第17章『クリスタリア湖畔ビーチフラッグス大会』
7月第4週のとある日。
白亜の巨石が織りなすフロストヴァイス城は、澄み渡るクリスタリア湖の静謐な水面にその優美な影を落としていた。しかし、本日に限ってはその静寂は雲散霧消している。湖畔に広がる真っ白な砂浜には、色とりどりのパラソルと特設の歓声席が設けられ、眩しい太陽の光を受け反射していた。
「——皆様、お集まりでしょうか! 本日ここに、セレスティア伯爵家主催、第1回クリスタリア湖畔ビーチフラッグス王座決定戦を開幕いたします!」
特設実況席に座るのは、完璧な角度で眼鏡を押し上げるハウスメイド、ベルナデット。通称『メガネのナデット』である。彼女の手元には、すでに風速、砂地の傾斜、各参加者の脚力を網羅した完璧なデータシートが準備されていた。
「企画および主催は、フロストヴァイス家の至宝、シャルロッテ様! 最合理、最速、完璧を期した実況・解説は、私ベルナデットが務めさせていただきます」
「ふふ、とっても素敵な夏の催しになりそうねぇ。審査委員長として、公平かつ“刺激的”に見守らせてもらうわ」
ベルナデットの隣で、優雅に脚を組み替えたのは家庭教師のイザベラだ。深めに入ったスリットから覗く網タイツ、そして深く開いた胸元から豊かな谷間を覗かせる彼女は、立っているだけで湖畔の視線を独占している。
パラソルの下、特等席に腰を下ろした淡い栗毛の美少女、シャルロッテは満足そうに頷いた。
「ええ、みんな日頃の職務、本当にお疲れ様。今日は身分も役職も関係なく、存分に弾けて頂戴! 勝者には——父様の蔵から持ち出した超高級ヴィンテージワインと、3日間の特別有給休暇を授与します!」
その言葉に、砂浜に並んだメイドたちの瞳が一斉にメラメラと燃え上がった。
今回の競技は、全員セクシーなビキニ着用が絶対ルール。湖畔の眩しい日差しのもと、目も綾な美女たちの肢体がずらりと並ぶ様は、まさに圧巻の一言であった。
白のフリルビキニに身を包んだ金髪美少女エミーナと、対照的に黒のシックなビキニで身を包む黒髪美少女ロゼッタ。シャルロッテの愛息ならぬ愛侍女たる二人は、互いに微笑み合いながらも気合十分だ。
「ロゼッタ、シャルロッテ様の前で無様な姿は見せられないわね」
「勿論よ、エミーナ。でも、あの豪華賞品は私がいただくわ」
その横では、明るいイエローのビキニを着たキッチンメイドのビアンカが、元気に屈伸運動をしている。下ごしらえや食器洗いで鍛え上げられたしなやかな体躯が健康的な魅力を放つ。 さらにその隣、豊満な身体を溢れんばかりの赤いビキニに押し込んでいるのは雑用メイドのロザリンだ。すでに片手にはココナッツジュースと串焼き肉が握られている。
「モグモグ……特別有休があれば、街の高級スイーツ食べ歩きツアーに行ける……! 絶対負けられないんだから!」
厨房の面々も負けてはいない。 ミステリアスな雰囲気を纏う二十四歳の蓮華は、黒のマイクロビキニで寡黙に静寂を保ち、二十八歳のシェリル(シェリ)はワイルドなホルターネックビキニで「さあ、どっからでもかかって来なさい!」と頼もしい笑顔を見せる。 二十九歳のおしず(静香)は、和風の紺色のビキニに身を包み、凛とした大和撫子の笑みを絶やさない。 厨房ヴァイオレット組の最年少、二十一歳のノエル(ノノ)は、少々小さめのピンクのビキニを照れくさそうに引っ張りながら、「ふえぇ、脱げちゃいそうですぅ……」とあたふたしている。 そして二十六歳のミレイユ(ミレイ)は、洗練されたデザインのパープルビキニを着こなし、「べ、別に賞品が欲しいわけじゃないんだからね! シャルロッテ様がやれって言ったから参加するだけよ!」とツンデレ全開でそっぽを向いていた。
