夢刃ー4
爆音が響く。
ラッパの音や怒鳴り声が聞こえる。銃声や機銃掃射の音も。時折地面が爆発し、土煙が待っている。
子どもだった九条さんは、10代後半くらいの青年になっていた。軍服を着ており、日本刀を持っている。
「続きをやろう。」
変わらずに目を輝かせながら悠真を見る。
「本当に戦う事以外考えてないのか?」
…返事はない。変わりに間合いを詰めてくる。
ガキィィィン
刃が交わる鈍い音
「くそ!」
無理矢理押し返して、俺は剣を投げた
「!!?、血迷うたか!」刀で捌く。
「!?」
いつの間にか間合いを詰め、斧を真横に構えた悠真がいた。
振り抜く。後ろに飛んで回避。
そのまま回転し、勢いで斧も投げてきた。
避ける。が、体勢が崩れる。
その隙をついて光弾がくる。
なんとか刀で捌く。
自然と笑顔が溢れた。
「あぁ…楽しいの!」
「今のを捌き切るのかよ…」
勢いに任せて連続で仕掛けるもいなされてしまった。
「うむ。筋や発想は悪くない。今のはとても良かった。」
当てるどころか褒められる始末。
まるで鍛えられているみたいだ。
再度、レグルスセイバーを出して向き合う。
一閃。二閃。剣を交えながら静かにことばを出す。
「九条さん…あなたは軍人だったんですか?あなたの剣は戦うための剣なんですか?」
「違う。」
「わしは…そうだ。力が足りなかった。守りたかったんだ。」
「あの頃はただ生き残る、仲間を守るために必死だった。」
状況を観測しながら真琴が言う。
「今は割り込めない。下手に割り込むと切られちゃうよ。」
「…そうね。でも彼も何かに気づいてる。静かにことばを選びながら九条さんに話しかけてるわ。」
栞の糸で音を拾い、真琴のスピーカーから音を聞く。
自分達の前には複数の盾を糸で纏めたもの。地面にパイルも刺して補強している。
「お兄ちゃん、すごーい…」澪は兄の活躍に夢中だ。
「まるでアストラレッドみたい!」
「…そうね。あなたのお兄ちゃんはすごいわ。とっても。」
再びの警告音が端末から聞こえる。
「また改変だ!注意して!」
爆音が聞こえる。焼け焦げた匂い。
空を黒煙が覆い、遠くでは建物が崩れる音が響いていた。さっきまでの戦場はもうない。辺り一面、瓦礫だけが積み重なる焼け野原。
九条は静かに立っていた。先ほどまで青年だった姿はさらに年を重ね、二十代ほどの国民服のような姿になっている。
手にあるのは、使い込まれた日本刀。
「……また、ここか。」
九条がどこか悲しそうな声小さく呟いた。
「ここは……。」悠真も周囲を見回す。
建物は燃え落ち、黒く煤けた瓦礫が転がる。
戦いが終わった町だけが残っている。風が灰を巻き上げる。
「空襲後……かな。」
栞が静かに言う。
真琴も表情を曇らせた。
「なんとなく見えてきたね。九条さんは戦争を経験してる。この景色は理想のセカイじゃなくて本人の記憶なんだ。」
九条は刀をゆっくり構えた。
そのままぽつりと呟く。
「守れなんだ。」
「家も。」「思い出も。」「何一つ。」
「体が小さかったとか剣の腕が足りなかったからとかじゃない。」
「わしには力が足りなかった。」
一瞬、九条さんの姿が8歳くらいに被って見えた。
その言葉に悠真は足を止める。
「……九条さん。」
「黙れ。」
一歩。踏み込んでくる。
「今は戦え。」
ガンッ!!刀と剣がぶつかる。
今まで以上に重い。悲しみが怒りが後悔がそのまま剣圧になっているようだった。
「ぐっ……!」
「小童に説教される筋合いはない!」
ガンッ!!また弾かれる。
しかし今度は倒れずに踏み止まる。
「違う!」悠真も叫ぶ。
「俺は説教なんかしたいんじゃない!」
「だったら何だ!」
「あなたはまだ生きてる!」
九条の動きが止まる。
その一瞬。悠真は続けた。
「守れなかったことは変えられない!でも!」
