軍の混乱に乗じて自らが権力を掌握するか、あるいは最初から帝国側と裏で繋がっていたのだ。

「あんの……清楚ビッチがぁぁッ!!」

シャルロッテの激怒が爆発した。 彼女は一瞬で踏み込み、腰元の神剣『空斬刺鏡』を閃かせた。

神剣の青白い一閃が、ジュリアンの首元に迫っていた黒騎士の長槍を瞬時に切断し、そのまま襲いかかった伏兵たちをまとめて一刀両断にした。

「ガハッ……!?」

黒騎士たちが崩れ落ちる。 体勢を立て直したジュリアンは、自分が命を拾ったことを悟り、シャルロッテへ息を呑んで感謝した。 「し、シャルロッテ殿! かたじけない……! セレスティーヌが転んだ弾みで、危ういところだった……」

ジュリアンは依然としてセレスティーヌが「うっかり転んだ」と信じ切っている様子だった。 セレスティーヌはジュリアンの背中で、シャルロッテに向けてチッと微かに舌打ちをし、悔しそうに顔を歪めた。

「お怪我はありませんか、大公殿下。……足元に『毒蛇』を飼っていらっしゃると、いつ首を噛まれるか分かりませんわよ?」 シャルロッテはセレスティーヌを氷のような眼差しで見下ろしながら、冷たく言い放った。

二人の確執を他所に、勢いに乗るセレスティア軍と連合軍は、第二の城壁の防衛隊を文字通り粉砕し、迷宮区画を突破。最終防衛線である第三の城壁へと迫っていった。

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