黎明
九条さんが消えた後、セカイからでて、みんなで帰る。空飛ぶ車で送ってもらった。
車内ではしばらく誰も口を開かなかった。
「いやぁ〜」真琴が息を大きく吐く。
「過去一疲れた。もう当分レベル4は勘弁してほしいね。」
栞が少し笑う。
「でも。助けられたね。」
「うん。」
真琴は悠真を見る。
「助けたのは君だよ。」
「俺?」
「あぁなったら、多分私達だけなら倒して終わりだった。使わないだけで後先考えなければ色々作れるしね。私も途中でそう判断した。」
「でも。君は最後まで倒さなかった。」
悠真は苦笑する。
「倒せなかっただけだよ。俺だって澪が意見を言ってなかったら嫌だったけど倒してたかもしれない。」
「違う。」
栞が首を横に振る。
「他の人がなんと言おうとあなたが倒さないと決めた。」
「それは大きな違いよ。」
真琴も続ける。
「研究者としては非効率でおすすめできないけどね。人を救うなら、君の方が正しかったのかもしれない。」
そんな風に褒められるのは慣れていないので少し照れ臭くなる。
「真琴さん。お願いがあります。」
「なに?」
「現実の九条さんに会わせてください。会いたいんです。」
「…わかった。私も会いに行くつもりだけど、一緒に行く?」
「お願いします。」
「オッケー。じゃあついでに終わったらおねーさんとデートしようか。」
「………検討させてください。」
「そこは即答するところでしょう?明日にでもどう?」
出発した時よりも疲れているが、明るく、達成感に溢れた状態で俺たちは帰る事ができた。
朝。気怠い体を叩き起こして大学へ向かう準備をする。
昨日は一晩で何日も経験した気がするのに、起きてみると一晩で体の感覚にズレが出てきそうだ。だが、多少気怠さはあるものの激しい痛みや疲れが残らないあたりは夢なのだと思う。
「………変身。」鏡の前でアストレンジャーの変身ポーズを取ってみる。もちろん変身はできない。
ため息をつきつつ俺は大学へ出発した。
「よう!悠真!」
授業終わりに後ろから肩を叩かれる。
「よう。リベンジはどうだった?」
「…俺の素晴らしさに気づく女性はいなかったな。」
女性陣の眼鏡はまともだったようだ。
「それは残念だったな。」
「なぁに、まだまだチャンスはあるって。なんなら今日もある!」
「懲りねぇなぁ。」
「そう言うお前はどうだったんだよ。女性との約束は。あれだろ?相手はお母さんとかそういうオチだろ?」
「あー……都内にドライブしたな。その後……一緒に激しく運動して……人生について本気で考えさせられた。」
嘘は言っていない。
「はいはい。つくならもう少しまともな嘘をだね…」
「きたきた。悠真くん!」
呼ばれた方を見ると路肩に停めたどこかで見たような水色の車の横に真琴が立っていた。
「やぁ。昨日ぶり。」
「約束より早いじゃないですか。」
「早めに出れたからね。会えたらラッキーくらいのつもりで来たんだ。ここから乗っていけた方が楽だろ?」
「ありがとうございます。」
「悠真……こちらの方は?」
我が悪友は可哀想に金魚のように口をパクパクさせていた。人間驚くとホントにこうなるのかと見ていて面白い。
「お友達かな?はじめまして。神代真琴です。悠真くんとは…」ニヤリ
「何度か熱い夜を一緒に過ごした関係……かな?」
なるほど嘘は言ってない。後ろで悪友が石化する。固まった音まで聞こえた気がする。
「悪いけど悠真くんを借りていっていいかな?これからドライブデートに行くんでね。」
「えぇ………はい。もちろんです。」受け答えがAIみたいになっている!
