夢刃
「そろそろ到着するよ。病院の正面からは歩きだからね。」
空飛ぶ車がゆっくりと高度を下げる。
目の前には大きな総合病院。その入り口近くによく見ると悠真のセカイの端にあったのと同じ様な穴が空いていた。
「入る前に確認するよ。」
真琴が真面目モードになる。
中に入ったら多分すぐ認識して向こうから襲いかかってくる。悠真君はすぐに変身して迎撃。できるだけ時間を稼ぐ。私たちは遠距離から援護と説得を担当する。澪ちゃんは入ったら私たちから離れないでね。」
「わかった。」「えぇ。」「はーい。」
「じゃあ入るよ。」
緊張しながら穴をくぐる。
視界が白くなり、あの浮遊感が消えると
眼前に広がっていたのは、一面のひまわり畑だった。
見渡す限り黄金色。
夏の日差しに照らされた花々が風もないのに静かに揺れている。
その中心に、一人だけ立っていた。
銀髪。三十代ほどの若い顔。紺色の着流し。
右手には一振りの木刀。
老人にも青年にも見える、不思議な雰囲気をまとっている。
「……あれが。」悠真が呟く。栞が小さく頷いた。
「あれが九条恒一。」
「さて。」
真琴が軽く伸びをした。
「近くまで行こうか。」
四人はひまわり畑を進む。足音だけが静かに響く。
九条は振り返らない。ただ空へ向かって刀を構え、
一太刀。
風を切る音だけが鳴る。
たったそれだけの動きなのに、悠真は恐怖を感じた。
(……強い。)
理屈じゃない。本能で感じる感覚。
そこから一歩踏み出すとー
「待っておった。」
九条は振り返りもせず言った。
「今日は四人か。面白い。一度にかかってきていいぞ。」
悠真はベルトを取り出す。
「変身!」
しかし何も起きない。
もう一度。
「変身!」反応しない。
「なんでだ……!」
その瞬間、
「何してるの!来るよ!」
「変身できない!」
「はぁ?」
九条が一気に間合いを詰める。
「!」
瞬きする間に距離が近づく。
速すぎて見えない。
「右!」
栞が叫ぶ。
反射的に振り向く。気付けば刀が目の前にあった。
咄嗟に腕で受けるが吹き飛ばされる。
「がっ!」
十数メートルくらい転がる。ひまわりがクッションになる。痛みに息が止まる。
「お兄ちゃん!」澪が駆け寄ろうとする。
「近付くな!」
真琴が叫ぶ。その間にも九条は止まらない。
「ほう。嬢ちゃんか。また楽しませてくれ。」
「リハビリは起きてからしなよ!」
真琴が指を鳴らした。
「生成!」
空中へ鉄パイプが十数本。
パイプの雨が振る。
しかし。
カンカンカン!九条は当たる物は叩き落として
地面に刺さった物も無いかの様にすり抜けてくる。
「甘い。甘い。」一歩一歩近づいてくる。
「!」真琴が後ろへ飛ぶ。
間に合わない。
バキッ!!真琴も飛ばされて転がる。
「痛ぁぁぁぁぁ!!骨折した気分!」
「夢だから折れてないでしょ!」
その隙をついて栞。白い糸が幾重にも伸び、蜘蛛の巣のように九条を包囲する。
「捕まえた。」そう思った。
しかし。
スッ。
九条は刀を一振り。
たったそれだけ。糸が全部切れた。
「…!!」
「相変わらず細いのぉ。」
九条は一歩。「っ!」
栞は隠していたネットガンを発射する。
「こりんのう」一振り。
ネットがばらける。
その刀を振り切った隙にもう片手でテーザー銃を発射針は刺さるが電流が伝わる前に切られる。
そのまま
パァン!
峰打ちで栞の身体が横へ飛んだ。
「かはっ……!」
そのまま倒れる。
残ったのは澪だけだった。
「……。」九条は静かに歩いてくる。
怖いほど静かに。澪は動けない。
「お兄ちゃん……。」
「すまんのぅお嬢ちゃん。終わりじゃ。」
九条が刀を構えた。
その瞬間。
「やめろぉぉぉ!!」
悠真が叫び、走り出す。
頭より先に身体が動いていた。
守る。守る。守る。絶対に。
澪だけは。
その願いに応えるように胸が熱くなる。
「お兄ちゃん!」澪が叫ぶ。
「まだ動けたか。」
九条がこちらを、向くのを見ながら走る。
走りながらベルトを腰へ当てる。
光。バックルが閉じる。赤いラインが身体を走る。
「変身!」
初めて。九条恒一のその目が少しだけ見開いた。
木刀を一閃。
轟音。そして爆発するように赤い光が弾けた。
煙が晴れる。そこには赤い戦士が立っていた。
両手で構えた長剣で木刀を受け止めている。
「……ほぉ。」
九条が笑う。心から楽しそうに。
「ようやく剣士が来たか。」
木刀を構える。悠真も剣を構える。
空気が変わる。
真琴は痛みに顔をしかめながら笑った。
「澪ちゃん、こっちに。離れなきゃ。やっと始まる。」
栞もゆっくり起き上がる。
「……ここからが、本番ね。」
ひまわり畑を風が吹き抜けた。
二人の剣士が、
同時に地面を蹴った。




