迷夢ー1
寝落ちですみません…
「……お兄ちゃん。」
「ん?」
「他の事考えてるでしょ。」
キャンプ地に用意されたテントの中。起きるまで澪と過ごそうとゆっくり話していたが、ついつい意識がさっきのセカイについていたらしい。
「ごめんごめん。」
「いーだ。話聞いてなかったでしょ。」
むくれる澪の頭を撫でる。
「……どうしても頭から離れないんだ。もしかしたら俺は同じようなセカイを作っていたかもしれない。って考えたらつい、ね。」
「今は私と話してるんだよ?」
まだむくれてる。
「ごめんって。」
「でも同じように作ってもらうのはアリだったかな〜。」
「へ?」
「だってそしたら九条おじいちゃんと同じ力が出せるでしょ?その力があったらお兄ちゃんみたいに私がみんなを守るんだけどなー。」
「その代わりにお母さん役をずっとやらなきゃいけないけどな。」
「それは嫌だな〜私は子どもがいいよ。」
「まだ子どもだろ?」
笑いながら微睡む。もうすぐ起きるような感じがした。
目を閉じると、陽太と母親の姿が浮かぶ。
2人とも笑顔で楽しそうだった。
1日だけ、しかもおままごとのような嘘だらけのセカイだったけどあの笑顔までもが偽物だったとは思えない。
だからこそー
「……澪。」
「なに?」
起きそうな頭を振る。これだけは決めておかなくては。
「明日、もう一度行く。そして……今度こそ陽太君を起こす。」
「……うん。お兄ちゃんがそれでいいなら。」
澪は少しだけ寂しそうに笑った。
「でも、無理はしないでね。」
「分かってる。」
頭が傾く。もう起きそうだ。
「……お兄ちゃん。」
「ん?」
「お兄ちゃんが迷ってること、私は悪いことだと思わないよ。陽太君が幸せそうだったから迷ったんでしょ?」
ぼやけた頭に澪の声が優しく響く。
「陽太君が本当に何を望んでるのか。よく考えて、よく見て。私はお兄ちゃんの味方だから。」
「……そうだな。それで……決めよう。……ありがとう。澪。」
頭を撫でられる。
「……おやすみ、お兄ちゃん。」
♢ ♢ ♢
翌日。私はNESTに来ていた。受付をしてエントランスで待つ。……こーゆー建物に学生の私がいるのはなんか落ち着かないな……。
少し待っていると真琴さんが来た。
「こんにちはー!」
「こんにちは、ひまりちゃん。今日は休みなのに悪いね。」
「昨日は眠れました?」
「まぁ、それなりに。」
「私は全然眠れなくて……。」
「緊張してた?」
「はい〜。」
「悠真くんとのラブラブ生活を思い出して?」
「はい〜………えっ!いや、何言ってるんですか!?」
「はっはっは!だそうだよ?悠真君。」
「えっ!いや、悠真さん違ってですね、悠真さんがイヤとかでは……」
言いながら振り向く。誰もいない。
正面を見る真琴が静かに爆笑している。
「真琴さん!!キライ!!!」
「あっはっはっは!ごめんごめん。可愛かったからついね。昨日の冒険の方だよね。ひまりちゃんからしたら初めての冒険だもんね。」
「〜〜〜!」
頭を撫でられる。
「大丈夫大丈夫。今日も帰ってこれるように頑張ろう。その為に調べるんだよ。さぁ入って。」
「う〜〜はい…。」
ゲートをくぐり、廊下を歩きながら一息つき、切り替える。今は陽太君を助ける事を考えよう。
「ちなみに悠真くんがいないとこで聞いておきたいんだけど、ひまりちゃんは栞ちゃん派?悠真くん派?」
向こうはさらっと切り替えて真面目な話をしてきた。それも昨夜1番悩んだ話題を。……これが大人の女性の余裕だろうか?
「私は……陽太君にとっては今の状況が1番幸せだと思うんです。起きたって間違いなく辛い現実と向き合って生きていかなきゃいけない。」
辛い現実に向き合うには覚悟や支えてくれる人、時間色々必要だ。規模は違うけど私も辛い現実と戦って向き合った。その結果無理しちゃったけど……
「今の陽太君が起きて、1人で現実と向き合うのは……難しいと思います。」
「……じゃあ悠真くん派かな?」
「でも、このままで良いとは思えないんです。それは絶対に違うと思うから……だから……わかりません。」
「いいのいいの。私はまぁ立場から言えば栞ちゃん派なんだけどそれが1番だとは思ってないからね。」
急に真面目な顔で話し始める。そう言うところはカッコいいと思う。
「午前中に九条さんに面会に行って話してきたんだけどね。九条さんは決めてるみたいだった。どちらか教えてはくれなかったけど。」
「私も迷ってますって話をしたんだ。そしたらね、九条さんから『よく考えるのは大事な事じゃ。けれど決めるべき時に迷うのはいかん。それは誰かに迷惑をかける。決めるべき時に決められるように筋を通しておく事が肝要じゃ。』ってさ。」
「……すみません、私にはよくわかりません。」
「まぁ私もそれで決め手にはならなかったけどね?自分の中で目的を決めておかないといざって時に困るよって事じゃないかな?」
「まぁ戦いは2人も頼りになる人がいるから。私たちはサポートと説得かな。」
「そ・れ・に、何か危ない事があったら素敵な彼氏が助けてくれるでしょう?ねー悠真くん?」
真琴さんが後ろに声をかける。またきた。今度はからかい返してやる。
「そうですね。私の素敵な彼氏であなたの息子が守ってくれますよ!私たちラブラブなので!」
ドサドサ!