「悠真!テメェ…いや、アニキ…違う、師匠、師匠と呼ばせてください。」
「いや、すまんがお前の勘違い…」
「いやいや、おねぇ様をお待たせしてはいけません師匠。飲み会にはまた誘いますので武勇伝を聞かせてください。なんなら私めにアドバイスや真琴さんのお友達をご紹介ください。」
「だから違うって……」
「では、真琴さん。悠真をよろしくお願いします!」
泣きながら駆けて行ってしまった…
促されるままに車に乗る。運転席では真琴さんが大爆笑していた。
「いや〜愉快なお友達だねぇ笑笑」
「後で誤解とくの俺なんですから勘弁してくださいよ。」
「ごめんごめん。じゃあ出発!」
気味のいいエンジン音とラジオからのBGMを聴きながら出発した。
他愛もない話をしているうちに病院に到着する。
受付で手続きをして、特別病棟へ。
「寝たきりだった九条さんが急に目覚めたって午前中は大騒ぎだったみたいね。今は病室に戻ってるそうよ?」
ノックをして入室。広い部屋だが、今ベッドを使っているのは1人だけのようだ。
ベッドの上には、夢の中よりも弱っては見えるが、あの強い老人が座っていた。
入室に気づいてこちらを見る。目があった。少し見つめられてー
「……小僧と嬢ちゃんじゃないか。」
「えっ」真琴が驚く。
「覚えてるんですか?」
「あぁ。不思議と起きてから頭がスッキリしとる。早いとこ誰か来ないか待ってるところじゃった。」
「なぁ小僧。昨日は楽しかったの。願わくばまたやりたいのう。」
「…はい。俺も九条さんとまた打ち合いたいです。その時は色々教えてください。」
そんな時は来ないと知りつつ2人は寂しげに笑う。
そこに
「……父さん?」六十代ほどの男性とその妻らしき女性。さらに孫らしき青年。
皆、不安そうな顔だった。
「父さん!」
息子が九条の手を握る。九条は思い出すように、確かめるように、じっと顔を見つめて
「……修一か。」
息子が息を呑み、固まる。その肩が震えた。
悠真たちも息を呑む。
「父さん……。思い出したのか?……。」
九条は困ったように笑う。
「全部じゃない。じゃが……今まですまんなぁ。」
「ありがとう。」
その一言だけで十分だった。
息子は涙をこらえきれず、父の手を握ったまま泣き崩れる。孫も静かに目元を押さえていた。
その光景を見ながら、悠真は胸の奥が温かくなるのを感じた。
夢で救えたものは、ちゃんと現実へ繋がっていた。
♢ ♢ ♢
病室を家族だけにしてあげようと出た。真琴さんは担当医に話を聞きに行っている。
「…守れたんだ。」ぽつりと言葉が出る。
「お待たせ!どっちか飲む?」
「甘くない方で。」
「大人だね〜」笑いながら横に座る。
「九条さん。加齢によるもの以外は健康だって。なんなら今までついていた認知症の病名が無くなりそうだって先生が言ってた。」
「良かったです。」
「じゃあ、この後はお姉さんとデートしよう!悠真くんを連れていきたい所があるんだ〜」
「どこですか…?」
にっこり笑って「い・い・と・こ・ろ」
若干怖さを感じつつも俺は車に乗った。
数十分後
「ようこそ!NESTへ〜!」
真琴さんがテンション高く歓迎している。連れてこられたのは真琴が所属しているNESTの本部兼研究所だった。
「そういう事でしたか…」
「今日は案内と説明。後。合わせたい人が…」
「ようこそ。君が天城悠真くんだね。」
前から来た白衣姿の男性が言った。
「少し、時間をもらえるかな。」
♢ ♢ ♢
所長室。机の上には今回の観測データが並んでいる。
所長は静かにファイルを閉じた。
「報告は神代くんから聞いたよ。君のおかげで九条さんは戻ってきた。」
「ありがとう。」
悠真は首を横に振る。
「俺だけじゃありません。みんながいたからです。1人では無理でした。」
所長は微笑んだ。
「だからこそ。九条さんを救った君に正式にお願いしたいと思ってね。」
静かな声だった。
「NESTに協力してほしい。君の力が必要だ。」
部屋が静かになる。
九条の笑顔や澪の言葉。
「守れたね。」
その声が胸の奥で響く。
一人では何もできない。
でも。
手を伸ばせば救える人がいる。その可能性を知ってしまった。
ゆっくりと所長へ向き直る。
「俺一人じゃ助けられません。でも、助けられる人がいるなら。」
少しだけ笑う。
「もう少し。手伝わせてください。」
真琴がガッツポーズをする。
「よし!採用!」
「できる限りのバックアップは約束しよう。よろしく頼むよ。」
夢だけでは、人は救えない。
現実だけでも、人は救えない。
だから。
夢と現実、その両方を歩いていく。
その一歩を、悠真は静かに踏み出した。
2章終了です。
楽しんでいただけてますと幸いです。
3章もお楽しみに!




