醒夢ー3
ひまりの結末です。
「私も……一緒に戦う!」
ひまりが言葉と同時に、無数のカードを宙へ投げる。
巨人の周囲をカードがぐるぐると回る。
「……いったい何を?」
「見てて。ワン、ツー……」
ひまりが手を合わせる。
「スリー!!」
次の瞬間、カードが縄へと変わり、巨人の体へ絡みついた。動こうとしていた巨体がバランスを崩す。
「好機じゃ!」
「はい!」
九条と悠真が駆ける。
虎徹を振り上げ、縄に縛られた腕を一気に斬りつけた。
「吹き飛ばす方が効くなら……」
ベルトを合わせる。ダイヤルを水瓶座に。
悠真の手に光が集まり、バズーカが現れた。
「サダルカノン!」
青い大型の光弾が放たれる。斬りつけられ切れ目が入った腕を吹き飛ばした。
「やった!」
途切れた所から夢人が出てくるが、
「なんかさっきより再生遅くない?」
「もしかして……ひまりちゃんが起きたから?」
中型の夢人達まで集まり腕に絡みついて巨人の腕が再生した。
「ひまりちゃん」「どうして?」「嫌だ!笑ってよ!」「笑おう?」「笑って!」
ひまりが耳を塞ぎそうになるが、こらえる。
「……まだ、あの声がする。」
「聞かなくていい。」
栞がひまりの前に立つ。
「ううん。」
「今度は私が聞く……聞かなきゃいけないの。」
「ひまりちゃん?」
「この子が何を言ってるのか。」
ひまりは巨人を見る。
その巨大な顔は笑っている。
けれど、ひまりにはその奥に泣いているように見えた。
「……寂しいんだ。」
「何?」
「この子、ずっと笑ってるんだ。私と一緒。」
ひまりが一歩前へ出る。
「本当は誰かに『大丈夫』って言ってほしかったんだと思う。……私もそうだったから。」
ひまりはカードを一枚抜いた。
「だから、もう大丈夫。」
「ごめんね。私は一緒に戻るつもりはないよ。私はもう、自分が笑いたい時に笑うの!」
巨人が少し怯んだように見えた。
「これは……そうだね。ここは元々ひまりちゃんのセカイだから。あれが今のひまりちゃんの望みと違うなら弱体化したのかも。」
真琴が何かを思いついた。
「じゃあさ、ひまりちゃん。こういうのできたりする?」
真琴が写真を生成し見せる。
「……できると思います。たぶん……。現実でもやったことないけど……」
「よし、やってみよう!」
「でも、もしうまくいかなかったら……」
真琴が話を遮る。
「その時はこの天才がまた作戦を考えるから大丈夫!できそうなんでしょ?失敗してもいいから試してみな!憧れの大マジック!」
「…………はい!!」
《オッケー、みんな。作戦を伝えるよ!》
真琴が糸を通してイメージを伝えた。
《みなさん、お願いします!》
《おう!》《わかった。》《任せて!》《よろしく。》
「ライガー!」
片腕が再生中の巨人にライガーが突っ込み、力押しする。踏ん張っているところに
「ここ!」
栞が踵近くに太い糸をピンと張った。
巨人が引っかかりバランスを崩す!
「今だ!」「おぉ!!」
悠真と九条が足を斬りつける。
「はぁぁぁ!」
栞が糸を首にかけてそのまま地面に押し倒した。
「真琴!」
「よしきた!」
指を鳴らす。巨大な箱が生成され、巨人の体を覆っていく。
「ひまりちゃん!」
「はい!」
ひまりが目を閉じて集中する。体がオーラに包まれ光っていく。
「ワン、ツー、スリー!!!」
ひまりがカードを投げる。トランプが箱に刺さると箱が整い、切り取り線が入った。
「おぉ!」
真琴が思わず声を漏らす
「……これはすごいの。」
九条が目を細める。
「マジックだよ……人体切断マジック!」
ひまりが答える。
「タネも仕掛けもございません!」
さらにカードを投げるとカードが空中で巨大な鉄板に変わった。
「いっけー!」
ドンドンドン!線に沿って鉄板が落ちる。
巨人の身体が――
頭。胴体。両腕。両脚。
大きな部分に分かれて宙に浮かび出す。
ひまりが息を吐く。
「できた……」
ひまりはシルクハットを被り直した。
「みんな!お願いします!」
「よしきた!」
真琴が指を鳴らす。
「生成!」
無数の鉄球が両足の上に現れる。
鉄球が一斉に落ち巨人の身体を砕いていく。
「おまけだよ!」
再度指を鳴らす。手榴弾が生成され、脚の上に降り注ぎー爆炎が上がった。
「今じゃぁぁぁ!」
九条が跳ぶ。
両腕を賽の目に切り裂く。
「レグルスセイバー!」
悠真も同時に飛び上がる。剣に光が宿る!
