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re:Dream  作者: 夜更かし虎
剣士の夢

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17/32

黎前ー3

夜明けの回です。

夢を見ていた。

不思議な夢じゃ。

夢の中ではわしは子どもの頃の姿や成人した頃の姿になって、思う存分剣を振るう事ができた。

挑戦者がたまに来たり、最後にはひよっこ剣士も来てくれて楽しく立ち会う事ができた。

楽しかったんじゃ。

そしてー


「…………ここは。」

九条がゆっくり目を開く。その瞳には、先ほどまでの狂気はない。ただ疲れ切った老人の目だった。

「大丈夫ですか?」栞が聞く。

「大丈夫じゃ。全部覚えておる。迷惑をかけてすまなんだ。」

体を起こしながら澪を見る。

「そうか……おまえさんらが。ありがとう。」

「おじいちゃん。大丈夫?」

「あぁ。怖がらせてすまなかった。」

優しい笑顔で笑う。


その向こうで――

ズル……ズル……


黒い怪物がうごめく。もはや人の形を留めていないのに動きながらも溶ける体でこちらに近づいてくる。

「まだだ…まだ足りぬ。」

「若さが…力が……命が………。」


九条は静かにみつめる。

「あれは……?まだ生きてるの?」

真琴が息を整えながら観察する。

栞が伝える。

「あれはあなたの願いが暴走したもの。」

「剣の話じゃない。老いを拒んだ心だけが残った。」

「今思えば、あれは九条さんの恐怖なんじゃないかって思うの。」

老人は黙って怪物を見つめた。

「……そうか。」

「わしは、こんなにも怖かったんじゃな。」

誰も答えなかった。

怪物は近づきながら溶けかかった刀を振り上げている。

「生きる。生きねば。」

「まだ終わりとぅない。終われない。」

乱雑に腕ごと刀を振り回しながらこちらに近づく。

「ライガー。」

ライガーが前へ出て迎撃しようとする。

しかし。

「待て。」

九条さんが立ち上がり、静かに前へ歩いた。

「九条さん!?」

悠真が止めようとする。

「ありがとう。小僧。もう十分じゃ。」

弱々しくはあるがしっかり立っていた。何より目が、戦っていた時と比べても遜色ないくらいに力が入っていた。

「後はわしの役目じゃ。わしが決着をつける。」

ゆっくりと悠真へ手を差し出した。

「……その剣を貸してくれんか。」

悠真は迷った。しかし老人の目を見て頷いた。

レグルスセイバーを両手で渡す。老人は大切そうに受け取る。


一振り。力はほとんどこもっていないと思えるのに風を切る気持ち良い音がした。


「……軽いの。」

少し笑う。

「いや。わしが弱くなっただけか。」

剣を握る。最初は震えていた手が少しずつ落ち着いていく。ゆっくり正眼へ構え、異形を見つめる。


その姿は、老人とはとても思えず

ただ、一人の剣士だった。

「来い。」

怪物が咆哮し、少し速度をあげ靄がくすぶる刀を振り下ろす。

九条は避けない。

一歩。静かに踏み込む。

カァン……

怪物の刀が止まる。

「!」全員が息を呑んだ。

怪物は何度も斬りつける。それを時にはかわし、時には受け流していなす。

力ではない。技だった。

「ウグぁあアァああア!!!」

さらに連撃がせまる。

しかし九条は全てを受け流す。

一本。また一本。

まるで長年続けた稽古のように。

「違う。」老人は静かに言う。

「剣は誰かを斬るためのものではない。」

怪物が叫ぶ。

「嘘だ!力が無ければ守れぬ!若さがなければ抗えぬ!」

「もっと若ければ!」

「もっと!もっと!」

九条はゆっくり首を振る。

「そうじゃな。若ければ守れたものもあった。」

カン!

「もっと力があれば救えた人もおる。」

カァン!

少しだけ空を見上げる。

「じゃがの。老いたから見えたものもある。」

キン!

「弱くなったから誰かに支えてもらえることも知った。」

静かに笑う。

「それも人生じゃ。」

カァァン!

