第7話 副大統領と国務長官
副大統領専用車の運転手は、SP一人とホワイトハウスの駐車場で車の脇に立って世間話をしていたが、職員と思われる大勢の者たちが血相を変えて飛び出してきて、それぞれが自分のものと思われる車に乗ると急発進・急加速で駐車場から手び出して行ったので驚いた。
「なんだ?なにがあった?」
「中に爆弾でも仕掛けられたか?」
「ウソだろ?逃げなきゃヤバいじゃん!」
「でも、副大統領が出てこないと無理だぞ」
「え~!?・・・早く出て来いよジジイ!」
「よせよ。誰かに聞かれたらことだぞ」
「あんなに慌ててるんだから、誰も聞いちゃいねーよ」
「それもそうだな・・・あ、最後の一人が出て行った」
「マジか!・・・少しでも早く出られるように車の中で待とうぜ」
「そうだな」
「おい、全然出て来ねーぞ?」
「何やってんだジジイ!」
二人は、社内のインターホンで会話していた。
「あ、来た!」
運転手は、副大統領が建物から出て来たのを確認すると、車を急発進させ、副大統領の方へ進んだ。
SPは、副大統領を迎え入れるために後部座席のドアを開けて飛び出し、さらにドアを大きく開けた。
副大統領は駆け足でやって来て(と、言っても老人なので大したスピードではなかったが)飛び込むように後部座席に入った。SPも続けて入り、ドアを閉めて副大統領の向かいの席に座った。副大統領は、かなり息を切らしていた。
「職員が慌てて飛び出して来ましたけど、何があったんですか?」
「はあはあはあ、ロシアから・・・ペンタゴン目がけて・・・ミサイルが・・・飛んでくる」
「ええ~!」
運転手とSPは同時に声を上げた。
「驚いてないで・・・早く車を・・・出せ」
「どっちに行きますか?」
運転手は車を発進させながら聞いた。
「ミサイルは西から来るから・・・東だ、東」
爆風は、落下地点を中心に球状に広がるので、どっちに逃げても同じだったが、慌てている副大統領は、そこまで頭が回らなかった。
「ふう・・・フリーウェイは、モンスターどもの動きに備えて、侵入規制してあるから、それを使え」
「わかりました!」
「とにかく飛ばせ!」
「はい!」
運転手は、100マイルを超える速度でかっ飛ばした。
しかし、すぐに多重衝突事故の現場に出くわして進めなくなった。
「ライアンがアンドルーズ空軍基地に辿り着くまでに倍の時間がかかったと言ってたがこういうことか」
副大統領がつぶやいた。
「まったく動きそうもありません。もう、みんなパニックになってるんでしょうね」
運転手が答えた。
「仕方ない。止まってる車を弾き飛ばして進め。この車は頑丈にできてるから壊れやせん」
「わかりました!」
運転手は、急加速すると車と車の間に突っ込んで弾き飛ばしながら進んだ。非常事態時の対処方法は叩き込まれているので、こういう場合には躊躇しなかった。
「てめえ何やってんだ!」
「ふざけんじゃねえ!」
当然のごとく、その場にいた者たちの怒りを買い、がたいの良い男数人が寄って来た。
「うるさい!道を開けろ!」
すると、運転手がウィンドウガラスを下ろして怒鳴り、
バンバンバン!
拳銃を持った左手を出して、上に向けて3発発砲した。
「ひいっ!」
さすがにこれには、男たちも頭を抱えてしゃがみ込んだので、そのすきに加速してさらに車を弾き飛ばしながら通り抜けて行った。
「フリーウェイに入りました。確かに車はいません」
「よし!全速力で飛ばせ!」
「はい!」
副大統領を乗せた車は、140マイルで、そのまま東へ東へとかっ飛んで行ったが、5分も行かないうちに後方で何かが大きく光ったので、副大統領は思わず振り返った。
すると、辺りは住宅街で高い建物が無かったことから、大きな爆炎が半球形に膨れ上がったあと立ち上っていき、大きなキノコ雲となっていくのが見えた。
そのまま爆炎が広がっていくのを見ていると、30秒後に「ドーーーン!」という大きな音ともに爆風が押し寄せて来て、車が一瞬持ち上がった。
「わわわ!」
副大統領とSPは、シートから体が浮いたため慌てて両手を上に上げて天井に頭がぶつからないようにしたが、すぐに車が着地したので、かなりの勢いでドスンとシートに落下した。
ショックで車は、大きく左右に蛇行したが、そこは副大統領の運転手を務めるだけあって、すぐに立て直した。
「ロシアの野郎、デカいのをぶち込んで来やがったな!」
「こりゃ絶対ホワイトハウスも巻き込まれてますね?」
「間違いないな。それも込みの攻撃だったんだろう。おい運転手!ヤバい物がこっちまで届く可能性もある。もっとどんどん東へ行くんだ!」
「わかりました!」
副大統領を乗せた車は、さらに東、東へと爆走した。
その少し前、国務長官を乗せた車は、一番近い格納庫の前で停まっていた。
「待て!思い出したぞ・・・もう一つ先の格納庫へ行け」
「はっ!」
一つ先の格納庫の前に着くと、SPの一人が降りて格納庫の扉を開けたので、そのまま車ごと中に入った。
「ああ、ガルフストリーム(注1)。やっぱりここか・・・整備兵がいるはずだから探してこい」
「はっ!」
目的の機体があるのを確認すると、国務長官は、右側ドアのウィンドウを下げ、扉を開けたSPに指示した。
「運転手、お前も、一緒に行って準備をしておけ」
「はっ!」
運転手は車を降りると、SPの一人が行った奥へ向かった。
「うー、うー」
奥へ向かったSPは、妙な唸り声が聞こえて来たのでそっちへ行ってみると、整備兵らしき恰好をした男が猿轡をかまされたうえ、手足を縛られて横になり、こっちを見ていた。
