第2話 魔族の侵攻
「所長、想定外の事態が!」
「なにっ?」
実験の状況を確認していたオペレーターの切羽詰まった声で、ネイラーはそのオペレーターの所へ急いで移動した。
「かなりの深さのところに大きな空洞があったようで、1発目の爆弾は、爆発する深度に到達する直前にその空洞へ落ち込み、そこで爆発したようです」
「空洞だと!?2発目はどうなった!」
「続いてその空洞に落下し、同じくそこで爆発したようです」
「周りの地盤は!?」
「残念ながら、その周辺の地盤に変化はありません。それと、ちょっと不思議なことが・・・」
「不思議なこと?一体なんだ?」
「状況確認のために2発目の爆弾に装着していたカメラに市街地のようなものが映っていたんです・・・」
「はあ?何をバカなことを言ってる!」
「どうした?実験は、成功したのか!?」
クロフォードが立ちあがって近寄って来た。
「それが、想定外の事態により失敗したようです?」
「なんだと!想定外の事態とは何だ!?」
「爆破を予定した場所に空洞があったため、爆発のエネルギーがそこに吸収されてしまったようです」
「『ようです』ではわからん!至急、正しい情報をまとめろ!」
「はっ!」
「どうやら、天蓋を突き破って落ちて来たものが爆発した模様です!」
状況を確認に行っていた者が戻って来てハーデスとミノスに報告した。
「落ちて来たものとはなんだ?」
ミノスが聞いた。
「爆発の仕方から見て、人間が作った爆弾だと思われます!」
「なにっ?・・・人間が攻撃して来たということか!?」
「はい、そのようです。それと、高性能な爆弾だったようで、爆発によって市街地の半分が破壊されました」
「なんだと!?」
それを聞いたハーデスの表情が途端に険しくなった。
「おのれ人間め!盟約を無視して攻撃を仕掛けて来るとはどういうつもりだ!しかも、俺の誕生日を狙って!・・・許さん、許さんぞう!」
「魔王様、いかがいたしましょう!」
「向こうから盟約を反故にしてくれるとはちょうど良い!地表に侵攻して人間界を滅ぼし、我々の住処の一部とするのだ!」
「御意!」
ミノスは、報告に来た者に対して指で一緒に来いという合図を送りながらテラスの最前列へ移動した。
すると、その者が前に出てきて、前庭に集まっている民衆に向かって、怒鳴るような大声で言った。
「静粛に!静粛に!これから、ミノス様からお話がある!」
途端に民衆は静まり返った。
「たった今、人間から攻撃を受けた!」
その言葉を聞いた途端、民衆はざわめき、「なんだと!」「ふざけるな!」等の声がそこらじゅうから挙がった。
しかし、ミノスが手のひらで制止するような仕草をすると、民衆は再び静かになった。
「これは明らかな盟約違反である!よって、人間どもにその報いを受けさせねばならぬ!」
群衆から「そーだそーだ!」「痛い目に合わせてやる!」などと怒号が飛んだ。しかし、それほどの騒ぎにはならなかったのでミノスは話を続けた。
「次の攻撃が来る前にこちらから攻撃を仕掛ける!すぐに攻撃態勢を整えるゆえ、皆の者は指示があるまで待機せよ!住居を破壊された者にはすぐに飲食物を支給するのでこの場で待て!」
「おおーーー!」
前庭にいた民衆全体から大きな怒号が上がった。
ミノスは、きびすを返すとハーデスのところへ行った。
「直ちに作戦会議を開き攻撃準備を整えます!」
「頼んだぞ。準備ができ次第俺も一緒に行く」
「はっ!」
ミノスは、ハーデスに頭を下げると、テラスの入口に向かいながら来賓席の者たちについてくるよう手で合図を送った。その場にいた者すべてがミノスに従い城の中に消えて行った。
「なんてことだ!」
「おのれー!」
爆心地に近いところに住居のあった者たちは、戻ってみて自分の家が跡形もなく消えているのを見て怒りを爆発させていた。
「ミノス様は、ああおっしゃったが、俺が先に行ってこの上にいる者たちの息の根を止めてやる!」
「俺も行くぞ!」
「私もよ!」
「うおおおおーーー!」
その場にいた異形の魔物たちのうち、飛行能力のある十数名が、爆弾の開けた穴から地上に向かって上って行った。
ハーデスは、まだテラスの椅子に座っていたが、その様子を見て口元に笑みを浮かべると、椅子を降りて城の中に入って行った。
「所長!穴の下方から何か音が聞こえます!」
「なに?何の音だ!?」
「それが、動物の鳴き声のようなんです・・・」
「何をバカなことを言っている!」
「どんどん上がって来ます!」
「なにっ!?」
「もうそこまで・・・・・穴から出て来ます!」
「ギャッギャッ!」
「グギャー!」
爆弾を投下した穴から、羽の生えた見たこともない容姿の生き物が、恐ろしい鳴き声を上げながら大量に飛び出して来たため、その場にいた人間はパニックに陥った。
「なんだあれは!」
「モンスターだー!」
「デーモンだ!」
その場にいたオペレーターたちは、我先にとドアに走り、その部屋から逃げ出した。
「なんだこの生き物は・・・」
クロフォードは、恐怖と驚きが入り混じった表情でガラスに近寄り、次々と穴から出て来る魔物たちを目で追っていた。
「その部屋は、爆弾の暴発を想定して分厚い強化壁でできており、このガラスも同等の強度を持つ強化ガラスですから破られる心配はありませんが、念のため避難をお願いします」
一人だけ部屋に残っていたネイラーが、クロフォードに近寄って言った。ネイラーも咄嗟に逃げようとしたが、クロフォードがガラスに釘付けになっているのを見つけると、クロフォードに何かあった場合の処分の方が恐ろしいと考え、その場にとどまった。
「待て。大統領に報告せねばならん。目の前の部屋の中に監視カメラはあるのだろう?」
「はい、ありますが・・・」
「その映像を持ち帰る!あと5分、いや、2分でいいから録画し、その映像を持ち出せるメディアに移せ!」
「わ、わかりました」
ネイラーは、一つの端末のところへ行き、監視カメラの映像が映されているのを確認すると腕時計に目をやった。
クロフォードは、ガラスに両手を付き、中で飛び回る異形の生物を見ていた。
「コウモリのような姿、ワシのような姿、カブトムシのような姿、共通しているのは羽が生えているということだけだ。どこにこんな生き物が生息していたのだ?」
そのとき、魔物の一人と目が合った。すると、その魔物はクロフォード目がけて突進してきた。
ゴーーーン!