怪物の刀を九条は剣で巻き上げ、手から跳ね飛ばす。

地面に刺さった刀は溶けてなくなってしまった。

怪物が震える。

「違う。」「いやじゃ。」「認めん。」「終わりたくない!」「終わるのは怖い!」「やめろ!」

「お前は怖くないのか!」

九条は優しく微笑んだ。

「怖いさ。…今でも怖い。」

「明日には、今思い出した家族の顔を忘れるかもしれん。」

「名前も。」

「……いずれ剣の握り方も。」

少しだけ涙が滲む。だが、決めた。

「それでも、帰らねばならん。」

怪物は震えながら後退した。

「嫌だ…嫌だ!帰れば、もう何もできない。もう剣も振れないんだぞ!」

九条は静かに答えた。

「そうじゃな。起きてしまったらもう…剣は振れん。」

「だから。最後くらいは」

「自分で終わらせねばな。」

正眼。場の空気が変わる。弱々しい老人がヒーローの剣を持っているだけ。そのはずなのに見ているだけで圧が来る。体に緊張が走り、空気が肌に針のように突き刺さる。

悠真は思わず息を止めた。

真琴が小さく呟く。

「あれは…最後に道場で見た構え。」

栞も頷く。

「そうね…同じようだけど違う。あの時より綺麗だわ。」

九条は静かに目を閉じ思い浮かべる。

幼い日の自分。父母。かけがえない仲間。父の道場。

焼け野原、必死に生きたあの頃。

妻、産まれた息子、どんどん大きくなる。

自分の道場。自らを鍛え、人にも教えた時期。

息子の結婚、孫の誕生、………自分の病室。

色んな人の涙、笑顔。

忘れたと思っていた景色が、ゆっくり戻ってくる。

「……そうか。待たせておったの。」

目を開く。怪物へ笑いかける。

「長い間ありがとう。」

風が吹く。音すら聞こえなかった

次の瞬間。2人は肉薄しており、膝をついた怪物の首元に剣を突きつけた。九条さんがいた。

「もう十分じゃ。」

剣を離す。怪物に、()()()()()()()()()()()()|に手を差し伸べる。

「さぁ。一緒にわしらを待ってくれてる人の所へ帰ろう。」

怪物は驚いたように九条を見る。

そして少しだけ笑った。

「そうか。十分か。」

怪物に一本の白い線が走る。それを中心にヒビが広がる。

黒い靄が花びらのように光となって空へ溶けていく。


静寂。

九条さんはレグルスセイバーを両手で持ち、悠真へ返した。

「良い剣じゃ。」

「ありがとうございます。」

悠真は受け取り、静かに頭を下げた。

九条は静かに一礼した。

道場で何万回と繰り返した礼。感謝の心がこもった綺麗な礼だった。

「お疲れさまでした。」

九条は照れくさそうに笑う。

「まだまだじゃ。」

「帰ったらやらないといけん事がたくさんある。」

「まずは、家族に謝って、お礼を言わねばな。」

「えぇ。みんなきっと待ってます。」

「……さっきまで顔も名前も忘れていた家族じゃがな。」

冗談めかしながら言う口調に真琴と栞も思わず笑った。

その瞬間、世界全体が柔らかな光に包まれる。

ひび割れた地面や瓦礫は消えて一面のひまわり畑へ戻っていく。

セミの声が聞こえ、夏の風が吹く。

「……ここはな。あいつに求婚した場所なんじゃ。あいつはひまわりが好きでな。」

「現実ではもう残ってない。もうわしだけの景色じゃ。」

照れを隠しながら言う。

「そんな大事な事も忘れてたんだからのぉ。許してもらえるじゃろうか?」

「おじいちゃん。」

澪が近づいて手を取る。

「大丈夫。みんな受け入れてくれるよ。」

九条は最後に空を見上げた。

「今日は本当に楽しかった!」

その言葉とともに、

笑顔の老人の姿は光へ変わり、ゆっくり空へ溶けていった。

残ったひまわりが風に揺れる。

悠真はその景色を見上げながら、小さく呟く。

「一人……守れた。」

その言葉に、澪は嬉しそうに笑い、そっと悠真の隣へ並んだ。

「うん。お兄ちゃん、ちゃんと守れたね。」

ありがとうございました。後1話で2章は終了予定です。

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― 新着の感想 ―
老人×刀はどの作品でも味のあるキャラになりますね。 今の所の最推しです
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