第25話 敗者と勝者、その本当の顔
冷たい風が、山肌を吹き抜けていく。
雪が降っていた。
美しい白銀の鱗が、かすかな光を弾いた。
冷たく鋭い氷青色の瞳には聖なる力を宿す。
ホーリードラゴンだ。
その背には、一人の少女が横たわっている。
聖女アリア・セレスティア。
一度は瀕死の状態まで追い詰められ、生を諦めた聖女ではあったが、
彼女自身の自動回復、そしてホーリードラゴンの加護より、
傷は既に癒えていた。
それでも……
「…………」
少女は動かない。
ただ虚ろな瞳で、雪の降る白い空を眺めていた。
空はいつも、神の象徴だった。
祈れば応えてくれると信じていた。
その信仰が、今は何の力も持たない。
胸の奥で、何かが崩れ落ちる音がした。
「……負けた……」
小さな、小さな声だった。
「私は……負けた……」
その一言だけで、涙が溢れた。
止まらない。
何十年も積み重ねてきたものが、一瞬で崩れ去った。
自分を支えていた“聖女としての自分”が、
音もなく瓦解していく。
「私は……聖女なのに……」
幼い頃から、負けたことはなかった。
どんな魔物も。
どんな魔族も。
誰一人、自分に傷一つ付けられなかった。
だから疑わなかった。
自分は最強なのだと。
神に選ばれた聖女なのだと。
自分が負けるはずがないと。
これこそが地上最強たる所以だと。
だが違った。
勇者は強かった。
横峯は恐ろしかった。
そして自分は、何も守れなかった。
「……ごめんなさい……」
誰に謝っているのか、自分でもわからない。
神か。
国か。
自分自身か。
それすらも、もう曖昧だった。
「ごめんなさい……」
ホーリードラゴンは何も言わない。
ただ、その大きな翼で少女を包み込んだ。
洞窟の外では雪だけが静かに降り続いていた。
* * *
「…………危なかった。」
森の奥、誰もいない場所で横峯はようやく息を吐いた。
吐いた瞬間、肺が痛んだ。ずっと呼吸を忘れていたらしい。
膝が笑う。
魔力の残滓が指先で震えている。
寒くもないのに、背中を冷たい汗が流れ落ちていた。
「……死ぬかと思った。」
口に出した瞬間、現実味が増して喉がひきつる。
周囲から見れば――
大魔導士が聖女を圧倒した、ただそれだけの戦いだったはずだ。
だが違う。
まるで違う。
「グラビティが効いた時は……安心したんだ。」
一瞬だけ、勝てると思った。
だが次の瞬間、背筋が凍った。
聖女の身体が、重力の檻の中で“軋んだ”のだ。
あれは、抜け出そうとしていた。
あと少しで、重力を踏み砕いていた。
もし抜けられていたら――
そのまま一直線に走ってきていたら――
「……俺は、首を飛ばされていた。」
横峯は自分の喉元を押さえる。
そこに、冷たい刃が触れた幻覚すら感じた。
アースブレイク。
ロックバレット。
牽制にもならない。
対人魔法が通じない相手に、魔導士はどうなるか。
――距離を失った瞬間に死ぬ。
「……だから必死だった。」
氷で動きを止める。
ビッグバンで吹き飛ばして距離を取る。
戦略級魔法メテオを落とす。
どれも“勝つため”ではない。
ただ、生き延びるためだけの魔法だった。
「……もし、最後まで立っていたら。」
横峯は乾いた笑いを漏らす。
「全力で逃げるつもりだった。迷いなく、全力で。」
魔導士は、勝てない相手からは逃げる。
それが正しい。
それが生存戦略だ。
だが――
逃げ切れる保証はどこにもなかった。
しばらく沈黙し、横峯は空を見上げる。
「……三条は、なぜとどめを刺さなかった。」
情ではない。
アイツは情け容赦無いイキり勇者だ。
最後だけ甘くなるとは思えない。
「何を見た。何を考えた。」
そして、最も恐ろしい可能性が脳裏をよぎる。
「……聖女は、本当に死んだのか。」
確認していない。
もし生きていたら――
次は、勝てないかもしれない。
横峯は、森の奥へと姿を消した。
その背中は、勝者のものではなかった。
ただ、生き延びた者の背中だった……
* * *
一方そのころ海斗たちは……
「うーん、これでどうだ?」
海斗は手のひらをかざして魔力を練る練習中だった。
先生はフローラだ。
密着しながら手取り足取り教えてくれる。
フローラの指先が俺の体をなぞってくる。
仕草が一々セクシーだ。
「大事なのは集中力ですよ♡」
なんてことだ、どういうことだ、全く集中できない!
