微睡み
「私たちと一緒に、眠り病の人を助けてほしい。」
真剣な顔で真琴が話を切り出してきた。
「……助けるっていうのはどうするんだ?」
「…方法はいくつかある。」栞が説明してくれる。
「1つ目は夢の主人を説得して自分で夢から覚めてもらう。1番穏便だけど、1番難しいやり方。」
「2つ目は主人を自分のセカイの外に連れ出す事。これは無理矢理でもできる。ただし、納得しているわけじゃないから戻ろうとするし、覚めても改善に繋がらない可能性が高い。また眠り続けようとする。」
「3つ目は…戦って無理矢理どうにかする方法」ちらっと澪を見ながら言った。
「つまりはそういう事か?」
「察しがいいのは助かる。そういう事。」
「ちなみにそれをしたらどうなる?」
「その人のセカイは完全に壊れる。眠り病からも目を覚ますけど、その人はユメセカイに入れなくなる。」「まだサンプルが少ないが、ほぼ全員が以前より無気力に近くなったそうだ。」真琴から補足が入る。
「………そうか。」
「今のどれかで自分のセカイは壊れる。必然的にレベルも下がる。」
「私たちは基本的に1を最初は試してる。だけど難しいのよ。ちなみにきみは私たちが入ってきたのを見つけた時はどう感じた?」
「どうって…一目で招かれてないなって感じて、その後は逃げなきゃって。」
「そう。どうもレベル3以上になるとユメに招かれずに入ってきた人は異物扱いされるのよ。」
栞も説明する。
「警戒心も高くなるし、場合によってはいきなり襲いかかってくるの。本人だけじゃなく夢人やレベル4ならセカイまでもが。」
「私達は色んなセカイを回って見てきた。その中で起こせる人は起こしてきている。」
「真琴と同じように現実でもこのセカイの事を覚えているあなたならきっとできると思うの。お願い。手を貸して。」
悠真は少し悩んだ。
「…そんな危ない所に入ってどうやって主人を探すんだ?」
「生身じゃ危ないよ。現実には影響無いとはいえ痛みはあるしね。でもきみには能力があるだろう?
「能力って?」
「一言で言えば願いの力。自分のセカイを作る時には多かれ少なかれ自分の願いが影響する。ユメセカイで私達みたいにユメから覚醒している人は、このセカイを変える力を他人のユメでも使うことができる。こんな風にね」
真琴が指を鳴らすと真琴の手に光が集まり、あっという間にボールペンになった。
「これが私の能力。単純に生成って呼んでる。私がイメージした物を作れる力だ。」
「それってめちゃくちゃすごいんじゃ…」
「もちろん制限はある。私が仕組みや構造をわかってないと性能は落ちる。全く興味がない物を出すとよくわからないふわっとした物が出る。」
指を鳴らすと、同じように机に光が集まるが、今度は
子どもの落書きを立体化したみたいな4つ足の何かが出た。
「…これは?」
「見ればわかるだろう?犬だ。」
「…かわいいですね。」澪ですら苦笑いだ。
「後は良くも悪くも私は研究者でね。私がありえないと思っている物は作れないんだ。だからアニメやマンガみたいな武器や物はイメージしても作れないし、同じ理由で命や心も作れない。」
「もう少し勉強したら巨大ロボットくらいは出せるかもしれないがな。」笑いながら言った。
「じゃあ俺は?」
「昨日見た限りだと…」スクリーンに昨日の自分が映し出される。
「変身能力。かな。でも状況的には戦うためじゃなくて守るため。澪ちゃんを守ろうとした。だからその形になったんじゃないかな?」
考えながら澪を見る。澪は笑って
「守ってくれてありがとう。お兄ちゃん。かっこよかったよ?」
「……そうか。」少し照れるな。
「そうそう。かっこよかったよ〜だいぶ趣味が入ってるけどね笑」
「うるさい。」
真琴が笑った後に急に真面目な顔になる。
「方法も能力についても話したところで…改めてお願い。私達と一緒に眠った人を起こすのを手伝って。」
「断る。」即答した。場が固まる。
静かに栞が口を開いた。
「……理由を聞いても?」
「俺は医者や研究者じゃない。それに…」
澪の頭を撫でる。
「この時間を減らしたくないんだ。」
「………それでいいの?」
「…………………」今度は答えられなかった。
「わかった。今日はここまで。帰りましょう。また来るわ。返事は次でいいから。」
「いいの?栞。」真琴を待たずに玄関へ向かう栞。
「あっ、ちょっと待って。」指を鳴らして名刺が1枚。
「これ、職場の番号。私の携帯も書いてある。気が変わったら連絡して。直接が嫌なら会うのはユメの中でいいから。」
待たずに栞はいなくなっていた。
「もう!お邪魔しました。澪ちゃんもまたね。」
「うん!また会おうね。真琴おねーちゃん!」
「すぐ来るわ。」にこやかに帰って行った。
♢ ♢ ♢
夜。丘の上まで澪と出かける。シートを引いて2人で横たわる。満天の星空だ。
いつもなら、俺は望遠鏡で星を探して、澪は楽しそうに星座探しをしている。
ただ、今日はそんな気分にはなれなかった。
「どうするの?」
澪が星を見たまま聞いてくる。
「断ろうと思う。」
「なんで?」
「また、澪が危ない目にあうかもしれないだろ?」
澪が起き上がって「…お兄ちゃん。昨日、守るって約束してくれたよね?」
「もちろん。守るよ。必ず。」起き上がって目を見て答える。
「だったら、他の誰かも守ってあげて?」
「…………」答えられなかった。
「本当は助けてあげたいんでしょ?」
「…………」
「きっとお兄ちゃんがその力をもらった事には意味があるんだよ。」
「……………………でも」
「大丈夫。」笑顔で澪が手を握る。
「一回だけ、行ってみよ?」
ため息をつきながら答える
「……一回だけだ。」
「うん。」
そのまま2人で静かな時間を過ごした。
♢ ♢ ♢
翌日、俺は覚えていた番号に電話をかけた。
研究所の住所も聞いたがすぐに行ける距離ではなかったので夢で会う事にした。
その日の夜、丘の上で風を感じながら目覚めると、隣で澪が本を読んでいた。
「お兄ちゃん、おはよう。」
「おはよう、澪。」
少しして、2人が入ってきたのを感じる。遠くから真琴と栞が歩いてくる。
「…こんばんは。」
「電話でも聞いたけど、協力してくれるって事でいいのよね?」
澪の手を握る。
「一回だけだ。一回だけ協力する。」
「十分だ!ありがとう!これで捗るよ!」手を差し出してきた真琴に対して、
「澪に行けって言われたからだ。誰かのためじゃない。」
「…十分だよ。」
「……ありがとう。助かるわ。」栞もまた少し笑顔になった気がした。
「じゃあ、お願いしたい夢の話ね!。私たちだけじゃダメだったけど、ここはきみがいれば行けるかもしれないんだー」
説明を聞きながら風を感じる。いつもと同じ風、いつもと同じ景色なはずなのに
このセカイが昨日とは違って見えたんだ。
一章はこんな感じです。思っていたより多くの皆様に見ていただけているようで嬉しいです。感想や評価もいただけると励みになります。
次章も途中までは作成しているのでしばらくは毎日更新できるかと思います。
それではみなさん。おやすみなさい。




