醒夢
遅くなりました。夜更かし中です。
黒い靄が学校を覆い、校舎が変貌していく。
「ひまりちゃん!」
悠真達が校門だった場所に追いつくと、靄が壁を巻き込みながら渦巻いていた。
「なんかすごい事になってるね。」
「あの中にひまりちゃんがいるんじゃな?」
足止めしていた2人が合流する。
「あれ、触って大丈夫だと思う?」
「ダメじゃ。また操られるぞ。」
「……見て。」
話している間に靄が形を取り出した。
校舎が泥のような物を繋ぎにして巨大な人型になっていく。よく見ると泥のような物は夢人達だ。
割れた窓から見えるのは文字通り貼りつけた笑顔。
「さて、どうする?一回退くのも手じゃが。」
「ダメだよ!」
澪が叫ぶ。
「……すみません、九条さん、みんな。俺は退きたくない。約束したんです。ひまりちゃんと。必ず迎えにいくって。」
悠真も同意する。
「……私も反対。」
栞が同意した。
「多分あれをなんとかしないとひまりちゃんの精神がまずい事になる気がする。」
ギーン、コゴーン、カーン、コーン……
ひび割れたチャイムが響き、どこからか笑い声が聞こえた。
「笑って?」「「「笑って?」」」
「「「「笑って?」」」」「「「「笑って?」」」」
「「「「「「「「「笑え!!!」」」」」」」」」
笑い声と共に巨大な顔ができてくる。笑顔。
「よーし、みんなでひまりちゃんを助けるよ!」
「……あれが、ひまりちゃんのセカイ。」
「……違うよ。あんなのがひまりちゃんが望んでる事なわけない。」
澪が否定する。
「だからお兄ちゃん、お願い。」
「ひまりちゃんを助けて、あれを止めて。」
「あぁ。約束したからな。」
巨人がこちらへ動き出す。
「真琴さん!澪を頼みます。どこか隠れられる場所を作ってください。」
「任された!おいで!」
「じゃあわしらはあれと一当てしてくるかの。」
「気をつけて!」
五人が散る。
腕が振り下ろされ地面が爆ぜた。
悠真と九条が瓦礫を飛び越え、巨人の腕へ駆け上がる。
「レグルスセイバー!!」
斬撃が腕を切り裂いた。
「なんだ!?」
切断面から、何人もの生徒が這い出してくる。
「一緒に遊ぼう!」「笑って!」「大丈夫だよ!」
あっという間に生徒たちがくっつき、切りつけた場所も塞がってしまった。
さらに上へ行こうとすると机や椅子、上半身の溶けた生徒が出てきて行く手を阻む。
「くそっ!」
一人、二人、三人。
斬っても、倒しても、キリがない。
「止まってぇぇ!!!」
栞が大量に糸を出し振り下ろされた腕と脚を拘束し、糸を一気に締めあげる。
巨人が動きを止めた。
カラカラカラ!
校舎の窓が一斉に開いた。
「――え?」
窓から無数の手が伸びる。
糸を掴み外しにかかる。伸びた糸を引っ張り、栞までも引き始めた。
「しまっ……!」
引かれる。
栞の身体が宙へ浮いた。
「栞ちゃん!」
ギリギリで真琴が栞を掴む。
同時に錘を生成し引く力と拮抗させる。
「一回切って!」
「……っ!」
仕方なく糸を切る。
代わりに腕の固定をより強固になるように地面とくっつけながら糸をかける。
真琴も接着弾を生成し補強していく。
「切っても切ってもキリがないの……」
九条も竹刀を振るうがキリが無い。
「これはいかんな。」
《みな、どうする?このままでは埒があかん。》
《腕の固定も限界があるわ。補強してるけど追いつかないし、妨害がすごいの!》
《腕は切った所から夢人達が繋ぎ直してる。》
《せめてちゃんとした刀があれば……》
《!!2人とも降りて!もう腕が外れる!》
悠真達が腕から飛ぶと同時に拘束が外れ、腕が持ち上がった。
「これは……難しいね。悠真くん巨大ロボとか呼べない?」
「呼べないですし、出せたとして5人乗りですよ?1人でどう動かすんですか。」
「真琴さん、刀は出せるか?この前のよりもしっかりした物を」
「この間出したやつが精一杯です!よく知らないので!」
「イメージがあれば作れるのだろう?だったら今送る!」
糸を通して全員に刀の作り方や九条が過去に見た刀のイメージが一気に伝わり、悠真と栞は少しふらつく。
「おぉぉぉ!!なるほどね!こんな使い方があったのか!」
「今ならいける!生成!」
指を鳴らす。
鞘も柄も黒。一振りの日本刀が作られた。
九条が受け取り、抜く。
