第16話 思わぬ展開
「今回、攻撃を受けたのは突然で予想外だったわけですよね?」
「そうだ」
「それに対して、移住を希望するというのは、以前から計画していたことのように聞こえますが?」
「それは半分当たっている。実は、冥界は人口が増えすぎて居住領域が不足してきていたのだ。そのため、地上への移住も考え、候補地となりそうな場所を少し前から調査していた。しかし、私からその話をハーデス様にしたところ、盟約があるからと反対されたのだ。それを人間の方から盟約を破って来たため、ハーデス様は大層お怒りになって、今回の地上侵攻を決意されたのだ」
「そうなんですか?あんまり怒っているように見えませんけど」
「そ、それはお前が攻撃してきた国の人間ではないからだ!」
美麗に会うのを楽しみにしていたのでハーデスは機嫌が良かったが、それをごまかすため、ミノスはつい大声になった。
(あれ?今、焦った感じになったわよね?なんでだろ?)
「お前、我々が怖くないのか?」
ハーデスが口を開いた。
「え?・・・そう見えますか?」
「最初から堂々とした態度で言葉に詰まることもなく質問を続けている。軍事基地にいた兵士たちは、我々魔族の姿を見ただけで震えあがり、逃げ出した者がほとんどだったと聞く。戦闘訓練を受けた兵士ですらそうなのに、なぜただの一般人、しかも女のお前が少しも怯えた様子を見せないのだ?」
「そうですねえ、私の場合、恐いよりハーデス様がどのようなお姿をされているかの方が気になっていました」
「ほう、それで目の前にしてみた感想はどうだ?」
「あまりにも人間と同じ姿なので逆に驚きました。服も軍人が正装する時に着るようなデザインですし。あと、あまりにもお顔立ちが美しくて見とれてしまいました」
「ははははは!そうか、そうか」
ハーデスは一気に笑顔になった。
「あ、もしかして、服の下は毛むくじゃらだったり、鱗でびっしり覆われてたりします?」
「いや、体も人間とほぼ同じだ。王族は、太古よりそういう姿なのだ」
そう言うなり、上半身が厚い胸板と割れた腹筋の裸の姿になった。
「えっ?服が消えた!それどうやったんですか!?」
美麗は、びっくりして思わず声が大きくなった。
「一部の魔族は、体組織を変化させて姿を変えることができるのだ。だから、今までお前が見ていた上半身は、ただ、体組織を変化させて服に見せかけていただけだ。もっとも、下半身丸出しは品位に欠けるので、ちゃんとズボンは履いているがな」
ハーデスは、そう言うとニヤリと笑みを浮かべた。その笑みで、逆に美麗の方が恥ずかしい思いになった。
「あ、ああ、そうなんですね・・・それで、ハーデス様も地上に移住されるんでしょうか?」
「俺は冥界の王だからそういう訳にはいかん。ミノスも冥界には欠かせない男だから同様だ。侵攻状況の確認のために二人ともしばらくは地上に留まるがな」
「そうなんですね」
美麗は、先ほどから質問したことの回答をメモ帳に書いていたが、ハーデスの回答を書き終わって顔を上げたら、ハーデスが服を着た姿に、しかも、先ほどとは違うデザインになっていて、また驚いた。
「本当に俺たち魔族と対峙して欠片も驚かないんだな。その度胸、ますますもって気に入った!よし、決めた!お前、俺の妻になれ!」
「はいい?」
「ハーデス様なにを!」
突然の予想外の言葉に、美麗以上にミノスが驚きの声を上げた。
「なんだミノス?お前、城では世継ぎを作るために早く結婚しろと言ってたではないか」
「言いましたが、お相手は魔族にしていただかないと」
「人間との間にも子をなすことはできるだろうが。前例もあるし」
「そうですが、しかし・・・」
「姿美麗とか言ったな?お前はどうだ?」
「え?突然のことでなんとお答えしていいか・・・あれ?」
(ちょっと待って?王様ってことは絶対お金持ちよね?見た目もめっちゃ好みだし、これは「有り」?)
「すみません、つかぬ事をお伺いしますが、資産はどのくらいお持ちでしょうか?」
「資産とは具体的になんだ?」
「金銭とか、貴金属類とか・・・」
「紙幣や硬貨のことを言っているのであれば、冥界には存在しない」
ミノスが答えた。
「え?それはどういう・・・」
「生まれた直後にDNAを城の中枢にあるデータバンクにオンラインで登録するから、支払いは、すべて読み取り装置に指を当てることで行われる」
「えっ?スゴいですね、それ!」
「人間界ではやっていないのか?」
「キャッシュレス化されている国は多いですが、さすがにDNAと連動させている国はないかと」
「ふっ・・・不便だな」
ミノスは、あざ笑うように言った。
「その通りだと思います・・・では、宝石類とかは?」
「冥界は地下にあるだけに、宝石類は豊富に採れる。毎年、俺の誕生日になると臣下の者たちからそれを使ったアクセサリや調度品が送られてくるから城に大量に溜まっている。一部は、功績のあった者に褒章として与えているが、貰う量の方が多いので増える一方だ」
ハーデスが答えた。
「どのくらいの量になっているのでしょうか?」
「そうだな・・・この部屋3つを埋め尽くす程度かな」
「えええっ!?」
部屋は横長だったが、たっぷり20畳ほどはあった。
(ちょっと、ちょっとお!それって石油王レベルじゃない?・・・いや、もっとかも!)
