第1話 冥界の王
新作です。
前回作「異世界マニアのおしかけ召喚者」の登場人物が途中から登場する構成となっています。
また、前作ほどの長編にはならない予定ですので、ご笑覧いただければ幸いです。
「魔王様、1万歳のお誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「魔王様~!ステキ~!」
その日の夜、地下の奥深い場所にある冥界では、魔王と呼ばれる冥界の王の生誕1万年を記念した式典が執り行われようとしていた。
場所は、王ハーデスの居城「ハーデスパレス」。
王都北端の高台に位置しており、ハーデスは、城の中階層南側の幅20メートル、奥行き10メートルほどもあるテラスの中央前方にしつらえられた背の高い豪奢な椅子に腰かけていた。椅子は、高さ2メートルほどの台の上に置かれており、ハーデスからは、城の前庭だけでなく王都全体が見渡せるようになっていた。
明るい照明に照らされた眼前の広大な前庭には、冥界の各地から訪れた様々な容姿・形態をした数万の民たちがハーデスの誕生日を祝うために詰めかけ、ハーデスに向かって口々に祝いの言葉を叫んでいた。
ハーデスは、2メートルを超える身長ながら、人間の30歳くらいの容姿をしており、黒で統一された式典用の豪華な服の下には筋肉質の強靭な体が隠れていた。
ハーデスの椅子の左には、2メートル近い身長の老人然とした、左右の側頭部から羊のような顔と角を持った宰相ミノスが立って寄り添っていた。
「ハーデス様、予想以上の民が集まりましたな。これぞ、ハーデス様の御威光のたまもの」
「そうか・・・民たちの表情も明るく、身なりも悪くない。皆が大きな困難もなく暮らせている証だろう。感謝するぞミノス。あとで褒美をとらせよう」
「これはこれは、もったいなきお言葉。ありがとうございます」
ミノスは深々と頭を下げた。
「ところでハーデス様、この式典のために各地の名士たちも集まり、すぐ後ろに控えておりますが、その娘たちも多数来場して城の広間にて魔王様をお待ちしております。ペルセポネ様が亡くなられてからすでに千年が経過しておりますが、生憎とペルセポネ様との間にはお子に恵まれませんでした。お世継ぎのために次のお妃さまを決めていただきたいのですが・・・」
「またその話か。名士の娘と言ったって甘やかされて育った見た目ばかりを気にする大した信念も持たない者ばかりであろう?そんな女に興味はない。それに、俺はまだ、この先数万年も生きる。今すぐでなくても良かろう?」
「いえ、早めになるべく多くの子を成していただき、その中から最も優秀な子をお世継ぎとしていただくのが代々の習わしでございます。名士の娘の中には聡明な子もいると聞いておりますので、その中から選んでいただければと」
「今までの例からして、聡明と言ってもたかが知れている。それに、俺が望んでいるのは芯のある意思の強い女だ」
「そのような者もきっといると思われます。後ほど、お目通りだけでもお願いします」
「わかったわかった。無駄だろうがな」
「よろしくお願いします」
ミノスは、再び深々と頭を下げた。
「それと、もう一つ問題がありまして」
「なんだ?」
「3百年前までは、この冥界の気温が徐々に上昇して人口が少しずつ減っておりましたが、その後、大きな水脈がいくつか見つかったことで気温が下がったため、逆に人口増加の問題が深刻になっております」
「聞いている。対策は?」
「はい、岩盤を削って冥界の領域を拡張してはおりますが、それには限界があります・・・いっそのこと、地上に進出してはいかがかと」
「ダメだ!我々魔族は冥界、人間どもは地上という盟約があるのはお前も知ってるだろうが」
「そうではありますが、前王の時代にあたる5万年も前に結ばれたもの。その後も我々は進化を続け文明も進歩してまいりましたが、人間どもは道具に頼り過ぎているあまり、個々の戦闘力は下がる一方で今は見るべきものがありません。各国の軍事施設、および政府施設の位置はすべて把握しておりますので、それさえ先に破壊してしまえば地上を制圧するのはたやすいこと。簡単に地上の広大な領域が手に入ると思われます」
「ダメだ。こちらから一方的に盟約を破棄したという事実は作らない。人間なんぞに負い目を作るのは問題外だ。それに、我々魔族は、この冥界の方が生活に適しているだろうが。地上に出て適応できるのかもわからんではないか」
「その問題に関しましては、熱帯雨林等の一部や逆に極寒の場所では、我々の中にそれに適応できる種族がいることが判明しております。他にも、生息に適した候補がいくつか見つかっております。その場所だけでも確保できればと」
「ダメなものはダメだ!」
「式典の準備が整いました」
そこで、正装をしたイノシシのような容姿の若い男が近づいてきて言った。
「そうか。ご苦労」
