夢刃ー3
古びた木造家屋と畑。
気温が上がる。夏の夕暮れ頃だろうか。
湿った土の匂い。風鈴が静かに鳴っている。
畑の真ん中に、十代の小柄な少年が一本の木の棒を握って立っていた。。
さっきまで三十代程の姿だった九条とは雰囲気はにているがまるで別人だ。
しかし銀色の髪だけは変わらない。
「……ここが生まれ育った家……。」
真琴が静かに呟く。
「資料にあった場所と一致してる…と思う。」
澪は懐かしそうに家を見つめる。
「なんだか、あったかいね。」
少年はゆっくり振り返る。その目だけは先ほどと同じだった。
「では。」少年とは思えない落ち着いた声。
「続きをやろう。」
そう言って棒を構える。
「本気でその棒でやるのか?」
悠真も星具を切り替え、再びレグルスセイバーを構えた。
「棒に勝てるようになってから言え。小童が。」
「小童はどっちだよ!」
次の瞬間。
バシィッ!!
棒が走る。
「速っ!」
今度は受け切ったが腕が痺れる。
「おお。」
九条が少しだけ笑う。
「先ほどよりよくなった。」
「そう簡単にはやられない!」
鍔迫り合いになる。
「九条さん!」
悠真が叫ぶ。
「俺たちは戦いに来たんじゃない!目を覚ましてほしい!」
九条は木の棒を押し返す。
「目覚める?なぜじゃ。」
「ここはいいぞ!体は軽いし、好きなだけ剣が振れる。何が悪い。」
言葉と同時に棒が突き出される。
ギィン!
剣で弾く。
「悪いとかじゃない!現実にはあなたを待ってる人がいる!」
「……。」九条は少し動きを止める。
「待っている?」
「そう!」
真琴も叫ぶ。
「病院には家族が来てる!奥さんも!息子さんも!お孫さんだって!」九条は困ったように笑った。
「そうか。それは嬉しいの。」
少しだけ希望が見えた。そう思った。
しかし。
「………で」
「……誰のことじゃ?」
その一言で全員が言葉を失う。
「すまんの。思い出せん。」
「本当に、思い出せんのじゃ。家族?わしの?誰の話をしておる。」
その声には嘘も強がりもなかった。ただ申し訳なさと不安が入り混じる。
悠真は剣を下ろしかける。
「そんな顔するな。」九条は笑った。
「忘れたものは仕方あるまい。が…」
「刀だけは忘れん。忘れられん。」
「だから今は。」
踏み込む。
ガン!!
また激突する。
「楽しませてくれ。」
「くっ!」
押される。押されながら悠真は考える。
(やっぱり違う。この人は戦いたいんじゃない。)
(ただ剣を振りたいだけだ。まるで何かを…生きている事を確かめるように。)
「考え事か?手が止まっとるぞ!」
一瞬、考えた隙に剣を飛ばされて、当身を食らった。
吹っ飛ぶも、痛みに堪えて立ち上がる。
「一旦下がって!」
色々用意して身を固めた真琴が突っ込む。
変わりに悠真は下がって一息つく。
その時、後ろで澪がぽつりと言った。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「うん?」
「もしかして九条さんは勝ちたいんじゃなくて、遊んでほしいんじゃないかな。」
「……。」
その言葉で悠真の中で何かが繋がった。確かにそうだ。勝つつもりなら最初に自分たちは全滅している。
何度も待ち。何度も武器を見せろと言い。
受けに回る時間まで作っている。
「そうか……。九条さんあなたは、もっと剣を振りたいだけなんだな。」
九条の動きが止まる。
「…………。」返事はない。
しかし初めて、
棒がゆっくり下がった。
静かな風が吹き、畑の麦が揺れる。
九条は空を見上げ、小さく呟いた。
「もう一太刀だけ。それだけで良かった。」
「だが、気付けばもっと。もっと振りたくなっておった。」
「こんな体では、こんな足ではもう振れんと思っておったからの。」
「だったら。」
悠真は剣を構え直す。
「戦う相手なら俺がなります。満足させてみせます。だから…」
「だから、それが終わったら、現実に戻ってあなたを待ってる人と一緒に生きてくれませんか?ここじゃなくて、現実で。」
その瞬間、九条の瞳が大きく揺れた。
同時に。体から靄が再び上がり始める。
ゴゴゴゴ……世界全体が軋み始める。
真琴の端末が再度激しく警告音を鳴らした。
「また改変!精神波急上昇!」
栞が叫ぶ。
「悠真!離れて!」
九条は頭を押さえる。
「違う……。違う……。」
「まだだ………わしは……まだ……。」
「終われん!!」
直後、轟音。
黒い靄が広がり。世界が悲鳴を上げる。
家が崩れ始める。地面が揺れる。空が赤く、黒く染まり、遠くで爆撃機の音が鳴り始めた。
「ここは?」
真琴が叫ぶ。
「ここは戦場よ!」
資料でしか知らない戦場に悠真達は降り立った。
栞は空気に見えますがちゃんと澪を守ってます。




