幼夢
4章スタートです。
きょうはままといっしょにおひるごはんをたべたんだ。
ままがつくったごはんはおいしかったよ。
ぼくがおなかいっぱいっていったら、ままが「えらいね」っていってくれた。
「ようたはおにいちゃんになったね」
ままがわらってた。ぼくもいっしょにわらったよ。
ままといっしょにいるとたのしい。ずっといっしょにいたい。あしたもままといっしょにあそぶんだ。ぼくはおままごとがいいけど、ままといっしょなら、やるのはなんでもいいや。
「ようた、おやすみ」
ままがぼくのあたまをなでてくれた。
「おやすみ、まま」
あしたになっても、ままといっしょ。
ずっと、いっしょ。
♢ ♢ ♢
「なあ、悠真。今日このあと飲みに行かね?」
放課後、校門を出たところで友人に声をかけられた。
「悪い。今日も予定あるんだ」
「また?」
「うん」
「最近付き合い悪くない?」
「うーん。行きたいとは思ってるんだが……」
「そうだよ。この前も断ったじゃん。」
悪友は不満そうに口を尖らせる。
「今度こそ俺の引き立て役として俺の初カノ作りのサポートをだな……」
プップ!軽めのクラクション。見覚えのある軽が停まっている。
「お前まさかまた真琴さんと、」「悠真さーん!」
後部座席の窓から制服姿のひまりが体を出して手を振る。運転席には真琴さんもいる。
悪友の顎が外れていないか心配なくらい落ちた。
「おま……あれ……制服……?歳下……?両手に花……?」
悪友の頭がショートしたようだ。
「えへへ。きちゃいました。」
「こんにちは。だいぶ元気になったんだね。」
「キチャイマシタ〜(笑)」
「あ、お友達と一緒の所、ごめんなさい。」
「ひまりちゃん。その人は放っておいて大丈夫だと思うよ。」
運転席から真琴が挨拶も早々に言う。
「………………」
我が友人は明らかに何か言いたそうな顔をして口をパクパクさせている。
「悪いな。そう言う事だから。」
固まっている友人を置いて助手席に乗り込む。
車は動き出したが友人は歩道で固まっていた。
3人はそのままNESTへ向かう。
「大丈夫でした?お友達は……その、固まってたけど。」
「多分……大丈夫。それよりお見舞い以来だね。ますます元気になったようで何より。」
「はい!すぐに杖もいらなくなりましたから。後は体力くらいですかね。」
「若いっていいね〜。」
真琴が運転しながら茶化す。
「真琴さんだってそんなに大きくは年変わりませんよね?」
「うん。悠真君からならね。ひまりちゃんからだと干支が一周するのよ私…。」
悠真はそれ以上その話題に触れるのをやめた。
♢ ♢ ♢
NESTへ到着し、会議室へ向かう。
「こっちでもどこでも会議室セット出せたらいいんだけどね〜。」
ボードやマーカーを用意する。
「さて今日の議題に入る前にひまりちゃんが正式に救助隊に参加する事になりましたー!」
真琴、拍手。悠真も釣られて拍手する。
「はい。今回から正式に参加することになりました。」
「よろしく。」「よろしくぅ!」
「よろしくお願いします。」
「本当は悠真君達と一緒にまたレベル3に連れて行きたかったんだけど……今回は緊急でレベル4に行きます。」
悠真が聞く。
「それだけやばいレベル4って事ですか?」
「やばいと言うか何というか……まぁひとまず資料を見てよ。」
ホワイトボードをスクリーンにして映像をだす。
「これが今回のターゲット。中村 陽太君。なんと今3歳。」
「3歳!?」
「3歳の子が何があったらレベル4になるんですか?」
真琴が少し黙る。
「どうしました?」
ひまりが尋ねる。
「いや、んーある意味で言うと悠真君に近いんだよ。この子。これ見て。」
『中村 陽太。三歳。』
顔写真と共に、名前の下には、いくつかの簡単な情報が並んでいる。
「陽太君の家庭はシングルマザーで母親と二人暮らしだった。」
「……だった?」
「数日前に事故が起きて、母親が亡くなった。」
真琴が悠真を見ながら言う。
部屋は静まり返った。ひまりの表情が曇る。
「お仕事に行った先での話でね。陽太君は、その日のことを受け入れられなかった。」
画面に記録が表示される。母親が亡くなった日の児童相談所の職員の記録映像だ。
優しく話しかける職員に対して陽太君は激しく泣き続け暴れた。泣いて、泣いて、泣き疲れて眠った。
そして、
「翌日から、目を覚まさなくなった」
「……」
「今日の時点で眠ってから8日経つ。そろそろ、点滴だけだと命が危ない。」
「じゃあ助けなくっちゃ。」
ひまりがやる気を出す。
「じゃあ次は入るセカイについて。一度偵察がてら覗いてきた陽太君のセカイは……一言で言えば普通だった。ひまりちゃんの時の不自然さや九条さんの時の不安定な感じはしない。まさに悠真君のセカイみたいな感じだったよ。」
ホワイトボードに情報をまとめながら説明が続く。
「ほぼほぼ現実と景色は一緒。広さもそこまで広くない。自宅を中心に2.3ブロックくらいかな。」
「違いは無かったんですか?」
