第14話 硫黄島到着
明朝、美麗は、カメラマンの大河原を伴って都内からヘリコプターで航空自衛隊の入間基地に移動し、予定通り午前8時過ぎには、U-4輸送機に乗って硫黄島への移動を開始していた。
道中、F-2戦闘機2機が護衛のためにU-4輸送機の左右後方に随伴した。
客室内には、美麗と大河原のほかに、昨日、政府の車に乗っていた運転手を除いた3人がいた。
美麗と大河原は2列目に座っており、美麗の後ろに岸本、美麗の前の列に昨日の車の後部座席に座っていた岸本の部下の二人がいた。
「姿さん、少しよろしいですか?」
少し前、入間基地に移動するヘリコプターの中で、美麗の対面に座っていた岸本が美麗に声をかけた。
「なに?」
「こちらが政府が用意したハーデスへの質問事項です。本日は、これを使って質問をお願いします」
岸本は、美麗に大きめの分厚い封筒を差し出した。
「え?質問はこっちで用意して来てるからそんなのいらないわよ」
「そういう訳にはいきません。政府が招集した有識者で検討した質問ですから、こちらを使っていただきます」
「イヤよ。どうせ固い質問ばかりなんでしょ?インタビューが終わったら記者会見を開いてテレビ放送するんだから、視聴者の興味を引く質問じゃなきゃ意味がないわ。それに有識者ってなによ?どこに魔族対策の有識者がいるって言うの?」
「そういう有識者ではありません。国家首脳との会談に詳しい有識者です」
「相手は魔族よ?人間と同じ感覚じゃずれてるんじゃないの?」
「少なくとも王に対して、言葉遣いも含めて失礼にならないような質問をまとめてありますから、必ずこちらをお使いください」
「そこまで言うなら見せてみなさいよ」
「どうぞ」
美麗は、岸本から封筒を受けっとってその中身の質問事項を呼んだ。
「・・・やっぱり固いわねえ。言い方も固すぎるわ」
「それが王に対する最適な言葉になりますので」
「はあ?・・・しょうがないわね。これを使ってあげるわよ」
「よろしくお願いします」
(どうせ、ハーデスに会うのは私と大河原さんだけなんだから、何を質問したかなんてわかりゃしないわ)
美麗は、そう思ったので了承した。
「それから、少し失礼します」
岸本はそう言うと、長さ5センチ、幅1センチほどのブローチを取り出し、素早く美麗の左胸の上に付けた。
「ちょっと!なにするのよ!」
「これはボイスレコーダーです。会見開始時刻に自動で電源が入るようになっていますので、会見後に回収させていただきます」
「なにそれ?勝手にそんなことして大丈夫なの?」
「ブローチに見えるように作ってありますから、ばれる心配はありません」
「そうかしら?」
「とにかく、付けたままでお願いします」
「わかったわよ」
そこで会話は終わった。
「お前、なんだか落ち着いてるな」
硫黄島に移動する輸送機の中で大河原が美麗に言った。
「そう?でも、なんて言うか実感が沸いてないのよね」
「魔王に会うってことにか?」
「そう・・・魔王がどんな見た目なのかは気になってるんだけど、恐い見た目だったらイヤだから考えないようにしてるわ」
「ああ、そうか。まだ、誰も見たことがないんだったな」
「見てる人がいるとしたら、アメリカで襲われた人ね。生きてる人がいるかはわからないけど」
「う~ん、そうだなあ・・・そう言えば、大統領が行方不明なんだろ?」
「そうみたいね。ロシアからのミサイルでホワイトハウスごと消されたって説と、大統領専用機でどこかへ飛んで行ったって説があるらしいけど」
「うまく逃げたのかな?」
「もしそうなら、見つからないようにどこかに隠れてるわよね。少なくともアメリカ国内にはいないと思うわ」
「そうだろうな。南米あたりに逃げたかな?」
「そこも危ないんじゃない?」
「そうかもな」
そんな感じで、硫黄島に着くまで二人は話をしていた。それは、美麗が緊張したり、恐怖心が沸いたりしないようにとの大河原なりの気遣いでもあった。
「硫黄島が見えてきました」
岸本の声に、美麗と大河原は窓の外を見た。
「あれがそうなんだ。初めて見たわ」
「第二次大戦中の激戦地なんだよなあ・・・。今は自衛隊員しかいないけど(注1)」
大河原が感慨深げに言った。
「あれは?まさか!?」
さらに近いづいて、滑走路がはっきり見えてくると岸本が大声を上げた。