「……素晴らしい。視覚的情報量がキャパシティを超えかけていますが、司会として迅速に進行します」 ベルナデットが淡々とマイクに向かって声を張り上げた。 「予選は二組に分かれて行います。うつ伏せになり、両手を頭の後ろに組んで待機。合図とともに20メートル先の砂浜に刺さったフラッグを奪い取ってください。フラッグの数は人数より1本少ない! では、第一組、位置について!」
予選第一組には、エミーナ、ビアンカ、シェリル、ノエル、そしてロザリンが並んだ。 うつ伏せになる美女たち。砂浜に押し付けられる豊満な胸元、キュッと引き締まったヒップライン。イザベラが扇子を口元に当てながら、妖しく目を細める。
「あらあら、みんなとても良い格好ねぇ。ノノちゃんのあのライン、加点対象にしちゃおうかしら」 「イザベラ先生、個人的な嗜好による採点介入は却下します」 ベルナデットが即座に突っ込む。
「スタート……パン!」
ホイッスルの音と同時に、一斉に砂が跳ね上がった!
「キャッ!?」 真っ先に転んだのは最年少のノエルだ。自分の足に引っかかり、派手に砂浜へダイブする。しかし、すぐさま立ち上がり、「負けません~!」と泣きそうな顔で猛ダッシュを開始する。
先頭を切ったのは、健康美あふれるビアンカと、姉御肌のシェリル! 「下ごしらえで鍛えた足腰、舐めないでよね!」 「ハハッ、威勢がいいねぇビアンカ! でも経験値が違うんだよ!」
二人が激しく競り合いながらフラッグへ手を伸ばす。その後ろから、金髪をなびかせたエミーナが驚異的な追い上げを見せる! しかし、最後の一枠を巡って思わぬ伏兵が牙を剥いた。
「お肉! スイーツ! 私の有給休暇ぁぁぁ!!」 すさまじい執念で砂煙を巻き上げながら突進してきたのはロザリンだ。その豊満な身体からは想像もつかない重戦車のような加速!
「うわっ、ロザリン速い!?」 ノエルが驚愕する中、ロザリンはダイブ! 見事に最後のフラッグを掴み取った。
「第一組通過は、シェリル、ビアンカ、エミーナ、そしてロザリン! ノエル選手、惜しくも敗退です!」
「ふえぇぇ、砂まみれですぅ……」 ペタンと座り込むノエルに、シャルロッテが優しくタオルを差し伸べた。「頑張ったわね、ノノ。後で冷たいシャーベットをあげるわ」「シャルロッテ様ぁ~!」と抱きつくノエル。
続いて予選第二組。 ロゼッタ、蓮華、静香、ミレイユ(ミレイ)の四人が並ぶ。こちらは静かなる闘志が渦巻く激戦区だ。
「第二組……位置について。スタート!」
バッと弾けるように飛び出したのは蓮華だ。寡黙な彼女だが、その動きには一切の無駄がない。流れるような立ち上がりから、黒いビキニを揺らして一気にトップへ躍り出る。
「あら、レンちゃん、いい走りね。でも、私も負けられませんわ」 おしずが凛とした笑顔のまま、しなやかな足取りで追う。その横から、ミレイユが必死の形相で並びかける。 「ちょっと! 邪魔しないでよ! 私はただ、完璧な美しさを見せつけたいだけなんだから!」 「ミレイ、口を動かすより足を動かしなさい!」 ロゼッタが鋭くツッコミを入れながら、内側からミレイユを追い抜く。
鋭い砂蹴りの音とともに、四人が同時にダイブ!
