第8話 見捨てられた男
えー、わりかしハードな内容が続いてますが、これはまだまだ前振りでして、もう少ししたら本題の話に入ります。この前振りも必要な部分なんで、申し訳ないですが今しばらくお付き合いください。
「それで、ハワイとやらへはどのくらいで着くんだ?」
ハーデスが大統領に聞いた。
「ここからだと10時間ほどかと」
「なに?そんなにかかるのか?・・・チッ!のろいな。俺は隣の部屋で休んでるから近づいたら教えろ」
「は、はい」
ハーデスは立ちあがった。
そこで、ミノスが再び手を叩くと、先ほどと同じ、がっしりとした体の牛に近い顔と角を持った魔族の男が現れた。下半身はこげ茶色のズボンをはいていたが、上半身は毛むくじゃらの裸体の上に、ボタンを留めていない薄茶色のチョッキを着ているだけだった。
「この者たちから通信機の類を取り上げてここで見張っていろ。椅子に座っていても構わん」
「はっ!」
ミノスは、ハーデスに続いて隣の部屋に消えた。
「ほら、出せ」
魔族の男に言われて、大統領と首席補佐官は背広の内ポケットからスマホを取り出して渡した。
「お前はもう一個持ってるだろ?」
首席補佐官は、見抜かれていたことに驚いたが反対側の内ポケットからガラケー型の政府高官間の連絡に使っている携帯電話を取り出して渡した。
魔族の男は、その3つの電源を通常の手順で切った。
大統領と首席補佐官は、その様子を見て驚きの表情を浮かべた。
「なんだその顔は?こんななりをしてるからもっと原始的な生活をしてるとでも思ったか?」
「い、いえ」
「俺たちの文明レベルはお前たちのと変わらねえんだよ。さっき、ミノス様が腕時計型の通信機で会話してるの見ただろ?ただ、冥界は上の高さが決まってるし、飛べるヤツも多いから飛行する機械はないがな。だから俺は、飛行機ってのに乗るのが始めてなんだよ。こんな高さから下を見るのもな。これって、どのくらいの高さを飛んでるんだ?」
そう言って窓の外を見下ろた。その様子は、少なからずウキウキしているように見えた。
「確か、3万フィートと4万フィートの間だったと思う」
「その、お前の国でしか使ってねえ単位で言うのやめろ!わかんねーよ!」
「し、失礼した。およそ9千メートルから1万2千メートルの間だ」
「へえ~、すげえ高いところを飛ぶんだな。俺たちの中にゃ空を飛べるヤツもいるが、そんな高さは無理だな」
魔族の男は、そう言って、もう一度窓から下を見下ろした。
「ああ、俺はブルカだ。覚えておけ」
「わかった」
「俺って、海も見たことねえんだよ。この飛行機、ハワイってところに行くからには海の上を飛ぶんだろ?あと、どれくらいで海の上に出るんだ?」
「5時間くらいだと思う」
「え~?そんなかかんのかよ!」
「元いた場所がこの国では東海岸に近い所だから仕方ない」
「あー、確かにそうだったな。しょうがねえ待つか。お前ら、おかしな動きすんなよ。俺は手加減が下手だからな」
そう言って、鋭い爪の生えた普通の人間の倍はあろうかという大きな手を、掴むような仕草で大統領たちの方へ向けた。
「は、はい!」
ブルカは、大統領たちの隣の一人掛けのソファに腰を下ろし、横のテーブルに置いてあった雑誌を取ってペラペラとめくった。
「へえ~、お前らの本ってこんななんだな?」
そのうち、気に入った記事があったのか、集中して読み始めた。
「長官、どちらに参りましょう?」
国務長官を乗せた機体が空に浮かび上がると、パイロットが機内のインターホンで聞いてきた。
「西はずっと陸地でいつモンスターに襲われるかわからない。東はすぐ海だからそっちへ向かってそのままイギリスまで飛んでくれ」
「了解しました」
国務長官は、それから窓の外を見ていたが、押し寄せてくる爆煙は徐々に薄くなり、今までいた空軍基地の少し手前で霧散して行くのを確認した。
その頃、この国の中央部やや西側付近で暴れまわっていた魔族の者たちは、担当エリアの軍事基地を破壊しつくして暇になり、草原でバーベキューをしていた。
「このバイソンってやつの肉、めっちゃ美味いな!」
「俺は、そう聞いてたんで気になってはいたんだが、うわさ通りだった!」
「塩と胡椒が良く合うよな」
「うんうん」
「しかも、そこらじゅうにたくさんいるから、いくらでも食える」
「でも、あんまり捕り過ぎるといなくなっちゃうからほどほどにしとけよ」
「わかってるって。こっちのエルクとかいうデカイ鹿の肉も、少し臭みはあるけどなかなかいけるから大丈夫だ」
ピピピピピ!