「今なら大切にできる人がいる!現実で待ってる人がいる!」
「あなたを!」
九条は笑う。泣いているような笑顔だった。
「……誰じゃ。その人は。」
「わしには……。もう分からぬ。」
その瞬間だった。再び靄が出てくる。
警告音が端末から響く。
「精神波上昇!また改変くるよ!」真琴が叫ぶ。
ゴオォォォ……焼け野原が端から音を立てて崩れていく。
空が白く染まり、瓦礫が消える。焦げ跡が畳へ変わる。
柱が立ち、壁が生え、静かな道場が姿を現した。
家が生えるのを中から見る不思議な体験。
九条はゆっくり目を閉じる。
「……ここが一番落ち着く。」
「何も考えず。剣だけ振ればよかった。」
姿がさらに変わる。今度は四十代ほどで最も円熟した剣士。
背筋は真っ直ぐ。構えに一切の隙がない。
青年の頃より勢いは無さそうに見え、持っているのも竹刀なのに圧は先程よりも重く感じる。
「来い。」静かな声。しかし今までで一番威圧感があった。
悠真は剣を握る。汗が流れる。
「…真琴。」
「うん。わかってる。」
2人とも本気だ。九条からはこれまでの余裕が消え、変わりに素人でも感じるくらい凄まじい剣気が出ている。対する悠真は今までの勢いとは逆に落ち着いているように見えた。だが力を抜いているわけではない。
「一本勝負。」
空気が震え、悠真は直感する。
(これで終わる。)
(この一撃で決まる。)
レグルスセイバーを構える。
九条も刀を構える。
お互いに完全な正眼。
静寂。誰も動かない。
風だけが畳の上を抜けた。
決着。
悠真が膝をつく。
澪が小さく呟く。
「お兄ちゃん……。」
栞も息を飲む。真琴も声を出さない。
そして、九条が笑った。
「……楽しいの。」
その笑顔は、最初に襲ってきた剣鬼ではなかった。
ただ純粋に剣を愛した、一人の青年の笑顔だった。
「もう一太刀。頼む。」
悠真も笑う。
「俺もです。」
二人が、打ち合う。試合というより稽古を見ているようだった。
「2人とも楽しそう。」
剣を交えながら静かに会話する。
「なんでそんなに剣が好きなんだ。」
「剣は裏切らんよ。努力しただけ返ってくる。」
「歳も。」「家族も。」「友も。」「全部失う。無くなってしまう。」
「じゃが。剣だけは…最後まで残った。これだけは失えんかった。」
「でも、今は夢だ。」
「夢でもええ。この一本、この一太刀は本物じゃ。」
「違う。本物は…あなた自身だ。剣じゃない。」
少し嬉しそうだがどこか寂しそうな顔で九条が黙る。
「……そうか…そうかもしれんな。」
悠真も笑う。
「なら帰りましょう。」
その瞬間。
九条の表情が凍る。
「帰る……?」
静寂。持っている竹刀が震える。
静けさを破るように真琴の端末が再び警告を挙げる。
九条の姿が黒い靄とともに変わる。道着は入院着に。肉体は老人の姿に。持っている竹刀が落ちて消える。
「帰れば。もう剣は振れん。」
「体も動かん。みんな忘れる。忘れてしまう。また何もできんようになる。」
呼吸が荒くなる。黒い靄が広がる。
床板が割れる。道場が壊れる。
「よくわからないけどまずい!こんなの初めて!気をつけて!」真琴が叫び悠真以外の3人が固まる。
――その瞬間、
道場そのものが黒く軋んで壊れた。壁の向こうでは瓦礫が舞っている。
真琴の端末が激しく警報を鳴らした。
「精神波が今まで見た事ない数値を出してる!!」
栞が顔色を変える。
「悠真くん!来るわ!気をつけて!」
♢ ♢ ♢
「嫌じゃ。」「まだ終われん。」「あの姿に戻るのは嫌だ」「せっかく楽しくなったのに」「もう一太刀」「もう1年」「もう1日」「あぁー」
「生きたい。」
叶ったはずの願いが歪み、望んだ答えを裏切る。
そこにいるのは武人ではなく、体が歪み、大きくなり、若さと老いが混じった異形の姿だった。
やっと起承転結の転でしょうか。