ミノスが言葉を返しして振り返ると、テラスの後方に設置した左右10席ずつの椅子には、すでに来賓の者たちが腰かけていた。
その頃、その真上にあるアメリカ合衆国の地表近くでは・・・
「点検完了しました!」
「了解した」
「国防長官、実験の準備が整いました」
「よし、始めろ」
「はっ!・・・秒読み開始!」
初老の国防長官クロフォードは、本日、初めて行われる画期的な軍事実験のために、この地下実験施設に招かれており、この施設の責任者であるネイラーと緊張した面持ちで並んで立っていた。
そこは、眼前に横長の大きなガラスがある部屋で、部屋の中には数多くの液晶画面を持つ制御や監視系の電子機器があった。ガラスの向こう側50メートルほどの地面には、直径5メートルほどの穴が開いており、その真上には、長さ5メートル、直径2メートルほどの砲弾の形をした物が、尖った部分を下にして縦に二つ重ねて設置されていた。
二つの砲弾の形は微妙に違っており、下の物は、先端1.5メートルがらせん状のドリルのようになっていた。
「問題なく成功するんだろうな?」
「はい!多くの時間をかけて準備してまいりましたので大丈夫です!」
「この2連式地下爆弾の実験が成功すれば、画期的な威力の兵器を持つことになる。失敗は許されんぞ」
「はい。しかも、地下に広大な空洞を作り地上のものを沈下させて破壊するというものであり、地上への放射性物質の漏えいもごく微量ですみますから、使用しても他国から非難されることもありません」
「うむ、そう聞いているが、今一度詳細を聞いておこう」
「先に投下される下の爆弾が、先端のドリルで地面に穴を開けながら沈下して行き、ある程度の深度に達したら爆発します。数秒後に上の爆弾が投下され、最初の爆弾と一定の距離を保ちながら降下して行き、最初の爆弾が爆発した位置に到達すると爆発し、最初の爆弾が作った空洞に作用して、広範囲の地盤を液状化しますので、その真上にあった地盤がその分沈下し、地上にある建物は地面ごと地中に飲み込まれるという仕掛けです」
「うむ、素晴らしいな」
「また、わざわざこの地下2マイルもの場所に実験施設を作り、地表の半径5マイルとこの施設には、今回の実験でも崩落しない特殊な加工を施しましたので、何の兆候も現れないため他国にばれる心配はありません」
「うむ、それは見事だ」
「・・・テン、ナイン、エイト・・・」
「あ、いよいよです!」
そこで、その二人を含む施設内にいたは人間がゴーグル状になったサングラスをかけた。
「・・・ゼロ」
1発目の爆弾を周りの3か所を保持していた支持架が少し引っ込んで外れると、爆弾は後部から青白く眩しいジェットを勢いよく噴出しながら穴の中に落ちて行った。
「続いて2発目行きます・・・3、2、1、ゼロ!」
2発目の爆弾は、支持架から離れると自由落下で穴の中に落ちて行った。
「もう、ゴーグルを外しても大丈夫です。少し時間がかかりますので、あちらの椅子に掛けてお待ちください」
「ああ」
クロフォードは、左手に用意されていた一人掛けのソファに腰を下ろした。
ボコッ!
数分後、ハーデスパレスの前庭の最後方にいた冥界の民の数十人が、後方上部から聞こえて来た大きな音に反応して振り返った。
「おい、何か上から落ちてくるぞ?」
「あ!天蓋に穴があいてる!」
「ええっ?あの硬い天蓋が?」
「あそこから落ちて来たってことか?」
ドオーーーン!
その落下物は空中の高い所で爆発した。
「おい、破裂したぞ!」
「嘘だろ!?」
「何だ?祝いの花火か?」
爆発の炎と、破片が煙を曳きながら落ちて行く様子を見たハーデスがミノスに聞いた。
「いえ、そのようなものは用意しておりません。民間の有志が気を利かせて打ち上げてくれたものかもしれませんな」
「そうか。気が利くな」
ハーデスはほほ笑んだ。
「おい!もう一発落ちてくるぞ!」
爆発音で、前庭にいた者たちの多くが振り返っていたが、後方にいた者たちは、もう一つ物体が落下してくるのにいち早く気付いた。
「どんどん落ちてくるな」
「今度は爆発しないのか?」
「あ、家に落ちそうだ!」
「やめてくれ!あの辺には俺の家があるんだ!」
ピカッ!
ズウウウーーーーン!
2発目の落下物は、大きな閃光と共に、先ほどより鈍い音で爆発した。
「うわぁぁーーーー!」
物凄い爆風が前庭まで届き、一番近い場所にいた者たちは咄嗟に両腕で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
爆煙が辺り一帯に立ち込め、落下物が爆発した場所から数キロは何も見えなくなった。
「何だ今の閃光と爆発は!?」
今度は、明らかに花火ではなかったため、ハーデスの表情が変わった。
「わかりません。すぐに調べさせます!」
ミノスが、後方に控えていたコウモリのような顔をした者に指を振ると、その者は背中で畳まれていた羽根を広げ、前庭の後方に向かって飛んで行った。