「第二組、勝者決定! 蓮華、ロゼッタ、静香! ミレイユ選手、わずかに届かず!」
「な、なんでよーッ!? あと数ミリだったじゃないのよーッ!」 砂に顔を突っ伏して地だんだを踏むミレイユ。ベルナデットが冷静にアナウンスする。「ミレイユ選手、ツンデレなセリフを喋っていた分、0.05秒の遅れが生じました。合理性の欠如です」 「解説の癖に厳しいこと言わないでよ!」
こうして、決勝進出者は六名に絞られた。 エミーナ、ロゼッタ、ビアンカ、ロザリン、蓮華、シェリル。 (※予選通過者の調整により、決勝は6名で5本のフラッグ、あるいは一発勝負の勝ち残り形式となる)
「さあ、いよいよ運命の決勝戦です」 ベルナデットが眼鏡を光らせる。 「ここからはサバイバル方式。一回ごとに1名ずつ脱落していきます。シャルロッテ様、何かお言葉は?」
シャルロッテは立ち上がり、可憐な笑みを浮かべた。 「みんな、素晴らしい戦いぶりよ! 決勝に残った6人には、全力を尽くして最高の美しさと執念を見せてほしいわ!」
「「「おーっ!!」」」
砂浜に一列に伏せる六人の美女。 風が止み、クリスタリア湖の波音だけが静かに響く。全員の呼吸が揃い、緊張感が極限まで高まる。
イザベラが妖しく微笑み、合図のフラッグを持ち上げた。 「それじゃあ……いくわよ?……スタート!」
パンッ!!
一斉に跳ね起きる六人! 1回戦、ロザリンが惜しくも食い意地が空回りして転倒、脱落! 「私のスイーツがぁぁぁ!!」と叫びながら散っていく。
2回戦、猛追を見せたシェリルが、若さ溢れるビアンカの弾丸ダイブに敗れ脱落! 「いやぁ、若い子は速いねぇ! 楽しかったよ!」と爽やかに笑う。
3回戦、おしずのしなやかな動きもここまで。疾風のごとき蓮華と、息の合った連携を見せるエミーナ&ロゼッタの前に涙をのむ。 「ふふ、皆様本当にお見事ですわ」
そして、残るは三名。 シャルロッテの忠実なる双璧、エミーナとロゼッタ。 そして、無口な本格派、蓮華!
フラッグの数は「2本」。ここで一人脱落し、最終一騎打ちとなる。
「位置について……スタート!」
三人が同時に爆発的な加速を見せる。 金髪と黒髪、そして黒髪ショートの美女たちが、白砂の上を乱れ飛ぶ水滴のように駆け抜ける。
「はぁぁぁっ!」 エミーナが左側のフラッグへダイブ! 「いただきます!」 蓮華が右側のフラッグへ一直線!
ロゼッタは一瞬の判断の遅れを取り戻そうと中間に飛び込むが——コンマ数秒、指先が空を切った!
