迷夢ー2
本日分です。
揺らぎの光から出てくると、そこには前回と変わらない住宅街。そして学校が広がっている。
校門。大きい校舎。
そして――笑顔の生徒達。やっぱり全員が笑っている。
しかし今回は、何かが前回と違うような気がした。
「警戒されてる?」
そのまま悠真たちが校門をくぐると、近くにいた生徒が全員こちらを見る。笑顔のままで。制服は着ているが、前回と違う反応に怯んでしまった。
一瞬こちらをみた生徒たちはすぐに表情はそのままでいつもの行動に戻っていく。
「びっくりした……やっぱり見られてる。」
栞が警戒する。
真琴が端末の情報を確認する。
「ひまりちゃんの反応、見つけた。校舎の奥の方。」
反応が移動している。
「動いてる。行こう。さぁ手短にすますよ〜」
真琴が笑顔で言った。
廊下を進みながら、発信機の反応を追う。
やはりひまりは一人ではなく、数人の生徒に囲まれている。前回と同じだ。
ひまりが誰かと別れるとすぐに
「ひまり、次体育だよ!一緒に行こう!」
「今日のお昼どうする?」
などと誰かが自然に話しかける。
ひまり自身も笑顔で返事をしている。
《次の階段横。取り巻きが減ったら行くよ。》
糸を通じて会話し配置につく。
ひまりが数人の生徒と共に廊下を歩いてくる。
「じゃあ後でねー。」
グループが分かれて、ひまりの横には2人いるだけだ
真琴が指を鳴らす。
「生成。」
巨大な壁が階段とひまり達の前方に出現し、前にいた取り巻き達と分断した。
「えっ?」
初めて、ひまりの笑顔が一瞬だけ崩れるのを見た。
しかしすぐに戻る。
壁の向こうや後方から生徒たちが騒ぐ声が聞こえてくる。
「ひまり!」
「大丈夫!?」
「どうしたの!?」
「後は頼んだよ〜。」
後方にも壁を出す。
「ここはわしらに任せい。」
壁の向こうから九条さんの頼もしい声が聞こえた。
真琴も盾や刺股、などを生成した。
前からは叫びながらこちらにくる生徒の群れ
さらに指を鳴らし、1人ずつしか通れないように道を細める。通ってきた人は
「はぁ!」
九条が竹刀で突き返した。
「次!」
廊下の端が見えない程度には生徒が集まっている。
「頼むよー長くは持たなそうだから。」
少しでもと粘着弾を作り集団の後方めがけて投げる。
先の見えない戦いが始まった。
♢ ♢ ♢
こちらも壁が完成してすぐに動く。悠真が変身すると取り巻きの生徒がこちらに向かってきたので2人を抑える。栞が糸で2人を拘束し、転がした。
そして、やっとひまりと対峙する。
ひまりは笑顔で二人を見る。
「……こんにちは。」
「こんにちは。」
自然な挨拶。まるで何も起きていないような挨拶に悠真は恐怖を感じた。
恐怖を跳ね返しながら慎重に話しかける。
「七瀬さん。少し話をしたいんだ。」
「……私と?」
「うん。」
ひまりは少し考えてから笑う。
「ごめんね。やめよう?」
「え?」
「こういうこと、しない方がいいよ。みんな心配しちゃうから。」
「でも俺たちは――」
「大丈夫だから。」
話をひまりが遮る。少し声が大きくなる。
「ここは楽しいところだよ。みんな優しいし。誰も怒らないし。誰も傷つかない。あなた達もみ 見たでしょ?」
優しい笑顔。こんな状況でなければ惚れてしまいそうなほどに可愛く儚げな笑顔だった。
「だから、もう帰って?」
栞が続けて問いかける。
「あなたは、本当にここが楽しいの?」
「うん!すごく楽しいよ。」
即答だった。
「……あなたに従ってくれる人ばかりだから?」
「やだなー従ってくれてなんて無いよ。みんな優しいから協力してくれてるだけだよ。」
悠真は少し踏み込む。
「じゃあ……昔のことを聞いてもいい?」
「昔のこと?私の?」
「中学の頃。」
その瞬間ひまりの笑顔が止まる。
周囲の音が遠くなる。まるでこのセカイが止まったような感覚。
悠真が続ける。
「学校に行けなくなったことがあったんだよね。」
栞が悠真を見る。
《悠真くん、慎重に》と念話。
ひまりは俯く。そして――
無表情になった。
「……どうして知ってるの?」
声からも笑顔が消える。
「詳しくは知らない。けれどー」
その瞬間。周囲から声が聞こえる。取り巻きは転がっていて、壁も突破されてないがたくさんの生徒たちの声が響く。
「ひまりちゃん?」「どうしたの?」「笑って?」「ねぇ、ひまりちゃん。」「大丈夫?」「笑って?」「問題ないでしょ?」「ひまりちゃん?」「さぁー」
「「「「「「「「笑って?」」」」」」」」
…………ひまりは答えない。
すると――
