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魔王に玉の輿  作者: 伊部九郎
序章 冥界の始動

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第4話 報道する者

「では、大統領ってヤツに会いに行くとするか」

「はっ!」

 ハーデスは立ち上がると、ミノスとそばで控えていた2人の同族を伴って部屋を出て行った。



「なんということでしょう・・・」

 前田は言葉を失っていた。

 美麗も衝撃を受けていたが、そこはプロのアナウンサーで、どんな状況でもテレビカメラが自分に向いている間は表情を含め冷静さを崩さないでいることが体に染みついていた。


「前田さん?今の映像は、一般家庭にあるテレビに映ったものなのですよね?」

「そうです、そうです。この国の多くの人が、今の映像を観たと思います」

「特殊メイクをした人間がしゃべっていたということはないですか?」

「わかりませんが、先ほど観ていただいた映像に移っていた生物が実在する以上、今のミノスというのがその仲間であると考える方が自然だと思います」

「英語でしたけど、要約すると、アメリカが盟約を破って攻撃してきたから、反撃してアメリカの軍事施設と通信施設を破壊した。次は、ヨーロッパやアジアも攻撃するって言っていたと思いますが合ってますか?」

「はい、そう言っていたと思います」

「そうですか・・・このミノスという人物が言っていた盟約とはなんだと思いますか?」

「いえ、わかりません。5万年前だと記録も残っていないんじゃないでしょうか?」

「そうですよね・・・映像は今見せてもらったものですべてですか?」

「はい。想定外のテレビ放送が入りましたが、こちらで用意した映像は最初に見てもらったものですべてです」

「わかりました。また、新しい情報が入りましたらお願いします」

「承知しました」


 そこで前田との映像は切れた。美麗は正面のカメラに向きなおった。


「驚きましたが、今の話が本当であれば、地下にギリシャ神話に出て来る冥界が実在し、そこにハーデスも実在したということになります。今後、新たな情報が待たれます。臨時ニュースを終わります」

 いつの間にか入って来ていた山城が終了のサインを出したので、美麗はカメラに向かって放送終了の言葉を述べた。


「はいOK!」

 アシスタントディレクターの言葉で、美麗は立ち上がり山城へ駆け寄った。しかし、それと同時に山城がアシスタントディレクターに大声で指示を飛ばした。

「おい!大至急、首相官邸に詰めてるヤツに連絡とって、日本政府がどう対処するか聞いて来い!」

「はい!」

 指示された男は駆け出して部屋から出て行った。



「今のなんなの!?」

 美麗が山城に向かってヒステリックな声で聞いた。

「俺にわかるわけねーだろ?・・・言ってた通りだとしたら、米軍基地を襲った生物は魔王の配下だろうから魔族とでも呼ぶべきなんだろうな。しかし、大変なことになるぞ」

「どういう風に?」

「今のミノスってヤツの言葉を信じるヤツがたくさん出て来るだろうから、逃げ出そうとするヤツが大量に発生するってことさ。アメリカ国内が一番ヤバいだろうが、今の放送を観た関東圏の人間にもそこらじゅうでパニックが起こるだろうな。しかも、ヨーロッパとアジアなんて大雑把な場所の指定の仕方だったから始末が悪い」


「山城さん!今の映像を使わせてくれって各局から問い合わせが!」

 そこで、スタジオのドアを勢い良く開けて入って来た社員の男が大声で言った。

「ああ、構わん。気前よく貸してやれ。どうせインターネットですぐに拡散されるんだ。ただし、関東テレビから入手した映像だと入れるのが条件だ」

「わかりました!」

 男はすぐに出て行った。


「これで日本全国パニックだ。数時間後には世界中が大パニックになるだろうよ」

「妙に落ち着いてるわね。これからどうするつもり?」

「何言ってんだお前?仕事するんだよ。報道って仕事をな。俺たちは一番逃げちゃいけない人間じゃねえか。だいいちどこに逃げるんだ?自衛隊の基地の周辺は危険度が高いだろうが、それ以外の場所ならどこにいても同じだろ?」

「・・・確かにそうね。あんなスピードで飛んで来られたらどこにいても逃げられないわね」

「だろ?あんなに低く飛んでこられたら自衛隊のレーダーも探知できないから、襲われるとしたら突然だと思うぞ。せいぜい、地下シェルター付きの家を持ってる金持ちがそこに籠るくらいだ」

「でも、アメリカのテレビ局網は壊滅っぽいから、調べるの大変じゃない?」

「まずは前田とアメリカにいる他の特派員に頑張ってもらって情報収集だな。インタビューできれば最高なんだがなあ」

「はあ?誰に?」

「ハーデスっていう野郎にだよ」

「えええっ?近寄る前にさっき飛んでたヤツらに殺されちゃうんじゃないの?」

「いや、何か交換条件を出せばいける気がするんだよな」

「はあ?どんなよ?」

「そりゃあ、何を欲しがってるかは本人に聞いてみなきゃわからないだろうよ。どっちにしろ、政府に協力してもらう必要があるな」

「なんか簡単に考えてない?」

「簡単だとは思っちゃいないさ。ただ、可能性はあるだろうって話だ」

「はあ・・・」

「アメリカのトップにもインタビューしたいところだな。冥界を攻撃したってのが本当なら、なんでそんなことをしたかだ」

「そうね。そこは私も気になってたのよ」

「まあ、大方、地下で軍事実験でもしてて、そんときの事故ってところなんだろうがな」

「ええっ?そんなことで世界中が大変な目に合おうとしてるわけ?」

「まあ、俺の勝手な推測だ。だが、そんなに外れちゃいないと思うぜ」

「軍事大国ってのも困ったもんね」

「まったくだ・・・さて、前田に連絡とって情報を集めてもらうか。お前には非番なとこ悪かったな。今日はもう上がっていいぞ。ただ、いきなり大きな情報が入る可能性があるから、連絡が付くところにはいてくれよ」

