第15話 インタビュー
「あっ!」
輸送機内でヘッドホンをして会話の様子を聞いていた岸本は、通信が途切れたので思わず声を上げた。
「どうしました?」
岸本の隣に来ていた部下の一人が聞いた。
「ボイスレコーダーを兼ねた通信機がミノスに破壊された。あいつら、電子機器を探知する機械を持っていたんだ」
「えっ?そんなものを?」
「これは、想像以上に文明レベルが高いぞ」
「なんと・・・」
岸本は、ヘッドホンを外して腕を組むと渋い顔で上を向いた。
「では、質問を開始しろ。わざわざハーデス様に答えていただく必要のない質問に対しては私が答えるからそのつもりでいろ」
「・・・・わかりました。そこにある紙に質問内容が書いてあるんですが、取ってもよろしいですか?それと、お答えを書くためのメモ帳も」
「紙なら構わん」
「ありがとうございます」
美麗は、自分が用意してきた質問がプリントされた紙とメモ帳を取ったが、岸本に渡された質問の入った封筒には手を付けなかった。
「はい、それではインタビューを始めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
美麗は一礼したが、ハーデスとミノスは無反応だった。
「その前に、アメリカ大統領の専用機が停まっていましたけど、大統領がどこにいるかご存じでしたら教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「大統領ならあの飛行機の中にいる」
ミノスが答えた。
「ああ、やはりそうなんですね」
美麗は、そのことを予想していたので驚かなかった。
「アメリカから連れて来たのでしょうか?」
「そうだ」
「他のアメリカ政府の高官も一緒なんでしょうか?今、副大統領をはじめとした高官たちとも連絡が取れなくなっているのですが」
「もう一人それらしきのがいるがほかの者は知らぬ」
「それは副大統領でしょうか?」
「役職はわからん」
「そうですか。ありがとうございます」
大統領の他の高官が一人だけというのは、美麗にとって驚きだったが、努めて平静を装った。
「では、本題の質問に入らせていただきます」
美麗は、手に持ったプリントを一読してからハーデスの方を見た。
「まずは、盟約がどういう経緯を経て取り決められ、どのような内容であるかを教えていただけますでしょうか」
「どうやら人間どもは盟約のことを本当に忘れているらしいから最初から教える必要がありそうだな」
ミノスが言い、さらに続けた。
「太古の昔から、人間は地上に、我々魔族は地下の冥界に暮らしておった。ところが5万年前、魔族のとある集団が地上に上がり、そこにいた動物を食べていたところ、狩場を奪われたとその地域に生活していた人間の怒りを買ったのだ。その地域には、その魔族の集団の20倍の人間が住んでおり、弓矢や槍のような武器も使っていたため、魔族の集団のほとんどが大きな怪我を負って戻って来た。すると、それを聞いた先王が怒って地上に大量の軍勢を送り込み、その地域の人間の住居を焼き払った。それからは、長い時間戦闘が繰り返され、双方に大量の戦死者が出たため、それぞれが元の冥界と地上にのみ居住するということが取り決められた。それが魔族と人間の間に結ばれた盟約だ」
「・・・なるほど、わかりました。しかし、今まで観た映像から魔族は人間よりはるかに高い身体能力を持っているように感じたんですが、それでも人間を圧倒できなかったのはなぜですか?」
「それは、まず数の差だ。我々魔族の中には、地上の環境だと本来の力が出せない者がいる。しかも、地上に送り込んだ軍勢は最大で2万だったが、人間側には近くの土地から救援に現れた者もおり、我々の20倍の40万人を集めたのだ」
「ああ、そういうことですか」
(朝鮮戦争の時も、国連軍に中国国境付近まで攻め込まれた時に参戦して来た中国軍は、装備は悪いのに人海戦術で38度線の辺りまで押し戻してたから、あり得る話だわね)
「それに、当時の人間は、今とは比較にならないレベルに身体能力が高かった。それも我々をてこずらせた理由だ」
「当時は石器時代で狩猟生活でしたでしょうから、わかる気がします」
会話の間、ハーデスはミノスの方はまったく見ずに、ずっと美麗を見ていた。表情は、美麗が部屋に入って来た時からずっと同じ穏やかなもので、その表情から怒りは感じ取れなかった。
「では、次の質問です。アメリカからの攻撃で冥界の市街地の半分が破壊されたと言われてましたが、それはどのような攻撃だったのでしょうか?」
「2発の爆弾が使われた。それが強固な王都の天蓋を破って王都の中心部に落ちて来た。1発目は高い位置で爆発したこともあって花火と見間違う程度の爆発だったが、あとで調べたら爆発と同時に衝撃波を発生させる種類の爆弾だったようで、かなり離れた位置にある王都外周の壁の複数個所にヒビが入っていた。問題は2発目だ。中心部の建物の上まで落ちて来て大規模な爆発を引き起こして、市街地の半分を破壊したうえ、爆煙で市街地のほとんどが見えなくなった。これもあとで調べたら、中心部の半径2キロほどは、半球形に地面がえぐられて建物は跡形もなく消失していた」
「そのような攻撃が・・・どういう意図で攻撃されたか大統領に確認はされたのでしょうか?」
「あいつは事故だったと言っていた。攻撃する意図はなかったとな。我々があの国の軍事基地への攻撃を開始した時、どの基地もこれから攻撃を開始するような態勢ではなかったから、恐らく本当であろう」
「なるほど、なんらかの地下実験に使った爆弾が冥界まで落ちて行ったということなのですね」
「そういうことなのだろうな。しかし、理由はどうであれ、我々が攻撃を受けた事実と、我々が被った被害を看過することはできない。非常に多くの命が失われているのだ。人間どもにはそれなりの報いを受けてもらわねばない」
そこで初めて、ハーデスの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
(え?今の話のどこに笑みを浮かべるようなところがあったの?まさか、これからの攻撃を想像しろとでもいう笑み?・・・恐っ!)
