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『全財産ニキ』の異世界ガチャ生活  作者: 弐式来夢
第2章 三者の黙示録
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第26話 桃源郷と最適解、そして世界の果て

 朝、目を覚ますと、辺りはもう明るくなり始めている。


 木々の隙間を通り抜けた朝日が、うっすらと目を射る。


 そして、とても良い香りがする。


 甘くて、どこか艶っぽい香り。


 頬に触れる感触も柔らかくて、暖かい。


 こんなに気持ちの良い目覚めがあるだろうか。


 まるで天国だ……。


「…………」


 いや、ちょっと息苦しいか、なんだこれは……


 寝ぼけまなこの目の前に、大きな桃が2つ。


 どんぶらこ~どんぶらこ……なわけあるか、これは胸だ。


 まさに桃源郷! 桃花源記もきっとこうして生まれたに違いない!


 それにしても……


 でかい! いや、そうじゃなくて、なんで!?


 セクシーなベビードールにつつまれた、この大きな桃の持ち主は……


 ゆっくりと顔をあげて確認してみる。


 艶やかな赤髪。


 長い睫毛。


 俺を抱きしめるようにして眠っている美少女。いやお姉さまか?


 ローズだ。


「…………」


 もう一度、目を閉じる。


 …………。


 開く。


 やっぱり胸だ、いや、ローズだ。


 しかも近い。


 完全に抱き枕状態だ。


 抱き枕になる人生も悪くないかもしれない。


「ふふ……♡」


 頭上から小さな笑い声が聞こえた。


「おはよう、ご主人様♡ よく眠れた?」


「ああ、最高だった」


「あら♡」


「……じゃなくて! ここどこ!?」


 ようやく周囲を見たが、初めて見る景色だ。


 岩壁に囲まれた小さな洞窟といったところか?


 入口の向こうには木々が生い茂り、朝日が差し込んでいる。


 俺とローズ以外――誰もいない。


「…………洞窟?」


「正解♡」


「なんで俺、洞窟で寝てんの!?」


「私が運んだから♡」


 ローズは楽しそうに人差し指を立てる。


「ご主人様の代わりは、ちゃんと置いてきたから大丈夫よ。」


「俺の代わり!?」


「ライアちゃんもメリーヌちゃんもアリスちゃんも、幸せそうに抱きついて寝てたわよ?」


 どうでもいいけど、仲良くやってくれよ?



「ふふ♡ それにしても、ご主人様って本当に無防備ね」


 ローズが俺の髪を指先で梳く。


 さらさらと撫でられる感触が、なんとも心地よい。


「こんなところまで運ばれても起きないなんて。悪い女に攫われちゃうわよ?」


「もう攫われてるんだが?」


「あら♡ じゃあ、悪い女に捕まっちゃったご主人様は、どうするのかしら?」


 ローズが悪戯っぽく微笑む。


 朝日に照らされた赤髪が、きらきらと輝いて、凄く綺麗だ……


 いや、ほんとに。


 普段からとんでもない美人だとは思っていたけど、こうして二人きりで見つめ合うと、なんだか妙に照れる。


「……とりあえず、もう少し捕まっててもいいですか?」


「もちろん♡」


 ぎゅっ。


 柔らかな腕が背中に回され、再び抱き寄せられる。


 ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。


 ああ……最高だぜ!


「ご主人様、幸せそうなお顔♡」


「幸せだからな」


「ふふっ。素直でよろしい♡」


 ローズは満足げに笑うと、俺の額にそっと口づけた。


「今日くらい、私が独り占めしてもいいでしょう?」


「……今日だけ?」


「あら。明日も独り占めされたいの?」


「前向きに検討させていただきます」


「ふふふっ♡」


 こうして俺は、ローズとの甘い朝を存分に堪能した。


 ちなみに帰り道も、お姫様抱っこで運んでもらった。


 俺はお姫様だったらしい……。


 

 * * *

 


「——ご主人様?」


 リリーの声が聞こえる。


 だが、今の俺はそれどころではなかった。


 後頭部を包み込む、極上の柔らかさ。


 ライアの膝枕である。


 頭を撫でる優しい手つき。時折、頬をくすぐる髪の感触。


 見上げれば、ライアが穏やかに微笑んでいる。


「ご主人様、気持ちいいですか?」


「ああ……最高だ……」


「ふふっ。よかったです」


 なでなで。


 ああ……脳が溶ける……。


 しかも右腕にはフローラ、左腕にはローズがぴったりと寄り添っている。


 温かい。


 柔らかい。


 いい香りがする。


 ここは天国か?