後ろでファイルが落ちる音がした。
ゆっくり振り返る。悠真がいた。
「あの……その……ごめん……な?」
私の顔は沸騰した。
「〜っ!!!見ないでください!!!」
休日の研究所にひまりの悲鳴と真琴の笑い声が響き渡った。
♢ ♢ ♢
「おはよう。お兄ちゃん。」
夜、目が覚める。
テントの外では真琴たちが準備を進めていた。
九条はいつものように身体を伸ばし、栞は少し離れた場所で黙っている。
昨日のことがあってから、栞とは話していない。
「……。」
悠真が栞を見ると目が合った。だが、栞はすぐに視線を逸らした。
「……昨日のこと、まだ怒ってるのかな。」
「まぁ、あれだけ意見がぶつかったらねぇ。」
いつの間にか後ろにいた真琴が苦笑する。
「いや〜若いね〜。」
「誰目線ですか。」
「そりゃあなたのお母さん目線だよ笑笑。産んだはずないのに育てた記憶はあるしね。」
「やめましょうよそのネタ。ひまりちゃんもあの後作業にならなかったじゃないですか。」
「ごめんって。でもね、九条さんじゃないけどこういう時こそ笑わなきゃって私は思うんだ。」
「みんなが暗くなるのは良くないよ。迷ったり後悔しやすくなるし、この先どっちを選んでも雰囲気が悪くなる。」
「……真琴さんはどっちが正しいと思います?」
「私はねー、まだわからない。でも、どっちが正しいなんてまだ決まってないよ。」
「……うん。」
「だから今日、ちゃんと陽太君と話そう。」
「はい。」
「栞ちゃんともちゃんと話す事!」
「……はい。」
「じゃあお母さんからは以上です!」
言いたいことを言ってさっさと行ってしまう。
「……真琴さんらしいな。」
気持ちを奮い立たせて足を動かす。
「栞。少しいいか?」
確実に気が付いてはいるが返事はない。予想してたとはいえ無視されて凹んだ心に鞭を入れながらなんとか隣に座る。
「昨日の話だけどな、」「ごめんなさい!」
話を遮って謝られた。
「……私、あなたの気持ちも考えずに私の意見を押し付けた。あなたは1番このセカイに思うところがあるのをわかってたのに…………もっと話を聞けば良かったってみんながいなくなってから考えて、それで、あの、」
しどろもどろになっていく。
「わかったから。一回落ち着いて?」
一旦栞を止めた。目を見て答える。
「昨日は俺が悪かった。ごめん。自分の気持ちだけで突っ走って、みんなが考えてる事も置いといて陽太君を見殺しにしようとした。」
「…………」
謝られると思わなかったのか栞はフリーズしている。
「1日よく考えたんだ。……やっぱり陽太君は起こすべきだと思う。」
栞がこちらを見つめている。
「いくらユメの方が良くたってユメは夢だよ。いつか覚めるものだし、ユメが足枷になって生き死にまでつながるのはおかしいと思うんだ。」
「だから陽太君は起きなきゃいけない。どれだけ現実が辛くても。」
「……うん。」
隣に座って少しいい雰囲気だ。
「なぁ……いつかさ。栞の事を教えてくれるか?」
「……私の事?」
「うん。知りたいんだ。」
栞は黙って悩んでいる。
「………………わかった。」
「マジで!?」
「今回無事に帰ってきたらね!」
「約束だぞ?」
「……いいよ。約束。」
少し栞が笑う。
「さーそろそろ時間だよー!集まってー!」
まるで見ていたかのようにタイミングよく真琴に呼ばれる。
「呼ばれたね。」
「じゃあ、行こうか。」
2人で集合場所に向かう。その足は来る時よりも軽かった。
♢ ♢ ♢
裂け目を抜ける。
昨日と同じ住宅街……のはずだった。
「……なんだ?」
悠真が足を止める。先に入った九条さん達も足を止めている。
昨日までいた穏やかな空気がない。音もしない。
空は曇っていて、風が強く吹いている。住宅街のどこかから建物が軋むような音が聞こえる。
「……セカイの雰囲気が変わってる……?主人に何かあった?」
「いや、そんな話は聞いてないよ?起きてないはず。」
ひまりが周囲を見る。
「昨日、私達が陽太君の感情を大きく揺らしたからとか?」
真琴が端末を見ながら答える。
「うん。そっちかな。セカイそのものが影響を受けてるんだと思う。精神波の数値も昨日より高い。」
「……陽太君。」
悠真は家を見る。
そこには昨日と同じ家がある。
「行こう。」
昨日と違う雰囲気の中、家路を辿った。そして、
見慣れた家の門の前に陽太君のお母さんが立っている。
「帰って。」
低い声だった。
「今日は陽太君と話を――」
「帰って!!」
地面が揺れ、風が吹く。
「うわっ!」
ひまりがよろめいた。
「これは……!来るよみんな!用意して!」
真琴が叫ぶ。
母親が地面を抉りながら蹴った。一瞬で距離を詰める。
「速い!」
九条が前へ出る。
「またお前か!」
母親の拳が振り抜かれる。
九条が竹刀で受ける。
ドンッ!!
曇天の中、まるでゴングのように轟音が住宅街に響いた。