美麗は、そう考えてここに来て初めてハーデスに恐怖を感じた。しかし、ハーデスの笑みは、ミノスが人的被害が皆無だったのにウソの答えをしたことに対するものだった。
「ありがとうございます。次の質問です。世界で一番強力なアメリカの軍事力がなぜあれほど簡単に無力化されたのでしょうか?ほぼ同時に、すべての軍事基地が攻撃されたと聞いています。それは、イギリスでも同様だったようですが、それを可能にした理由はなんでしょう?」
「我々は、世界各国の軍事基地の位置を、大型のミサイルの格納場所も含めてすべて把握している。移動可能な船のような乗り物、特に潜水艦の位置には多少のずれはあるが、それは大した問題ではない」
「驚きました・・・それは、どのような技術なのでしょうか?」
「ハーデス様から、ほとんどの質問には答えろと言われているが、そのような冥界の技術に関する質問には答えられない」
ミノスがハーデスをチラリと見ると、ハーデスはわずかに頷いた。
「わかりました。では、冥界の領域は地上のどの範囲に及んでいるのでしょうか?」
「それも答えられない」
「そうですか・・・では、質問を変えます。アメリカとイギリスでは、民間人にどの程度の被害が出ているのでしょうか?」
「民間人はほとんど無傷だ。軍事基地を攻撃した煽りで負傷した者はいるかもしれんがな」
「えっ?では、軍事基地以外は一切攻撃していないということですか?」
「そういうことだ」
「それは・・・ああ、これは失礼な質問になるかもしれませんが、あえて確認させていただきます・・・魔族の方々は人間を食べたりはしないのでしょうか?」
「しないな」
「そうですか、安心しました。それは、人類にある程度の敬意を払っているということなのですね?」
「違う」
「え?では、どのような理由で・・・」
「不味かったのだ」
「は?」
「最初に攻撃を受けた直後、その真上にあった施設を攻撃した者の何名かが人間を捕食したが、口をそろえて不味いと言ったのだ。細かく刻んで焼いてから調味料を掛けて食った者もいたが、どうやっても不味くて食えなかったと言っていた。ほかの者は、それを聞いて一切手を出さなくなった」
「ええ~・・・そんな理由なんですか?」
「そうだ」
「では、今後も民間人は攻撃しないということですか?」
「基本的にはそうだが、攻撃を受けたら反撃はするし、その際は手加減はしない。それと、攻撃はしないが食料や寝所の供出を要求することはあるから、それに逆らったら少し手荒いことをする可能性はある」
「・・・わかりました。理由はどうであれ、民間人が無事だと聞いてとても安心しました」
「そんな質問を俺のいる前でするとは、やはり、お前は度胸が据わっているな」
そこで、ハーデスが初めて口を開いた。少しにこやかな表情になっていた。
「それは誉め言葉と受け取ってよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだ。お前がますます気に入ったぞ」
「あ、ありがとうございます」
美麗は、思わず頭を下げたが、それがどこまで本当のことだかわからなかったので少し混乱した。
「質問は終わりか?」
ミノスが聞いた。
「いえ、一番大事な質問が残っています」
「なんだ?」
「どのような結果になったら今回の攻撃を終わらせていただけるのでしょうか?」
「基本的には、地上のすべての国の軍事力が無効化されるか、攻撃する前に降伏するかだ」
「全世界のですか?」
「そうだ。今回のような、冥界を攻撃するという行為を二度とできないようにするためにな。それともう一つ、我々の一部は地上に移住することを希望している。それが完了することも条件だ」
「ええっ?」
最後の話は、まったく予想していなかったので、美麗にとってここに来てから最大の驚きとなった。




