幼夢ー2
毎度お待たせしてます。
「おはよう、お兄ちゃん。」
いつもの家だ。
手を伸ばして髪を撫でる。
「……おはよう。澪。」
「さぁ、今日も頑張ろうか。」
集合場所に向かおうとするが澪がついてこない。
「どうした?」
「……お兄ちゃんなんか変。」
ドキッとした。やはり顔に出ていたか?
「何かあるなら話して?大丈夫。まだ約束の時間には余裕があるから。」
「……そうだな。どうせ後で聞くしな。」
もう一度戻り椅子に向かう。澪もパタパタとついてくる。
「なんか飲むー?」
「じゃあコーヒー頼む。」
「自分で入れてくださーい。」
「おいおい。」
仕方なしに立ち上がりキッチンへ。
「あ、私はねーリンゴジュース!リンゴジュースが飲みたいなー。」
「はいはい。」
2人分用意して机についた。
「えへへ。ありがとう。」
「いつか俺にも入れてくれよ。」
「やだ。コーヒー美味しくないもん。……気が向いたらね。」
「気長に待つよ。」
一口すする。
「で?何かあったの?」
「あぁ。今日行くことになるセカイの話でなー」
真琴から聞いた事を伝えた。
「……そっか。そんなセカイなんだ。」
「その話を聞いてな?わからなくなったんだ。」
「何が?」
「その子を起こす事が正しいのかどうか。」
カラン。リンゴジュースが空になり、氷の音が響く。澪は何も言わない。
「もし、この話が俺たちの事だったらって、澪と離れ離れにならなきゃいけなくなったらって。」
澪がいなかった時の事を思い出す。息が苦しくなる。
「そんな思いをさせるくらいなら、いっそー」
言葉にはできなかった。でも考えてしまう。
このままの方が幸せじゃないか?って。
急に頭が何かに包まれる。いつの間にか横に来ていた澪に抱きつかれていた。
「大丈夫。」
気持ちが少し軽くなった気がした。
「今すぐに答えは出なくていいんじゃない?まだ陽太くんにも会ってないわけだし。」
「ちゃんと会って陽太くんがどう思ってるのか見てからでも遅くないんじゃないかな。」
頭を上げる。澪の顔が見える。
「それにね、どーしても嫌だったら、嫌になったら、やめちゃえばいいんだよ。」
「……やめる?」
「うん!もうやりたくないですー!ってみんなに言って、ここに帰ってきて、ポップコーン食べながらアニメ見ていっぱい寝よう!そしたら前みたいにあちこち遊びに行くの!」
「…………そうだな。それもいいな。」
「でしょ〜」
澪が笑顔で顔を見てくる。
「……でも助けたいんだよね。」
涙が一筋こぼれた。
「……うん。」
「じゃあ今はそれでいいんだよ。お兄ちゃんはやりたいようにやればいい。私はいつでもお兄ちゃんの味方だよ?」
「だって、お兄ちゃんは私のヒーローなんだから。」
頬を伝う水が増える。
「ほらー泣かないの!お兄ちゃんでしょ?」
差し出されたティッシュを受け取る。
「ごめんな……ありがとう。」
「うん!じゃあじゃあ!お礼はアイスでいいよ!」
目の前には変わらない大好きな笑顔。
「後で箱で買ってやるよ。さぁ、遅れちゃうからそろそろ行こう!」
「やった!約束だよ!」
集合場所へと2人で駆け出した。
♢ ♢ ♢
「それじゃあ、移動しながらもう一度だけ確認しておこうか」
運転しながら真琴が話す。
「今回の対象は中村陽太君。三歳。レベル4。」
「セカイは普通の住宅街。」
「自宅を中心に二、三ブロック程度。亡くなった母親がセカイの中に存在している。」
「うん」
広くなった後部座席に座りながら、飛行機の様に前の座面についたパネルに情報が映し出される。
「なんでこうなった……」
集合場所に行くといつもの真琴の軽ではなく、小型のリムジンのような物が待っていた。
「架空の物は作れないんじゃなかったっけ?」
「そうだよ?だからねー買ったの!」
「何を?」
「この車に決まってるじゃん。」
「すごーい!真琴お姉ちゃんはお金持ちだったんだー!」
「うむ。いい車じゃな。」
澪が座席で座りながら跳ねている。九条さんがどこからか出したサングラスをかけている。しかし突っ込むべきはそこではない。