ひまりが尋ねる。
「強いて言えば、住んでたアパートがあった場所に一軒家が建っている事かな。まぁ陽太君の家の認識がそれって事何だろうけど。後……母親がいた。」
ひまりが隣で息を呑む。
「セカイそのものは普通でも、内部に存在するものが陽太君の強い願望によって作られている可能性が高い。」
悠真は黙って画面を見る。
「父親はいない?」
「確認できている範囲ではいない。本当にいわゆるシングルマザーの家庭だ。」
真琴が少し間を置く。誰も言葉を挟まなかった。
三歳。
まだ母親に甘える年齢なのにその母親が突然いなくなった。それを理解しろと言われても、簡単に受け入れられるはずがない。
「現実では、陽太君は現在も眠り続けている」
真琴が説明を続ける。
「医療機関でも原因を特定できていない。最初はストレスかと思われたがNESTの観測で精神波をキャッチした。全く起きないと言う事はひまりちゃんと同じくそれだけ意識がユメセカイに深く沈み込んでいる状態と考えられる。」
ひまりが小さく呟いた。
「陽太君は、夢の中でお母さんと一緒にいるんですか?」
「おそらく。」
真琴が頷く。
「セカイの中には、陽太君の母親が存在していて、一緒に陽太君と生活している。」
「そう。まるで澪ちゃんみたいに。」
「…………受け入れられないんだろうな。」
悠真は画面を見る。写真に映る母親の姿が映し出される。特別な姿ではない。
どこにでもいそうな、一人の母親だった。
「陽太君にとっては、母親が死んでいない世界なんだ。」
「……」
「母親と一緒に暮らして、普通に生活している。少なくとも、観れた範囲ではそうなっている。」
「それなら……説得は難しいだろうから、連れ出す形?」
「その通り。」
真琴が頷いた。
「望みが母親と過ごす事くらいなら、そこまでこちらには影響はないかもしれない。問題は、陽太君が現実をどれだけ拒絶しているかだ」
「拒絶……」
悠真が呟く。
「現実では母親が亡くなっている。でも、陽太君のセカイでは母親が生きている」
真琴が言葉を続ける。
「つまり、陽太君が眠り続ける限り、そのセカイではお母さんに会える」
ひまりが息を呑んだ。
「じゃあ、もし陽太君が現実に戻ったら……」
「母親がいない現実を受け入れなければならない。」
悠真がまとめる。
「……それは辛いよね。」
「私にはそれが、陽太君にとってどれほど辛いことなのかは分からない。でもこのままだと陽太君まで亡くなってしまう。」
真琴が画面を閉じる。
「だから今回は、慎重かつ迅速に調査・解決する必要がある。」
「陽太君本人を起こすことが目的なのか?」
「最終的にはね。陽太君のセカイを壊すか、自覚してもらって起きてもらう。」
「でもどちらにせよセカイを破壊して母親とは会えなくなる?」
悠真が聞く。
真琴はすぐには答えなかった。
「……まだ分からない。それこそ澪ちゃんの例もある。起きた上でユメとの付き合いを維持できるなら1番だけど…難しいかな。」
その言葉に、悠真は少し眉を寄せる。
「でもでも、もしかしたら説得できて誰も傷付けないで終われるかもしれませんよね?」
真琴が否定する。
「今回はそれは難しいかな。」
「そもそも会話が成り立つか怪しい相手だし、、」
「セカイを壊せば、陽太君は目を覚ます。でも、それが正しいとは限らない。難しいよね。私にもまだ何が正しいかわからないんだ。」
「……」
「だからどうするのが陽太君に1番いいか一緒に考えてね。意見大歓迎。」
「はい!私も考えます!」
「よし!ひとまず今回の目的は、陽太君のセカイを調査して、どうすれば陽太君を現実に戻せるのかを考えること。」
真琴が目的を書く。
「三歳の子供のセカイか……」
「何か気になる?」
悠真がひまりに聞く。
「ううん。ただ、どんな世界になっているのかなって。」
ひまりはそう言ってモニターを見る。
「お母さんと一緒に暮らしているなら、普通の家なのかな?」
「そうかもしれない。」
真琴が答える。
「レベル4である以上、普通な家である可能性は低い。油断はしないでね。」
「分かりました。」「はい。」
悠真が頷く。
もう一度、画面に陽太君の名前が表示される。
中村陽太。三歳。母親を亡くし、その現実を受け入れられないまま眠り続けている少年。
悠真はしばらくその名前を見つめていた。
「……行こう。また夜にユメセカイで。」
みんな立ち上がった。
「うん。じゃあ今日は解散。お姉さんが送っていくよー。」
「そう言えば、九条さんは聞きましたが、栞さんは来ないんですか?」
ひまりが聞く。悠真も気にはなっていた。
「ん〜詳しくは本人から聞いて欲しいんだけどね?私もよく知らないし。栞ちゃんはユメセカイから出られないのよ。」
♢ ♢ ♢
悠真は目を閉じる。またユメセカイへ行き、人を助ける。三歳の少年が作り出した、母親との夢。
「……陽太君のセカイへ行こう」
悠真は目を閉じ、鐘の音と共にユメセカイへ落ちていった。