強化ガラスにぶち当たって大きな音を立てると、強化ガラス全体が大きく振動した。
クロフォードは、思わず1歩下がったが、すぐに気を取り直すと、腕を組んでその魔物を睨みつけた。ネイラーもそちらを見たが、何事も起こっていないようだったので、すぐに作業に戻った。
その直後、体当たりしてきた魔物が振り返って、後方にいた他の魔物に向かって言葉を発した。
その途端、5体ほどの魔物が続けざまにガラスに向かって突進してきた。
ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴーーーン!
それでも、クロフォードはその魔物たちを睨みつけていた。
しかし、それが5回ほど繰り返された時、ビシッ!という音ともに強化ガラスに小さなヒビが入った。
「なにっ!?」
クロフォードは、無意識に腕組みを解き、2歩、後ずさっていた。
「長官、もう少しです!」
ネイラーは、それには気づかず作業を続けていた。
ゴーーーン!
ビシッ!
ゴーーーン!
ビシッ!
それからは、魔物がぶつかるたびにガラスのヒビが広がっていった。
「ネイラー!まずい!逃げるぞ!」
「えっ?」
ガシャーン!
ネイラーが顔を上げた途端ガラスが割れ、飛び込んで来た魔物たちがクロフォードとネイラーに襲い掛かった。
「ぎやあーーー!」
ハーデスパレスの大会議室では、冥界の名士と呼ばれる者たちを集めて作戦会議が開かれていた。
会議室の一番奥の壁には大きな液晶モニターがあり、そこにアメリカ合衆国の地図が映し出されていた。
「赤い点が軍事基地および軍関連施設、緑の点が政府施設、青い点が通信施設、黄色い点がこの国の港にいる航空母艦の位置だ。これらを一気に潰し、まず、相手の攻撃力を大幅に削ぐ。これらの情報をすべて格納した地図を思念ビジョンで送るから、お前たちそれぞれが自分の領地に一番近い場所を攻撃するのだ!その後の指示は後ほど送る」
「はっ!」
会議は30分で終了したが、夜遅かったのと攻撃準備を整えるため、未明をもって一斉に地上侵攻を開始することが決定された。
次の日の朝4時過ぎになると、アメリカ国内の各基地からモンスターに襲われているという情報が国防総省に入ったが、それらの情報は、徐々に入って来なくなり、30分後にはどこの軍事施設とも連絡が取れなくなった。
各基地は、ほぼ同時に魔族の襲撃を受けており、地上の施設のほとんどは20分と経たずに破壊された。
空軍基地でも、多くの機体が地上で破壊されたが、他の基地から攻撃の報を受けてかろうじて迎撃に上がった戦闘機も飛行タイプの魔物相手に苦戦していた。
「各機に告ぐ。相手が生物だけに赤外線ホーミングのミサイルは使えない!レーダーホーミングのアムラームを使え!」
「ラジャー!・・・食らえ!」
前方数キロにある幹線道路上の地表すれすれをこちらに向かって来る大量の魔物がいたが、そこへ向かって8機のF-22から各4発、合計32発のアムラームが発射された。
「おおん?なんか飛んでくるぞ」
「あー、戦闘機ってヤツが飛ばしたミサイルって代物だろ」
「ノロいなあ。眠たくなるわ」
「よっと!」
魔物たちは、飛んで来たミサイルすべてをあっさりと回避した。ミサイルは、すべて地面に当たって爆発した。
「全弾外れました!」
「なんだと!」
「動きが速すぎます!」
「おーす」
1体の魔物が、1機のF-22のキャノピーに張り付き、とぼけた様子でパイロットに声をかけた。
「なにぃ!」
バキン!
その魔物は、コクピットを右手で突き破ると、パイロットの頭をヘルメットごと掴み、左手でシートベルトを引きちぎって持ち上げ、外に放り投げた。
「ばいば~い」
「うわぁぁぁ!」
他の機体も、魔物から体当たりを受けて破壊されたり、主翼を引きちぎられたりして、数分で全機が撃墜された。