「すごいでしょう!金額もすごくて流石にハンコ押す時に手が震えたわ…………経費だけどね!」
「いや、経費かい。」悠真がつっこんだ。
「流石に手が出ないよーでもね、ひまりちゃんも増えて車がキツイなーって思ってたら所長がOK出してくれてね。」
「『多少かかってもいいから広い車を買いなさい。』だってー!カッコいいよね〜。」
「確実にこの車を選ぶとは思ってなかったと思うわ……」
栞からもツッコミが入る。
「いいのいいの!使ってこその経費でしょ?」
「……帰ってから怒られた方がいいわね。」
笑いが起きる中、
「……大丈夫?」
ひまりは1番後ろで青い顔をしていた。
「人生で初めて空飛んでるんです……」
「お主のセカイでも飛んだじゃろ?」
「あれは……無我夢中でよく覚えてないというか……こんなじっくり飛ぶのは初めてなんです〜。」
「初フライトはどう?ひまりちゃん。」
「めちゃくちゃ怖いけど楽しいです!携帯持ってくれば良かった〜。」
「あっはっは!まぁあっても写真撮れないけどね!」
「代わりにこんなのはどう?」
真琴がボタンをいじる。
壁の一部が開き、冷蔵庫が開く!いい感じのミュージックが流れ出す!!上から小さいミラーボールが出てきて光りだした!!!
「すごーい!」「わぁ!」「おぉ!」
目を輝かせる3人。
ついていけないとばかりに後ろの方の席で座る栞の隣に移動した。
「……みんな浮かれすぎよ。」
少し不満そうだ。
「そうだね。」
聞きたい事はあるが切り出し方がわからず前のうるささをよそに沈黙が流れる。
「………………大丈夫?」
「へ?」
「今回のセカイの事。もしキツかったら……。」
「大丈夫だよ。もう澪とも話したから。」
「そう……2人とも強いのね。……私とは違う。」
最後は小さかったが確実にそう聞こえた。
「なぁ、栞はー」
突然画面に真琴が映る。
「伝え忘れてた!追加情報あるから一回、真面目にきいてね。」
みんな大人しくなる。
「セカイの中にいる母親は、陽太君が普段知っていた母親とほとんど同じ行動をしていると思う。」
「ほとんど?」
「朝起きて、料理をして、陽太君に声をかける。家の中で普通に生活している。栞が頑張って調べてくれた範囲では、陽太君の記憶にある母親をかなり忠実に再現しているみたい」
悠真は黙って聞いていた。
「つまり、陽太君にとっては本当にお母さんが生きているような感じですね」
ひまりが言う。
「そう」
「もしかして……陽太君は、自分が夢の中にいることには気づいてない?」
「そこもまだ分からない」
真琴が答える。
「気づいていない可能性が高いけど、レベル4だからね。セカイの主がどこまで自覚しているかは、実際に会ってみないと判断できない」
九条が口を挟む。
「子どもが作ったセカイだからの。見せかけは普通でも何か自分の考えた突拍子のない物があるかもしれんぞ。」
「そうなんですよね。今回、一番警戒してほしいのはそこなんです。」
「陽太君がイメージで作り出しているもの。」
「……」
「三歳の子供が、母親を失うという強烈な恐怖を抱えて作った世界だから。本人が意図していなくても、世界そのものが陽太君を守ろうとする可能性がある。ひまりちゃんの時みたいにね。」
「例えば、陽太君にとって都合の悪いものを遠ざけるとか。」
ひまりが言った。
「現実を思い出させるものを消す、とか?」
「そういうこと。」
真琴が頷く。
「だから、いきなり陽太君に現実を突きつけるのは避ける。接触はするけどまずは様子を見たい。」
「分かった。」
再び車内設備で騒ぎ出す3人を見ながら、
「栞。」
「なに?」
「どう思う?」
悠真が尋ねる。
「陽太君のこと?」
「うん」
栞は少し考えるように目を伏せる。
「……分からない。私が遠くから見ていた時はママにべったりで楽しそうな感じだった。」
「そっか」
「でも……寂しいんじゃないかな。」
その言葉に、悠真は返事をしなかった。
母親を失った三歳の子どもが母親がいるセカイを作った。
それだけで、陽太がどれほど母親を求めているのか悠真には痛いほどよくわかった。
「栞はさ……」
