第17話 聞き取り
「どういうことですか!詳しく話してください!」
岸本が、大河原の横に来て美麗に向かって言った。
「私のテレビ放送のどれかを見たのか、なんか、私のこと気に入ってて、それでインタビューを受けたみたいなのよね。それで、話してるうちに私の性格も気に入ったみたいで、突然、『俺の妻になれ!』って言われちゃったのよ」
「ええっ!?」
「お前、なんだか嬉しそうだな」
大河原がぼそりと言ったため、そこで美麗はハッとして表情を引き締めた。
「そ、そんなわけないでしょ!きっと、緊張から解放されてホッとしたから顔が緩んでるのよ」
「そおかあ?」
「そんなことより、その申し出を受けたんですよね?どうしてですか?」
岸本の顔には困惑と焦りが入り混じったような表情があった。
「迷ったんだけど、日本を攻撃しないなら受けますと言ったら了承してくれたので」
「・・・え?本当ですか?」
「ただし、自衛隊が魔族を攻撃しないって条件付きよ」
「自衛隊はこちらから先に攻撃できませんからそれは大丈夫でしょうが、魔族ですか?ハーデスも自分たちのことをそう呼んでました?」
「あ、そうね、魔族って言ってたわ」
「そうですか・・・しかし、日本が救われたのは素晴らしいことです!そのために犠牲になる覚悟をしてくれたんですね?ありがとうございます!」
(こいつには美麗の身の心配するとかってないんだな。さすが政府の役人だ)
大河原は、そう思って岸本を睨んだが、通路を挟んだ反対側の席に座るために向こうを向いた岸本は気づかなかった。
「出発だ」
岸本がそう言うと、部下の一人がコクピットに向かって行った。
飛行機は、すぐに動き始めた。
ハーデスは、その様子を美麗と居た部屋の窓から立って見ていた。
「本当にあの人間を妻に迎えるんですか?」
ミノスが渋い顔で言った。
「ああ。人間というものがどんなものか観察する機会にもなるではないか」
ハーデスは、飛行機が離陸して行く様子を目で追いながら答えた。
「はあ~・・・」
ミノスは、大きなため息をついた
「それで、インタビューの内容はどんな感じでした?質問の回答はすべて得られましたか?」
飛行機が上空に上がり水平飛行に移ると岸本が聞いた。
「戻ったらあなたの上役も交えて聞き取りがあるんでしょ?2度も話すのは面倒だからその時に話すわ」
「ええっ?・・・少しだけでもお願いできませんか?」
「イヤよ。面倒くさい」
「そんな・・・でも、こちらで用意した通りに質問してくれたんですよね?」
「あれは、部屋に入るなりミノスに奪われたわ」
バッグごと取られたのは事実なので間違ってはいなかった。回収可能なのに回収しなかったが。
「そうなんですか!?なんてことだ!」
「あんた、電子機器を持ち込んじゃいけないって言われてたのに私に言わなかったじゃない!おかけで私のスマホは引きちぎって壊されちゃったのよ!弁償してもらいますからね!あんたが無理やり付けたボイスレコーダーだってすぐにバレちゃったわよ!」
「・・・確かにお伝えしていませんでした。すみません。スマホは弁償いたします」
「当然よ!クラウドにバックアップはとってあるけど、一部は設定をやり直さなきゃいけないのよ!余計な手間まで作って!」
「本当にすみません」
「ふん!」
岸本は、美麗の態度にイラッとしたが、美麗が不機嫌な表情のまま視線をそらして窓の外を見たので、それ以上聞けなかった。
(やっぱ性格キツイぜ、この女)
部下の二人は思った。
「それで、お前は何番目の奥さんになるんだ?」
しばらくすると大河原が聞いた。
「えっ?」
その言葉に驚いて美麗は大河原を見た。
「相手は王様なんだから、何人も奥さんがいるのが普通だろ?」
「・・・そんなこと全然考えなかったわ。てっきり、正妻になるもんだと・・・」
「魔族が人間を正妻にするって可能性低くないか?」
「言われてみればそうね。もしかして正妻や他の夫人たちからのいじめとかある感じ?え~、イヤだなあ。一気に気持ちが暗くなって来たわ」
美麗は、がっくり肩を落とした。
「まあ、確定したわけじゃないから気にするな」
「気にするわよ!はあ~・・・」
それから、入間基地に戻るまで美麗はほとんど口を利かなかった。機内で昼食が出されたが、それにも半分ほどしか手を付けなかった。
ヘリコプターで都内まで戻ると、美麗はそのまま昨日のリムジンで政府の施設に連れて行かれた。大河原とは、ヘリコプターを降りたところで分かれた。
建物に入るなり岸本の部下の二人と別れて会議室へ行ったが、入ると老齢ばかりの6人の人がいて、全員、横長の会議卓の向こう側に座っていた。驚いたことにその中に首相の石橋と幹事長の麻田がいて真ん中に横並びに座っていた。一番左端には防衛大臣の大泉もいた。
美麗は、そんな人物たちがいるとは予想していなかったので、驚いてその場でしばし突っ立ったままになった。
「座りなさい」
幹事長が言った。
「あ、はい」
美麗は、一礼して会議卓を挟んだ幹事長の目の前の椅子に座った。岸本は、一つ開けて美麗の右に座った。
「それでは、インタビューの内容を話してもらおうか」