刀身は鋭く、同時に美しさを感じる。
「おぉ……間違いない。憧れの虎徹じゃ。」
「一度握ってみたかった。」
しっかりと握る。手によく馴染む。まるで昔から振っていた刀のように。
「本物じゃないけどね。いわば九条さんの憧れを形にした物かな。」
「かまわん。これなら……今ならなんでも切れそうじゃ。」
「!みんな、危ない!」
栞の叫びに巨大な腕が迫っている事に気づき避けようとする。
が、九条だけはその場で虎徹を上段に構えた。
「九条さん!!!」
一閃。
九条に迫る腕が裂け、そのまま衝撃が走り肘近くまでを裂いた。
「あははははははっ!」
笑い声が響くがどこか痛そうな感じがする。
「……すごい。」
「私こんなファンタジーな物作れたんだ……」
「いや、あれは九条さんだから……」
「さぁ!どうやって助けるんじゃ!」
腕の再生をしていて動きは止まったが打開策は今のところない。
「……九条さん。もう一度、あれの動きを止めてもらえますか?」
栞が何か思いついたように言う。
「……私がアレに糸を繋いでみます。何かわかるかもしれない。」
「危険じゃないかな?逆に栞ちゃんも私たちみたい操られちゃうかも。」
「他に今は思いつかないんです。私もやれる事はやりたい。それに……」
栞が真琴を、九条を、そして悠真を見る。
「私がそうなってもきっとみんなが助けてくれるから。」
真琴が手を鳴らす。
「わかった。やろう。」
「九条さんはさっきみたいに今度は足をお願いします!腕は私が固定する。悠真くんは栞ちゃんを連れてアレの頭付近まで連れてくのと護衛!後細かい事や情報共有は糸で!」
「はい!」「おう!」「わかった!」
再生が終わり、再びこちらに巨人が来る。
悠真が、べルトを操作する。
「来てくれ…ライガー!!」
光が走り星座を描き、星獣が呼ばれる。
巨大な機械の獅子が現れた。
「頼む。俺たちが頭に近づくまで、アレを真琴さんと一緒に抑えてくれ。」
わかったとばかりにうなる。
「じゃあ、作戦開始!」
九条が一気に接近し、再度一閃。足に切れ込みが入り、巨体がバランスを崩す。
「地獄組みって知ってる?体で教えてあげるよ!」
ついた手を真琴が木材を生成して固めていく。
ライガーと九条が腕を抑えたり切りつけたりして、動かさないようにする。
その間に悠真は栞を抱えて走った。腕を駆け上がり、首元に急接近する。
「栞!」
「えぇ!」
栞が糸を繋いだ。
♢ ♢ ♢
……
…………
………………暗い。
外の笑い声に反して意識は静かだ。
《ひまりちゃん!どこ?ここにいるの?》
遠くから声が聞こえてくる。そちらに意識を向ける。
知らない教室のドア、今よりも少し幼いひまりが前に立っている。
「……っていうかさ〜最近の七瀬ウザくない?」
ドアの向こうからの声がいやに大きく響く。
「それな!一回驚いて見せただけで調子乗っちゃってさ。テレビとかと比べたらあんなの大した事無いのにね!」
「私たちに媚び売ってるのか最近話に入ろうとしてくるんだけどね〜あれ、絶対何話してるかよくわかってないじゃん?」
「反応もイマイチだし、顔がね〜楽しそうじゃ無いんだよね〜。」
「じゃあ、今日は置いて帰ろうか!気づかなかったって事で!大丈夫!あのビミョーな笑顔で許してくれるよ!」
あははははは……
教室からの笑い声が空疎に響く。
《……ずっと嫌だった。》
《ひまりちゃん!?》
《みんなのはやりなんてわからない。メイクとかも興味ない!アイドルとか知らない!》
《でも合わせなきゃ。ちゃんと笑わなきゃ。》
《じゃないとまた1人になる。》
《楽しそうにしないと。》
《楽しそうにしないと。》
ひまりの思いが痛いほどに伝わる。
《……そっか。ひまりちゃん、ずっと頑張ってたんだね。》
《みんなと同じように笑って、同じ話をして、同じものを好きになって。》
《そうしないと、嫌われちゃうから。》
《……うん。だから、私も笑うの。楽しくなくても。》
《ひまりちゃん?》
繋がったのかひまりから反応がきた。
《笑ってるのに、ずっと苦しい。私は面白くない。》
《…………うん。》
《みんなと一緒にいるのに、ずっと一人みたい。》
《……うん。》
《……ねぇ私、どうすればいいの?都合のいい事言ってるのはわかってるの。現実が嫌になって、ユメに逃げた。最初は良かったけど、段々夢でも笑わなきゃいけなくなってきて疲れちゃった。》