「そういう物が好きなのか?」
「あ、はい!大好きです!」
「ふっ、正直だな。俺の妻になるなら、半分くれてやろう」
「ホントですか!・・・じゃあ、魔王様の妻になります!」
「ハーデス様の妻になるというのは、この上なく光栄なことなのだぞ!お前、それを資産だけで判断しおって!」
ミノスが、怒りのこもった顔で言った。
「あ、いえ、それだけではないです!魔王様のお姿も大変気に入ってしまいました!」
「ほう、それは嬉しいな。それでは、承諾ということで良いのだな?」
「はいっ!はいっ!・・・あ」
(ちょっと待って。それだと、私だけ安全地帯に逃げ込んだみたいで世界中から非難されちゃうわね?どうしよう・・・・・そうだ!)
「すみません、妻になるにあたって一つお願いがあるんですがよろしいでしょうか?」
「言ってみろ」
「私の国、日本だけは攻撃対象から外していただきたいんですが、どうでしょう?」
「ああ、それか」
そこでハーデスがミノスをチラリと見ると、ミノスが答えた。
「お前の国は島国なのに山ばかりで平地が少ないうえ、季節による寒暖差が激しいから我々のどの種族が住むのにも適していない。最初から定住する予定はなかったから外すのは構わない。ただし、あくまでお前の国の軍隊・・・自衛隊と言ったか?・・・が我々に攻撃して来ないという条件付きだ。他国への支援戦闘も含まれる」
「あ、自衛隊は、よその国で戦闘しちゃいけないと法律で決められてるんで、その点は大丈夫です」
「ふむ、それでは、我々が攻撃しない限り攻撃して来ないということだな?そうだとしても、我々を決して攻撃するなと伝えよ」
「わかりました。伝えます・・・あと、このままだと私だけ逃げたみたいになっちゃうんで一芝居打ちたいと思うんですがいいでしょうか?」
「ほう、どんな風にだ?」
ハーデスが聞いた。
美麗は、自分がこれからやろうとしていることを説明した。
「わははははは!面白い!構わんからやってみろ!」
「ありがとうございます!」
美麗は、立ち上がるとハーデスに向かって深々とお辞儀をしてから座った。
「ハーデス様、本当にこの者を妻にされるのですか?」
「そうだ。冥界には、これほど俺の興味を引く女はいなかったからな」
「はあ~、そうですか・・・しかし、臣下の者たちがなんと言うか。特に、娘をハーデス様に嫁がせようと考えていた者たちが・・・」
「それを抑えるのはお前に任せる」
「ええっ?そんなあ・・・」
「では、身辺整理もあるだろうからお前に五日間やる。その間、ここで待つから五日後の正午までにここに来い」
「わかりました!」
「ふう・・・質問は終わりで良いのだな?」
ミノスが聞いた。
「はい!・・・あ、大統領と高官の一人はどうなるのでしょうか?」
「心配せずとも、すべてが終われば無事に返す」
「そうですか。わかりました」
美麗は、この答えにはモヤッとするものがあったが、それ以上は聞けなかった。
それからさらにいくつか質問をしてインタビューは終わり、そこでバッグを返してもらった。
「それでは、お時間をとっていただきありがとうございました!」
美麗は、立ち上がると再び深々とお辞儀をした。
「ああ。それではな」
ハーデスが軽く手を上げて答えた。
「失礼します・・・あ、今後はハーデス様とお呼びすればよろしいでしょうか?それとも、魔王様でしょうか?」
「好きに呼べ」
「わかりました!」
美麗は、再度お辞儀をして部屋を出た。顔は笑みで溢れていた。部屋の外には、ブルカが立って待っていたが、その表情を見て怪訝な顔をした。
「私、魔王様と結婚することになっちゃった」
「ああ?なんだそれ?」
「詳しくは魔王様に聞いてちょうだい。じゃあ、飛行機まで戻るわよ」
「あ、ああ」
ブルカは、首をひねりながら美麗の後を付いて来た。
「あっ!出てきました!」
U-4輸送機の客室内で窓の外を見ていた岸本の部下の一人が叫んだ。
「なに?」
他の者たちも、左側の窓に寄って外を見た。
「ああ、無事で良かった」
大河原が安堵した顔で言った。
美麗は、ブルカに一礼するとステップを上って機内に入って来たが、かなり上機嫌に見えたため、一同は不思議に思って眉間にしわを寄せた。
「どうでしたか?質問には答えてもらえましたか?」
美麗が着席するなり、後ろの上から覗き込むように岸本が聞いた。
「私、魔王と結婚することになっちゃった」
「はああああ!?」
「なんですって!?」
「ウソでしょ!?」
皆、一斉に驚きの声を上げたが、大河原が一番大きな声を上げた。