幹事長が言った。
それから美麗は、インタビューの内容を最初から最後までハーデスに求婚されたことも含めて話したが、ハーデスの資産についてのやり取りの部分は話さなかった。
会議卓の反対側にいた者は皆、美麗がハーデスに求婚されたと聞いた時は驚き、それによって日本が攻撃対象から外されたと聞いた時は安堵の様子を示した。
「それともう一つ、私を妻にするなら、これ以上どの国の民間人も殺さないということも約束してもらいました」
「おお~!」
「それは大きい」
「これで、日本だけが魔族の攻撃から逃れたと非難されずに済むな」
「ああ、まことに良い条件を引き出してくれた」
「しかし、魔王相手に二つも条件を飲ませるとは、大した度胸だ」
幹事長が言うと、ほかの者たちは「うむうむ」と頷いた。
「それで、キミは魔王に嫁ぐ覚悟はできているのかね?」
首相が聞くと、皆、真剣な表情になって美麗を見た。
「覚悟も何も、こんな条件を飲んでくれるなら妻になるしかありませんよね?たぶん正妻じゃないでしょうから、他の王妃たちからいじめがありそうですし、それ以前に魔族たちに歓迎されないでしょうけど、どうであれ私に選択肢はない状況でした」
「選択肢はないか・・・その通りだな。では、疲れたろうからこれで終わりとする。帰宅してくれて構わない」
「これから記者会見がありますから帰れませんわ」
「ああ、そうだったな。色んなテレビ局が入った合同記者会見だったか。では、よろしく頼む。特に、どの国の民間人も殺さないという点を強調することを忘れずにな」
「わかりました」
美麗は、一礼すると会議室を出た。
記者会見の会場は関東テレビのスタジオ内に設置されていたが、岸本がリムジンでそこまて送ってくれた。部下の二人も一緒だった。
美麗は、記者会見に備えてリムジンの中で化粧直しをした。
「お疲れさん!無事で良かったよ」
仕事場の部屋に入ると、山城が入口の近くで立って待っていた。すぐに、里美と智子も寄って来た。
「どこも怪我してない?」
「全然平気よ」
「イヤなこと言われたりしなかったですか?」
「う~ん、特になかったかな?」
「良かったです!」
「記者会見の用意はできていて、記者たちや各局のカメラもすでに会場に入ってるが、インタビュー内容のさわりだけでも聞かせてくれるか?」
「うん・・・まず、全世界の軍事施設を無力化するまで攻撃はやめてくれないわ」
「やっぱりそうか・・・ドイツ、フランス、スイスを始めとした、西ヨーロッパのいくつかの国がすでに無力化されたらしい」
「え?・・・やっぱり魔族ってとんでもなく強いのね」
「そうだな。それから?」
「盟約というのは、5万年前に魔族と人間との間で大規模な戦闘があり、お互いに多くの死傷者を出したので痛み分けって感じで、冥界と地上っていうお互いの場所だけに住むことを取り決めたことなんだって」
「そういうことか。でも、あれだけ破格の攻撃力を持つ魔族によく対抗できたな」
「人海戦術にやられたみたいよ。それと、当時の人間は今とは比較にならないほど身体能力が高かったらしいわ」
「あ~、そういうことか~。わかる気がするな」
「あとねえ、私、魔王に求婚されちゃったのよ」
「えええっ!?」
「ウソでしょ!」
「・・・!」
3人ともしばらく固まった。
「・・・どうしてそうなった?」
たっぷり10秒ほど経ってから山城が聞いた。
「なんか、私の性格と見た目を気に入ったみたい」
「えっ?だとしても、初対面で求婚するか?」
「それだけ気に入ったってことじゃないの?」
「あんた、それ受けたの?」
里美が聞いた。
「日本を攻撃しないことと、世界中の民間人には手を出さないことを条件に出したらOKしてくれたから受けたわ」
「ええっ!?」
「それ、すごくないですか!?」
智子は興奮気味になった。
「あれ?大河原さんから聞いてないの?」
「インタビューの内容はお前から聞いてくれって言って、カメラの担当だから記者会見会場に行ったよ」
山城が言った。
「あら、そうだったの」
「じゃあ、俺たちはもう怯えなくっていいってことか?」
「そういうことね」
「あんたエラい!」
智子が美麗に抱きついた。
「でもねえ、きっと第一婦人じゃないから苦労するわ。他の魔族が私のこと邪険に扱いそうな気もするし。冥界がどんなところだかわからないってのも憂鬱なのよね」
「ああ、そうか。その可能性があるよな。冥界に対しても不安だな」
「そうよね。軽はずみにエラいとか言ってごめん」
「別にいいのよ。もう、腹はくくったし」
「冥界から連絡できるのかな?あんたがどうなってるか心配だわ」
「魔王は、これからの攻撃状況を見るためにしばらくは地上に留まるって言ってたから、その間は連絡できると思うわよ。その時に、何番目の奥さんで、魔王やほかの魔族がどう接してくれるか教えるわね」
「ありがとう!待ってるわよ」
「・・・じゃあ、私は行くわ」
「ああ、頼んだぞ」
「モニタで観てるからね」
「頑張ってください!」
美麗は、3人に向かってほほ笑むとスタジオに向かって行ったが、部屋を出た時にはもう引き締まった顔になっていた。