そこで、狼のような顔をした男の腕の通信機が鳴った。
「はいっ、ライデルです!・・・はい・・・はい・・・わかりました~!」
ライデルと名乗った男の顔が明るくなった。
「なんだって?」
隣に立っていた馬面の男が聞いた。
「大統領との交渉は決裂したから好きな所に行っていいってよ。ただ、暴れ足りないヤツは、今からハワイに行くから、西海岸で鹵獲した輸送機に乗ってついて来いって」
「ホントかよ!」
「最高じゃねーか!」
「じゃあ、俺はもっと寒いところがいいから、前々から狙ってたカナダって国の北にたくさんある島に行ってみるわ」
「俺はもっとジメジメした所が好きだから、南米のジャングルだな。ギアナ高地ってのも気になってるから途中で寄ってみるよ」
「ハワイって海の真ん中に浮いてる島だろ?どんなんだか気になるからそっちに行くよ。ここいらのヤツらは張り合いがなかったし、家を壊されて腹が立ってるからもうちょっとボコボコにしたいしな」
「おーい!お前ら、移動するならこれ持ってけ~」
少し離れたとこにいた、フクロウのような顔の男が言った。
「あいつは先行してた食料係のオウラーだな。なんだなんだ?」
皆は、オウラーのところへ寄って行った。
「ほら、燻したバイソンの肉だ。もうちょっと燻したかったけど、それでも焼いただけの肉よりは日持ちするだろ」
「おお、いいな!」
「いっぱいあるからどんどん持ってけ!」
「助かる。悪いな」
皆は、腰から下げた袋にその燻した肉を詰め込んで行った。
それから、バーベキューしていた肉を全て食べ終わると、それぞれが目的の方向へ移動して行った。飛べるものは自分の翼で、飛べない者は軍事基地で調達して来た軍用車両に乗ってその基地まで戻り、そこにあった飛行機に乗って。
他の地域を攻撃していた者たちも一斉に移動を開始した。
「ああ、いけない!大統領にミサイルのこと連絡してなかった!」
フリーウェイを東へひた走る車の中で、副大統領が突然言った。
「ええ~!?・・・でも、もう遅いんじゃないですか?」
「う~、怒られそうだな。でも、連絡しとかないと死んだと思われるかもしれないし」
副大統領は、背広の内ポケットから携帯電話を取り出すと主席補佐官に電話をかけた。
「あれ?電源が切られてる。なんでだ?・・・じゃあ、大統領に直接かけるか」
「大統領もダメだ。じゃあ、ジェンキンス・・・」
チャラポンチャラポンチャラポン
国務長官は、携帯電話が鳴ったので懐から取り出し、発信元を見て驚いた顔をしたあと電話に出た。
「ローリー、生きてたのか!今どこだ?」
「勝手に殺すな。車で東に移動中だ。お前は大丈夫か?大統領とライアンはどうした?電話の電源が切られてるんだが」
「大統領専用機のところに着いたら機内からモンスターのミノスが出てきて大統領となにか話をしたあと、大統領とライフンは機内に入って行った。そしたら、すぐに離陸して西に向かって飛んで行き、それっきりだ」
「なんだって!?大統領は大丈夫なのか?」
「わかるわけないだろ!?俺は、格納庫にあった別の機体でイギリスに向かってる」
「別の機体?・・・ガルフストリームか?」」
「そうだ」
「他に誰が乗ってる?」
「SP二人と運転手と格納庫内にいたパイロットの二人だ」
「それだけか・・・」
「それより、あの爆発は何だ?」
「あれはロシアから飛んできたICBMだ」
「やっぱりか!迎撃システムはどうした?」
「モンスターに破壊されてて機能しなかった」
「そういうことか・・・。しかし、あの会議室にいたら発射された時点でわかったんじゃないのか?なぜ、その時点で連絡をくれなかった?」
「そうだが、逃げるのに必死で余裕がなかった」
「お前は車の後部座席に座ってただけだろうが?」
「道がふさがれてたり、爆風で車が持ち上がったりして大変だったんだよ」
「それって爆発したあとじゃねーか!」
「まあ、そうだが・・・それより、飛行機に乗ってるなら俺も乗せてくれ。東海岸に空軍基地があっただろ?そこで落ち合おう」
「お前はどのくらいで着くんだ?」
「1時間ってところかな?」
「はあ?こっちはすぐだぞ。そんなに長い間停まってたらモンスターに襲われるじゃねーか!」
「いや、監視衛星の画像で、すでにほぼ破壊されてるのを確認したからもういないはずだ」
「ほぼって、破壊されてない建物もあるってことだろ?」
「まあ、そうだが・・・」
「そこに隠れてるヤツがいるかもしれないじゃないか!・・・・・あ、待て」
「なんだどうした?」
「海の上に出た。もう、通り過ぎたわ」
「ええ~!?」
「じゃあ、頑張れよ。また、会えるといいな」
「なんだそれ!お前ひどいよ!」
そこで電話は切れた。
「あ、おい!おいって!」
洋上に出て国務長官の電話が圏外になったらしく、それっきりもう繋がらなかった。
「あの薄情者~!」
「どうします?このまま進みますか?」
運転手が聞いた。
「周りの状況がわからないからこのままでいい。じっとしてる方が怖いからな。あ、もう爆風の影響はないだろうから速度は落とせ」
「わかりました」
「しかし、飛行機かあ。モンスターどもは低空で飛んで来てたから高い空に上がれば平気かもな・・・おい!この辺に民間の飛行場はないのか?」
「少しお待ちを・・・・・あ、南にちょっと下ったところにあります」
「よし、そこへ行け!」
「わかりました」
その会話の間も、副大統領の前に座っていたSPは、モンスターがいないか周りを警戒していた。