《…………わからない。》
《……え?》
《私にも、ひまりちゃんがどうすれば幸せになれるのかはわからない。私は……そういう事をした事が無いから。》
《…………》
《でもね、一つだけ言えるよ。》
《無理して笑わなくていい。》
《…………》
《みんなと同じじゃなくていい。》
《でも……それじゃ、また一人になる。》
《それでもいいんじゃないかな。》
《……え?》
《一人でいることと、誰とも繋がれないことは、同じじゃないよ。》
ひまりが顔を上げる。
《好きなものが違ってもいい。》
《話についていけない時は、わからないって言ってもいい。》
《笑えない時は、笑わなくてもいい。怒ったって泣いたっていい。》
《それでも一緒にいてくれる人を、探せばいい。》
《……そんな人、いるのかな。》
《いるよ。きっと。》
栞が優しく答える。
《……私も1人だったけど……それでもこうやって誰かと会えた。笑えない事も多いけど、それでも信じられる。》
《…………》
《悠真くんも、真琴さんも、九条さんも。》
《みんな、ひまりちゃんを助けるために来てくれた。今頑張ってくれてる。》
《それは……》
《澪ちゃんとも話したでしょう?あの子はあなたが笑っていたから仲良くなってくれたの?》
《ひまりちゃんが、ひまりちゃんだからだと思う。》
《…………》
《私は、ひまりちゃんのことをまだそんなに知らない。》
《でも……もっと知りたいと思ってる。もちろん、その結果ぶつかるかもしれない。それでもあなたの事を知りたい。》
《好きなものも、嫌いなものも。》
《笑いたい時も、笑いたくない時も。》
《全部ひっくるめて、ひまりちゃんなんでしょう?》
ひまりは何も言わない。
《……私、本当は。》
《うん。》
《本当はあの時……怒りたかったの。》
《うん。》
《私だって一緒にいても楽しくない!話題だってよくわからない!反応が微妙なのだって気づいてた!》
《……一緒にいても、無理しなくていい人が欲しかった。》
《……うん。》
《だったら、もう無理しなくていいよ。》
栞の声は優しかった。
《みんなに合わせたくないなら、合わせなくていいし、嫌なものは嫌って言っていい。もちろん一人になりたくないって言ってもいい。》
《……わがままじゃない?》
《わがままじゃないよ。》
《だって、それは「自分を大切にする」ってことでしょう?》
いつの間にか目の前に、ひまりが膝を抱えている。
《……栞さん。》
《なに?》
《私……笑わなくても、いいのかな。》
《澪ちゃんも天城くんも無理して笑わなくていいって言ってくれたの。》
《うん。》
《私がやりたい事をやったり、嫌なことを嫌って言っても、それでも……誰かと一緒にいられる?》
《それは……わからない……でもきっと大丈夫。》
《だって、私たちもそうだから。》
《…………》
《悠真くんも、真琴さんも、九条さんも。》
《みんな違う。》
《考え方も、好きなものも、生きてきた時代や場所も。》
《それでも今、一緒にいる。》
栞がひまりへ手を伸ばす。
《だから、ひまりちゃんも。》
《無理に誰かに合わせるんじゃなくて、ひまりちゃんのままでいていいんだよ。》
ひまりが出された手を見つめる
恐る恐る、その手を握った。
♢ ♢ ♢
栞が糸を繋いでから少し後。巨人が動きを止めた。
しばらくすると糸が光り出してー
「栞!?」
「悠真くん!一緒に引っ張って!」
光る糸を2人で引っ張る。
「一緒に帰ろう!ひまりちゃん!」
首の泥からひまりが出てきた。
2人を抱き抱えて腕を駆け、飛び降りる。
《みんな!ひまりちゃんを見つけた!》
《よし、そのまま離脱しよう!》
途端に巨人が再び動き出す。相変わらず笑い声は聞こえるが苦しそうな笑い声だ。身体中から黒い靄が溢れてきている。
「ひまりちゃん」「一緒に笑おう?「どうしたの?」「なんで笑ってくれないの?」「どうして?」
「笑って?」「ほらほら」「笑って?」
「笑え!!」
一気に靄が強まり、笑い声以外出さなかった巨人が初めて寂しそうに悲しそうに叫んだ。
名刀って色々あるんですね。私も欲しくなりました。
眠い中作ったので見直したら改稿するかもしれません…