 いや、朝も似たようなことを言っていた気がする。


 天国って一日に何回行けるんだろう。


 さらにシャルルが俺の頭の上に座ろうとしたが、皆にどかされ、今は両足の上にちょこんとまたがっている。


「わ、わたしもご主人様のそばにいたいですっ!」


「うむ、よきにはからえ……」


 もはや俺に抵抗する意思などない。


 全身が幸福に支配されている。


 このまま一生、ここで暮らしてもいい。


「……ご主人様?」


 リリーの声が、もう一度聞こえた。


「……はい?」


「魔核がないから何も作れないんだけど、いつ集めに行ってくれるのかな?」


 ジト目だった。


 ものすごいジト目だった。


 ……現実が帰ってきた。


 そうなんだよ、魔核が必要なんだけど、召喚上限も考えないといけないんだ。


 カトレアの空間収納があれば、素材も魔核も持ち放題なんだけどなぁ……


 でも一時的に誰かを戻したとしても、またすぐカトレアを戻すときがくる。

 カトレアだって一度召喚されたら戻りたくないだろう。


 性能や能力で入れ替えるのは確かに効率がいい。

 戦闘なら戦闘職、採集なら採集職、荷物運びならカトレアだ。

 適材適所、臨機応変。実に合理的だ。限られた召喚枠を最大限に活用する最適解と言っていいだろう。


 でも、召喚される側にも、心があるのだ。

 以前、アリスを泣かせてしまったしな……


 俺にとっては、ちょっとカードに戻すだけ。

 でも、あの子たちにとっては、そうじゃない。

 せっかく一緒に暮らしているのに、役目が終わったから帰れなんて……。

 そんなの、まるで便利な道具じゃないか。

 効率を追求すればするほど、誰かの気持ちを犠牲にしてしまう。


 かといってなぁ……

 誰も戻さなければ、新しい子を召喚できない。


 なんというジレンマ!

 数学的な最適解と、人間的な心がトレードオフじゃないか。

 

 ……いや、難しく考える必要もないか。


 俺はただ、みんなを大切にしたいだけだ。


 俺を好きでいてくれる子達を悲しませてどうする。

 そんなことをしてまで、新しい子を召喚する必要があるか?


 断じてない!!


 というわけで、カトレアの召喚はひとまず保留だ。


 レベルを上げれば召喚上限も増えるかも……しれない。


 ……増えなかったら?そのとき考えよう。


 ま、なるようになるだろう。


「よし! さっそく魔核集めだ!」


「やっと!? もう待ちくたびれたんだけど!」


「今回は前衛ローズ、後衛フローラ、俺の護衛にシャルル。」


「ふふ♡ 私が前衛なら、出番があるのは私だけみたいね。」


「私の魔法があれば前衛も護衛も不要ですけどね。」


「わ、わたしも頑張ってお守りしますっ!」


「さあ行こうか!」


 魔核を集めつつ、強い魔獣がいたらゲットしつつ、レベルも上げていこう。


 SSR3人組だ!戦力的には申し分ないだろう。いや過剰なくらいだ……


 そして俺は安定の戦力外な。


 

 * * *

 


 ところ変わって遠く離れた森の中、ひとり彷徨う男がいた。


 恐怖のあまり城壁の外、森の奥深くへと逃げ出した大魔導士・横峯だ。

 いや、本気で逃げ出したわけじゃない。ちょっとした気分転換だ。



 ところで、この世界は平面で、果てがあるらしい。


 ……本当か?


 それにしても世界は四角い? 地上が平面?


 だとしたら重力の中心はどこだろうか?

 端へ行くほど急坂のような壁になるのでは?

 ま、知らんけど。


 地球と変わらなく感じるこの重力や呼吸の感じ。

 日の昇り沈みを見ても、普通に球体っぽいんだよな。


 もし同じ宇宙の別の惑星に来たと考えるなら尚更平面とは思えない。

 なんなら最果てまで行ってみるか?


 いや、寒いしお腹すいたし帰ろう……



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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