転がしていた取り巻きが急に動き出す。糸を引っ張り、人の体ではあり得ないような動きでこちらに来ようとする。笑顔のまま、笑ってない目だけが異様にこちらを向く。
「……まずい。」
栞が呟く。
《何したの?夢人達が急に勢いが強くなった!》
《まだか!もたんぞ》
壁の向こうの2人からも焦った声が届く。
♢ ♢ ♢
「真琴!」
「分かってる!」
真琴が刺股で壁を登ってきたのを迎撃。叩き落とした。
九条も青年の姿で剣を構える。
「どうなっとる。急に勢いが増したぞ!」
身体能力も上がっている。数も多い。押し返すのも大変になり今は力技でなんとか押している。
「なんじゃこいつら……!たくさんくるのは楽しいのう!」九条さんが笑顔で薙ぎ倒す。
「あっ!」
壁の向こうで窓が割れ、夢人達が外に飛び降りていった。
♢ ♢ ♢
階段側の壁やひまりの後ろの壁からは激しく叩く音が聞こえる。
そして――
パリン!!窓が割れ、外から笑顔の生徒が入ってきた。
「うそっ!!」
「ここ三階だぞ!!」
即座に糸と力で入ってきた2人を抑えるが
「こんにちは!」「一緒に遊ぼう!」「ひまりちゃんを困らせちゃダメだよ!」「さぁおいで?」「次の授業に行こう?」
どんどん壁を登って入ってくる。
言葉は優しく笑顔だが、こちらに加える攻撃は容赦がない。
「っ!」
悠真が避け、突き飛ばす。
栞の糸が生徒を弾き飛ばす。壁の様に張られてこちらに来るのを防ぐ。たくさんの生徒が蜘蛛の巣にかかった獲物の様になる。が、その人数がどんどん増えている。
「気持ち悪い……!」
ひまりはその様子を見ながら、
「……やめて。」と呟く。
「みんな、そんなことしなくていいよ。」
夢人たちは笑顔のまま答える。
「大丈夫!」「僕たちがひまりちゃんを守るから!」
「安心して!」「大丈夫だよ!」「笑って?」
悠真は攻撃を避けながら叫ぶ。
「ひまりちゃん!」
「君が作ったんだろ、この世界!」
ひまりの動きが止まる。
「誰も怒らない。誰も嫌な顔をしない。誰もひまりちゃんを嫌いにならない。そんなセカイを作ったんだろ?」
「だから――」
ひまりが小さく首を振る。
「違う。」
「……え?」
「そんなのじゃないの。」
笑顔ではない。
初めて見る、普通の少し泣きそうな少女の顔。
「私は……そんなユメを作りたかったんじゃないの!」
そして、ひまりの顔もノイズが入る。
すぐに笑顔に戻った。
「だから、もう帰って?」
その瞬間、糸も切れ、生徒たちの攻撃がさらに激しくなる。
他の生徒に構っている間にひまりは立ち去ろうとしている。
「待って!」
せめてもう一声かけようとしたその時、
《お兄ちゃん!》
澪の声。悠真の動きが止まる。
《助けて!》
仮面の下で悠真の表情が変わる。
「澪?」
《たくさんの人が……街の方に来てる……誰か……》
《お兄ちゃん……怖い……》
「澪!」
「何があったの!?」
栞も叫ぶ。
しかし返事がない。
《みんなごめん!撤退しよう!》
悠真が糸を通して叫ぶ。
《わかった。どうやってでる?》
《真琴さん達は?今どんな状況?》
《ごめん、こっちも大変で一緒には行けないかな?》
言葉以上に明るそうな声で返事が来る。
《すまんの。こっちは大丈夫じゃから先に逃げてくれ。》
九条さんからも。
栞がこっちを見る。頷く。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
生徒たちを一気に吹き飛ばす。
「栞!」
栞を抱えて、窓から飛び出した。
(澪……間に合ってくれ!)
赤い残光が残るくらいのスピードで駆け抜ける。
その後ろ姿をひまりが笑顔で見送る。
「……ごめんね。」
顔は笑顔だが泣いている様に聞こえた。
住宅街へかけ戻る。
「澪!」悠真が叫ぶ。
返事がない。
「澪ちゃん!」
栞も周囲を見る。
栞が糸を確認する。
「……切れてる。」
「そんな……。」
「確かここに隠れててって……」
真琴が出してくれた植物に偽装したテントは空っぽだった。
「……っ!」
悠真は走り出す。
住宅街を探す。公園。路地。近くの家の裏。
どこにもいない。
「澪!」
「落ち着いて!糸の切れ端はこっちよ!」
そして――
悠真の顔から血の気が引く。
「……嘘だろ。」
最後に澪と繋がっていた糸だけが、地面に落ちている。その先には――
九条さんの時に見たような黒い靄がほんの少しと
澪が履いていた靴が片方だけ残っていた。
遠くからチャイムが聞こえる。
何事もなかったかのようにみんな笑顔で学校が始まろうとしていた。
書いていて笑顔の人の群れを想像するのが怖くなりました。