「そこまで! ロゼッタ選手脱落! 最終決戦は、エミーナ選手対、蓮華選手の一騎打ちです!」
息を荒らげながら立ち上がったロゼッタは、悔しそうに唇を噛んだが、すぐに隣のエミーナへ笑みを向けた。 「エミーナ……私の分まで、シャルロッテ様に勝利を捧げて」 「ええ、任せてロゼッタ! 私、絶対勝つわ!」
運命の最終決戦。 設置されるフラッグは、たったの「1本」。
砂浜の中央にぽつんと刺さったその赤い布を、二人の美女が見つめつめる。 片や、シャルロッテへの絶対的な忠誠と愛を糧にする金髪の侍女、エミーナ。 片や、寡黙な情熱を内に秘め、完璧な走りを追求する厨房の黒き豹、蓮華。
太陽が真上から照りつけ、二人の肌に浮き出た汗が宝石のようにキラキラと輝いている。ビキニの胸元が、激しい呼吸とともに大きく上下していた。
「……最終決戦。両者、位置について」
ベルナデットの声すら、緊張感でわずかに低くなる。 シャルロッテは身を乗り出し、固唾をのんで見守っている。
二人が砂の上にうつ伏せになり、頭の後ろに手を組んだ。
静寂。 湖面を渡る風が、エミーナの金髪と蓮華の黒髪を揺らす。
(シャルロッテ様……私、頑張ります!) (……勝つ。)
イザベラがゆっくりと手を振り下ろした。
「——スタート!!!」
ドッ!!と砂が爆発した。
二人の立ち上がりは完全に同時! コンマゼロ一秒の狂いもない、完璧なスタートダッシュ。 砂を蹴り上げ、しなやかな脚が交互に地を叩く。
「速い! 両者、まさに互角! 時速換算で……計測不能なほどの執念です!」 ベルナデットの実況が熱を帯びる。
10メートル、15メートル……! 並んで走る二人の距離は変わらない。エミーナの白いビキニと、蓮華の黒いビキニが交錯する。
あと3メートル! 二人はほぼ同時に、砂浜へ向かって身体を躍らせた!
美しいフォームを描く空中のシルエット。 二人の手が、同時に一本のフラッグへと伸ばされる——!
バサッ!!!
激しい砂煙が上がり、二人の身体が砂浜を滑っていく。 静まり返る湖畔。
「……ッ!」
砂煙が収まった時、そこにいたのは——。
二人が同時に、一本のフラッグを握りしめている姿だった。 エミーナの手が柄の下部を、蓮華の手が柄の上部を、寸分違わぬ力で掴み取っていたのだ。
「あ、あら……?」 エミーナが目を丸くする。 蓮華も少しだけ目を見開き、息を整えながらエミーナを見つめた。
「……判定は!?」 シャルロッテが身を乗り出す。
ベルナデットは超精密ルーペを取り出し、砂浜に駆け寄ると、コンマ数ミリ単位で握った位置と着地タイミングを計測した。そして、静かに眼鏡の位置を直す。
「……両者、完全同体。到達時間、フラッグへの接触時間、全てにおいて差が認められません。最合理的な結論として——」
ベルナデットは二人に向かって胸を張った。
「同点優勝です!!」
「「ええっ!?」」
一瞬の静寂の後、湖畔に盛大な拍手と歓声が巻き起こった!
「凄いわ! 二人とも、なんて素晴らしい勝負なの!」 シャルロッテがパチパチと手を叩きながら駆け寄ってくる。 「二人とも同点優勝よ! 超高級ヴィンテージワインも、3日間の特別有休も、二人ぶんに増やして進呈します!」
「本当ですか、シャルロッテ様!?」 エミーナの顔がパッと華やぐ。 蓮華も静かに口元を緩め、「……ふふ。感謝します、シャルロッテ様」と深々と一礼した。
敗れたメンバーたちも笑顔で集まってくる。 「いやあ、見応えのある勝負だったねぇ!」とシェリルが二人の肩を叩き、 「おめでとう、エミーナ、レンちゃん」とおしずが優しく微笑む。 「うぅ~、羨ましいけど納得の勝負でした!」とビアンカも拍手を送る。 「ねえねえ、そのワインで優勝パーティーしようよ~! お肉も焼こうよ~!」とロザリンがちゃっかり提案し、ミレイユが「ちょっとロザリン、あんたは負けたんだから少しは悔しがりなさいよ!」とツッコミを入れていた。
「ふふ、とっても情熱的で、セクシーで、最高のレースだったわぁ」 イザベラが満足そうに胸元を揺らしながら頷く。
眩しい夏の太陽の下、クリスタリア湖の波光がキラキラと眩しく揺れていた。 砂まみれになりながらも、笑顔を咲かせる美女たち。フロストヴァイス城の特別な夏の一日は、賑やかで温かな歓声とともに、最高の思い出として刻まれたのであった。