「わかったわ」


「おい!今の映像をうちの公式ホームページに急いであげろ!英語の部分は字幕付きでな!」

「もうやらせてます!」

 スタジオを出て行こうとする美麗の背後からそんな会話が聞こえて来た。



 仕事場の部屋に戻ると、そこらじゅうに電話やスマホで話している者がいたが、半分以上は家族などの知り合いと話しているようだった。他の者たちは、何人かずつのグループに分かれて椅子に座ったまま顔を付き合わせて深刻そうな顔で話をしていた。


「あ、美麗!お疲れ様!」

 その中でそう言って立ち上がりながら手を上げたのは、美麗と同期に入社した事務員の花岡里美だった。


「放送見たわよ!あれなんなの?」

 放送をモニターする目的で室内に置いてある大型の液晶テレビを差しながら里美が言った。

「どっち?飛んでたヤツ?ヒツジ顔したヤツ?」

「どっちもよ!」

「わからないけど、たぶんどっちも仲間で、山さんは魔族って呼んでたわ」

「そっか!・・・ここはうるさいから、ちょっと休憩室で話さない?」

「私はもう上がるからいいけど、あんたたち、なんでこんな時間までいるの?」

「電話番として残ってくれって言われたのよ!」

「あらあ。じゃあ、ここにいないとまずいんじゃないの?」

「こんな状況でやってられますかっての!」

「話より、早く逃げません?」

 今まで里美と話をしていた後輩事務員の川野智子が立ち上がって言った。

「どうやって逃げるのよ?あのスピード見たでしょ?車で走ってたって追いつかれるわよ。外に出て動いてる方が危険だと思うから、ここにいてじっとしてる方が安全よ。それに、アメリカにいるんだからすぐにここまで来るわけないじゃない。生き物なんだから、何千キロも飛んで来れないわよ」

「ああ、確かにそうですね」

 智子は、そう言うと再び椅子に座った。


(里美、わかってるじゃない)

 美麗はそう思った。



 それから休憩室に行ったが、結局、智子も付いて来た。知り合いと連絡を取るのが忙しいのか、休憩室には誰もいなかった。


「あんたたち何飲む?おごるわよ」

 里美が自動販売機の前に立って聞いた。

「あら、悪いわね?しゃべったあとだから水がいいわ」

「智子は?」

「じゃあ、私はミルクティーをお願いします」

「はいよ」



「そう言えばあんた、今日は非番だったんじゃないの?」

 水のペットボトルを渡しながら里美が聞いた。

「そうなんだけど、いきなり山さんに呼び出されたのよ!」

「ああ~、あの人、人使い荒いからねえ」

「ホントよ!」

「それよりさあ、あんた今日、IT業界の金持ちに誘われて夕方からご飯だったんでしょ?どうだったのよ?」

 こんな状況なのに、いきなり里美が下世話な話を始めたので、智子を目を丸くして里美の顔を見た。

「ハズレよハズレ!大ハズレ!」

「えっ?また?」

「そうよ!思い出したらイラ付いて来たわ!」

「あんた理想が高すぎるんじゃないの?写真で顔見たことあるけど、結構、イケメンだったわよ」

「顔はそこそこだったんだけど、食事中にゲップしそうになったのよ!」

「しそうにってことはしなかったんでしょ?それくらいいいじゃない?」

「ダメよ!レディの前なんですからね!それに頭がヅラだったのよ!」

「・・・あ~、それはダメね」

「でしょ?」


「あの~?」

「なに!?」

 智子の問いかけに、美麗と里美が同時にイラついた反応をした。

「さっき見た魔族に対して今後どうするかって話だと思ったんですが、違うんでしょうか?」

 美麗と里美の反応に、智子はビビりながら聞いた。


「う~ん、今の段階じゃ特になにもすることないわね?智子は親御さんに連絡したの?」

 里美が聞いた。

「いえ、実家は宮崎で今の放送は見られないので、わざわざ怖がらせることはしない方がいいかなって思ってしてません」

「賢明な判断だけど、そろそろ目に入ってると思うわよ」

 美麗が言った。

「どうしてですか!?」

「さっき、他の全国ネットの局にもあの映像を貸し出したから」

「そうなんですか!?」

「どれどれ」


 里美は、休憩室内にあるテレビに近寄ると、関東テレビの放送が映っていた画面を次々と他のチャンネルに変えて行った。


「あ~、全部の局でさっきの映像流してるわね。どこに回してもいっしょだわ。あ、BSでもやってる」

「・・・そんな」

 智子の顔が青白くなっていった。

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