「アテェンションプリーィズ!当機はまもなく目的地に到着しまーす!念の為座席にしっかり座っててね!」
聞けなかった。また今度聞こう。
車を降りて少し歩く。建物に入るとホールのようなところにいつもの裂け目を見つけた。
「さぁ。浮かれ気分はここまで。突入するよ。」
「目的は陽太君との接触、様子は見るけど可能なら説得も試みたい。一応中のセカイは普通だから大丈夫だと思うけど、普通に見えるからといって安全とは限らない。」
「レベル4ですからね」
ひまりが言う。
「そういうこと。まぁいつも通り行こう!」
「はい!」「えぇ。」「うむ!」「はい。」
裂け目に入る。光に包まれ浮遊感がおさまるとー
「……普通だ」
悠真が呟く。
光の向こうには、青い空が広がっていた。どこにでもある住宅街。
「これがレベル4……?」
ひまりが警戒しながら周囲を見る。
「外から見た感じではわからないよ。ひまりちゃんのセカイだって最初はなんともなかったんだから。」
真琴が答える。
「……家はこっちよ。」
栞に案内され歩き出す。
「……のどかじゃな。人の気配がしないのは気になるが。」
九条が周囲を見渡す。
「偵察した時と同じ。」
栞が言う。
「この先に陽太君の家がある」
悠真は道の先を見る。
住宅街の中に、一軒の家があった。
「あれ?」
ひまりが足を止める。
「どうかした?」
「上手くいえないんですけど……私あのお家を見た事がある気がして。」
みんなが家を見つめた。
「気のせいですかね?変なこと言ってごめんなさい。さぁ行きましょう!」
警戒しながらも6人が家に近づく。
「どうします?」
「んーいきなり家に押し込むのはちょっとねぇ。……とりあえずインターフォン鳴らしてみるかなぁ。」
「……止まって。」
栞が立ち止まる。
「どうした?」
「今、何か聞こえた。」
全員が足を止める。
「……」
耳を澄ますと遠くを走る車のような音は聞こえるが、それ以外には何も聞こえない。
「気のせいかな。」
ひまりが言った。
「かもしれない。」
グワッ!
地面が揺れた。
「っ!?」
「何!?」
地面が大きく上下する。
住宅街全体が揺れている。
「地震!?」
ひまりが叫ぶ。
「違う!」
真琴が周囲を見渡す。
「これはセカイそのものが――」
ドンッ!!
叩きつけられたかのように地面の下から上に衝撃が走る。
「うわっ!」
悠真がバランスを崩す。
「危ない!」
九条が支えてくれた。
「なに……これ……」
ひまりが呟く。
空にまるでチャックがついたように空が裂ける。向こうは真っ黒。
そんな中から、最初に見えたのは指だった。
「……手?」
巨大な手。
人間の手によく似ている。
ただし、大きさが異常だった。
家よりも大きい。
「逃げて!」
真琴が叫ぶ。
巨大な手が上から伸びる。
悠真が走り澪のところへ。
ひまりも、九条も続く。
「澪!」
「大丈夫!」
澪が悠真の手を握る。
「一旦裂け目へ!」
巨大な指が道路を叩く。
ドンッ!!
建物が揺れる。
「速い!」
悠真が振り返る。
巨大な手がこちらへ伸びてくる。
「わかれろ!」
九条が叫ぶ。
全員が別々の方向へ飛ぶ。
巨大な手が地面を掴む。
悠真はその隙間をすり抜けようとした。
「っ!」
だが――。
手が突然方向を変えた。
「え?」
巨大な指が澪を抱えた悠真の身体を囲む。
「悠真さん!」
ひまりが叫ぶ。
「くっ……!」
だが、間に合わない。せめて、澪だけは守らなきゃと抱き抱える。
巨大な手が悠真の身体を掴んだ。
そのまま握り拳が持ち上がり、闇の中に消えた。
「悠真さん!」「小僧!」
ひまりと九条が叫ぶ。
再度闇から手が出てくる。今度は両手だ。
「ひとまず逃げるんじゃ!」
散開する。手が追いかけ、1人ずつ捕まっていく。
数分後ー
誰もいない静かな住宅街が戻ってきた。
最近見ていただけてる方が増えてとても嬉しいです。
Xにも挙げましたが、幕間みたいな感じで設定資料的な物を挙げたら需要ありますでしょうか?
すでにXの方でご希望いただいたので作成しようとは思いますがこちらでも聞きたいです。コメントお待ちしています。