胴体部分に刺してー
「レグルスフラッシュ!」
赤い光がたちのぼり、胴体を粉々にする。
「まだよ!」
それぞれで粉々にした物が集まり黒い固まりになっていく。
「任せて!」
ひまりがケープを投げる。固まりつつある塊に巻きつきー
「それぇ!」
ひまりが手を鳴らす。
中身が消え、ケープがフワフワと舞いながら落ちてきた。
「すごい……。」
栞が呟いた。
「ひまりちゃん、やるじゃん!」
真琴が背中を叩く。
「ううん。違うの。」
ひまりは首を振った。
「みんながいるからできたの。」
「……。」
悠真が笑った。
「じゃあ、最後まで一緒にやろう。」
「うん!」
巨人の身体は頭しか残っていない。
「笑って……。」「笑って……。」
断面から無数の夢人が互いに手を伸ばすが元気がなく、増える様子もない。
「ひまりちゃん……。」「やめて……。」「一人にならないで……。」「一緒に笑おう?」
ひまりの足が止まった。
「……。」
悠真が横を見る。
「ひまり?」
ひまりは巨人を見つめていた。
「……ごめんなさい。」
ひまりが額に触れる。
「私も寂しかったし嫌われるのが怖かった。」
「でも、だからって――ずっと笑ってる必要なんてなかったの。」
「無理してずっと笑ってたから疲れちゃってユメに逃げて……私がそんなだったから、変わりにみんなが笑ってくれるセカイにしてくれたんだよね?」
「でも……もう大丈夫だよ。」
ひまりが振り返る。
「私には、私を助けてくれる人がいたから。」
悠真が笑っている。
栞も。
真琴も。
九条も。
「だから……今までありがとう。」
そっとケープをかける。ひまりが指を鳴らす。
パチン。
頭部が光り、端から光の粒に変わっていく。
「ひまりちゃん」「もう大丈夫?」「良かったね。」「ありがとう。」「頑張ってね。」
巨大な笑顔が砕ける。その奥から、ひまりの姿が一瞬だけ見えた。泣いていた。けれど、その顔にはもう苦しそうな笑顔はなかった。
「……ありがとう。」
最後の光が舞う。
空が晴れ、辺りが明るくなった。
目の前の空間そのものに亀裂が入る。
「出口かな?」
「たぶんね。」
真琴は地面に寝転がりながら空を見上げていた。
「いやー……今回は本当に疲れた。」
「俺たちを罠にかけた真琴さんが言います?」
「言うよ!あんなに仕掛け作ったんだから!」
「その割には楽しそうでしたけど。」
「いい笑顔だったでしょ?」
九条は少し離れたところで、虎徹を見つめていた。
「……夢の中とはいえ、久しぶりに思い切り振ったわい。しかもこんないい剣を。」
刀が光に変わる。九条はそれが空に消えるまで見送った。
九条がひまりを見る。
「お嬢ちゃん。」
「はい?」
「頑張ったの。もう、無理に笑わんでよいぞ。」
ひまりは少しだけ驚いた。
それから――
「……はい。」
笑った。今度は、自分から笑った。
「でも、今は笑いたいです。」
「そうか。」
九条も笑う。
「名前の通り、大輪の花のようないい笑顔じゃな。」
ひまりが照れるように笑う。
「ひまりちゃーん!」
澪がやってきて隣に並ぶ。
「ひまりちゃん!お疲れ様!」
「澪ちゃん!大丈夫だった?」
「平気だよ!あ、お兄ちゃんもお疲れ様。」
「おれはおまけかよ。」
「ふふふ!」
ひまりも笑う。
「一緒に帰ろうって約束したもん。」
「……うん。」
ひまりは澪の手を握る。
今度は、自分から。
「約束、守ってくれてありがとう。」
悠真が手を伸ばす。
「行こう、ひまりちゃん。」
「うん!」
澪がひまりの反対側の手を握る。
「今度こそ一緒に帰ろう!」
「うん!」
ひまりは一度だけ振り返った。
瓦礫の山だが、そこに確かにあった学校に思いをはせる。
「……さようなら。」
「ひまりちゃん!」
「今行きます!」
ひまりが駆け出す。みんなが裂け目をくぐる。
ひまりも裂け目の向こうの白い光に飛び込んだ。
1人の少女の笑顔のように眩しい光。
少女は笑顔を取り戻した。
今度は、誰かに求められたからではない。
自分が笑いたいと思ったから。
瓦礫の町に風が吹く。空はひまりの笑顔と同じように晴れ渡っていた。
いい笑顔をイメージしていただけたでしょうか?