これはやる気が爆上がりだが、集中力は全く上がらない。
頼むから集中させてくれ。いや、集中したいからもっと続けてくれ。
ちょっとフローラ先生のステータスを見てみよう。
No.1202
名前:フローラ
種族:ヒューマン
Rank:SSSR
性別:女
職業:魔術師
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性格:穏やかで優雅、しかし魔術のこととなると一切の妥協を許さない。 知識への飽くなき探求心を持ち、魔法を「技術」としてではなく「芸術」として扱う。
説明:魔術師の中でも「魔法の調律者」と呼ばれる伝説の存在。 彼女の魔法は「力の制御と美しさ」を兼ね備え、戦場では絶対の正確さで魔法を紡ぐ。 その魔力は花のように優雅でありながら、燃え盛る炎のように凶暴でもある。 彼女の術式には「破壊」だけでなく「再生」の概念があり、 それはまるで生命の循環を表現するかのように、戦場に咲き乱れる。
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スキル:[魔導術 LvMax] [エレメンタル・ハーモニー Lv9] [アルス・フロリス Lv7] [灼花の旋律 Lv5] [蒼薔薇の審判 Lv4] [月華魔陣 Lv3] [神秘の調律 Lv2]
耐性:[魔法耐性 Lv5] [精神汚染耐性 Lv3]
加護:調律者の加護
称号:魔法の調律者
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スキルの説明がまたすごい!
魔力の制御を極め、あらゆる魔法を完全に調律する「魔導術」
複数属性の魔法を同時に発動し、相乗効果を最大限に引き出す「エレメンタル・ハーモニー」
魔法を芸術として操り、見る者を懐柔する、優雅なる魔術「アルス・フロリス」
炎と魔力を融合し、美しい軌跡を描きながら敵を焼き尽くす術式「灼花の旋律」
冷酷なる氷の棘が敵を貫き、沈黙の裁きを下す「蒼薔薇の審判」
夜の静寂に魔法陣を展開し、一瞬のうちに戦場を塗り替える魔法「月華魔陣」
相手の魔力を読み取り、無効化または反転させる極限の技「神秘の調律」
さすがSSSR、豪華すぎる!
普通、魔術師とか魔法使いってさあ、ファイヤーボールとか、ライトニングとかだろ、なんか中二感が半端ないんだけど……
そして必死に集中していたら……
ついに、手のひらにポワっと、ほんの数秒だが魔力の反応が出たようだ。
「おめでとうございます、それが魔力です。」
「おおう、これか!これが魔力か!」
「さすがご主人様です」
「ご主人様ならきっと大魔導士間違いなしです。」
ライアからの尊敬の眼差し。
艶やかな赤髪のローズが、妖しい笑みを浮かべながらレザンを食べさせてくれる。
いや、普通にぶどうだろこれ。
ゆっくりとひとつぶ摘まみ上げ、俺の反応を楽しむように、そおっと口元へ運んでくる。
「はい、ご主人様。あーん♡」
これだよ! こういうのが良いんだよ。
おっと、ついニヤ気そうになってしまった。
こういう時は格好付けてドヤ顔を決めてだな、
「魔導士も案外悪くないかもな。」
……とか言っておこう。
まあ、戦うのは俺じゃないけどね。
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