「おい、どうした!大丈夫か!」
「なんだ!?なにかあったのか!?」
後方から運転手が叫んだ。
「人が縛られて倒れてる!」
「なにっ?」
SPと運転手で縛られている男のロープと猿轡を外した。
「はあはあ」
「なにがあった?」
「突然モンスターが5匹ほど現れて、私を含めてここにいた4人を縛り上げたんです。抵抗をしようとしたんですが、力が異様に強くて何もできませんでした」
「ほかの3人はどこにいる?」
「その奥の部屋に。気絶させられていたんですが、私だけ目が覚めたんで助けを呼んで来ようとここまで這いずって来たんです。そしたら、車が入って来る音がしたので・・・」
「そんな恰好で無茶をしたもんだ」
運転手は、駆け足で奥の部屋に入って行った。
「お前は整備兵だな?」
「はい」
「ほかの3人は?」
「一人は私と同じ整備兵で、ほかの二人はこの機体のパイロットです」
「そうか。それはいい。しかし、よく縛られただけで済んだな」
「大統領が先にここに来る可能性もあるから、気付かれるような痕跡は残さないようにするのだとモンスターたちが話してました」
「なるほど・・・それにしても、あいつら会話ができるってのは本当だったんだな。しかも、人間並みの頭だ」
「はい、驚きました」
「国務長官がこの機体に乗って移動することを希望されている。どのくらいで準備できるか?」
「朝、外に駐機してあるVC25(注2)に加えこの機体も準備するように言われていましたので、10分もあれば」
「5分で準備しろ」
「わ、わかりました」
そこで、運転手が3人の男を伴って奥の部屋から出てきた。
SPと話してた男は、急いで立ち上がると他の3人に駆け寄り、少し話をしてから機体の点検と準備に散って行った。
SPと運転手は、腰の後ろから拳銃を取り出すと、モンスターを警戒しながら機内に入って行った。
「数分で飛ばせるそうですので機内で待ちましょう。整備兵がモンスターに縛り上げられていましたが、モンスターは、すでにここにはいないようです。機内が安全なのも確認しました」
SPは、車まで戻ると国務長官に告げた。
「そうか!」
ドーーーーン!
そこで、大きな爆発音とともに格納庫がビリビリと大きく揺れた。
「なんだ!?」
SPは、急いで格納庫を出ると、格納庫の横まで走って行き音のした方を見た。
すると、大きなキノコ雲が立ち上って行く様子が見えたので驚愕した。
「えっ?な・・・・」
すぐに、国務長官ともう一人のSPもやって来た。
「な、なんだあれは!」
「ホワイトハウスの方角じゃないですか!」
国務長官ともう一人のSPも驚愕の表情を浮かべた。
3人は、しばくそのまま呆然としていたが、そこに運転手と整備兵とパイロットもやって来た。
「えええっ!?」
皆、同じく驚愕の表情になった。
「なるほど、我が国の軍事施設がほとんど破壊されたと知って、どこかの国が大陸間弾道弾でも撃ち込んで来たってことか」
国務長官がぼそりと言った。
「ええっ!?」
「こうしちゃおれん!とっととここを出るぞ!」
「はっ!・・・お前たち機体の準備は?」
「終わってます!」
「よし、急ごう!」
8人は、機体の方へ走った。
機体のところに着くと次々と乗り込んで行ったが、整備兵の二人は引き込み式ステップの下で立ち止まった。
「何をしている!」
それを見てSPが怒鳴るように言った。SPの後ろにはパイロットの一人が立っていた。
「我々は、この基地の整備兵ですので・・・」
「バカなことを言ってるな!早く乗れ!ここにいたら巻き込まれるぞ!」
「でも、他の兵もいますし」
「ここはホワイトハウスから10マイルほど離れていて建物が破壊される心配はないから助かる可能性が高い!」
「では、我々もここに残ります」
「おい!何をしている!早くしろ!」
そこで、国務長官から声がかかった。
「ああ、ちくしょう!・・・閉めてくれ!」
SPは、パイロットにステップを引きこむ操作を頼んだ。
パイロットがコクピットに戻ると機体はすぐに動き出した。整備兵の二人は、邪魔にならないように少し脇へずれると、そのまま機体が滑走路へ出て行くのを見送った。
「管制塔から応答がありません!」
SPがコクピットへ入って行くとパイロットの一人が言った。
「大方、管制官も縛り上げられてるんだろう。構わんからすぐに離陸しろ!どうせ、ほかの機体なんか来やしない!」
「はいっ!」
SPが客席に移動すると、すぐに滑走を開始したので、慌てて空いている椅子に座ってシートベルトを締めた。
(注1)ガルフストリーム・エアロスペース社が開発・製造しているビジネスジェット機「ガルフストリームG550」のことで、アメリカ軍ではC-37Bとして採用しており、政府高官の移動などに使用している。30メートル未満の全長ながらマッハ 0.8の巡航速度と1万2千Km以上の航続力を持つ。
(BUSINESS INSIDERのサイトから引用させていただきました(https://www.businessinsider.jp/article/206135/))
詳細はこちらのYoutubeで→https://www.youtube.com/watch?v=_1aumBFjrbU
(注2)ハーデスと大統領たちを乗せて飛び立っていった機体のこと。ボーイング747-200Bの特別仕様機。詳細はこちら→https://ja.wikipedia.org/wiki/VC-25_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)