「え?なに?」
「滑走路わきにアメリカの大統領専用機が停まってます!」
「ええっ!?」
美麗と大河原は慌てて滑走路の方を見た。
「ホントだ!エアフォースワンだ!(注2)」
「ということは、大統領はハーデスに拉致されたってことか?」
「機体だけ奪って来たのかもよ?」
「ああ、そうか。その可能性もあるな」
「どっちにしても大胆なことするわね」
「そんなことすら簡単にできるという示威行為かもな」
「ああ、そうかも」
「もし、大統領がここに連れて来られているならアメリカに報告する必要がありますね」
岸本が言った。
「・・・ん?誰に報告するの?ホワイトハウスもペンタゴンも無いし、副大統領、首席補佐官、国務長官、国防長官の全員と連絡がとれないんでしょ?」
「あ・・・」
「もう、アメリカは国として機能してないんじゃないのか?」
大河原が言った。
「そうかもしれません・・・とりあえず、戻ったら首相に報告します」
そこで美麗たちが乗った輸送機は降下を始め、そのまま無事着陸した。護衛のF-2戦闘機は、輸送機が無事着陸したのを見届けると戻って行った。
着陸後は、事前にミノスから指示されていた通り、管制塔のある建物の前まで移動した。
「我々はここまでですので、あなた方が戻られるまでここで待機します。あとはよろしく頼みます」
輸送機が停止し、美麗と大河原が立ち上がると岸本が言った。
「まあ、なるようにしかならないわ。せいぜい、私が無事にインタビュー内容を持ち帰れることを祈ってて」
「確かに、それくらいしかできませんね」
収納式のステップが降り、美麗が小さな手提げバッグを持って搭乗口に出ると、ステップのすぐ先にはブルカが一人で立っていた。
「降りてこい」
ブルカに言われるまま、美麗とカメラを抱えた大河原が降り始めると、
「止まれ」
と、ブルカが開いた右手を前に出して制止した。
「え?」
「お前一人で来いと言ったはずだ。後ろの男は戻れ」
「ただのカメラマンよ。私たちの会見の様子を撮影するだけだから」
「ダメだ。ハーデス様のお姿を撮影することは許されない」
「そんな・・・」
「わかった」
大河原が答えた。
「お前の身を危険にさらすことはできないから言うとおりにするしかない。インタビューは、よろしく頼むぞ」
大河原が美麗の耳元で囁いた。
「・・・わかったわ」
美麗はゆっくりとステップを降りて行った。
「ついて来い」
ブルカは、美麗を従えて管制塔の建物に向かった。
大河原は、搭乗口のところまで戻ってそれを見送った。岸本たちは、一部始終を窓から見ていた。
建物に入ると、ブルカは階段で2階に上がり、ある部屋の前で止まった。
「ここだ」
そう言うとドアをノックした。
「入れ」
中からミノスの声が聞こえた。
ブルカがドアを開けて、美麗に「入れ」と言った。
美麗は、中に入るなり深々と一礼した。背後でドアが閉まった。
顔を上げると、正面に人間にしか見えない長身で体格も良い男が座っており、その隣にミノスが座っていた。
美麗は、思わず左右を見渡して他に誰もいないのを確認すると、正面の男がハーデスであることを認識した。
(ちょっと、ちょっと、ちょっとお!めちゃくちゃイケメンじゃないのお!どストライクだわ!)
美麗は、途端にテンションが高くなり、見惚れてその場にポーっと突っ立ってしまった。
「何をしているそこに座れ」
「あ、は、はい!」
美麗は、慌てて会議卓を挟んでハーデスの対面にある椅子に座った。
「手に持っているバッグを出せ」
ミノスが言った。
「はい」
美麗は、言われるままミノスにバッグを渡した。
ミノスは、自分の手元に置いてあった10センチ四方ほどの箱を取ると、美麗のバッグに当てた。
途端に、「ピー!」っという電子音が鳴った。
「何か電子機器が入っているな?」
「あ、はい。私のスマホが」
ミノスは、バッグのチャックを開けると、さかさまにして激しく振り、中身を会議卓の上にぶちまけた。
「あっ!」
美麗は思わず声を上げた。
「なんだ?」
「・・・いえ、何でもありません」
ミノスは、スマホを手で手元に引き寄せると、右のこぶしを思い切り叩き付けた。
バキッ!
スマホは真ん中から折れた。さらに、それを両手で掴んで引きちぎった。
「ああっ」
「電子機器は持ち込むなと言っていたはずだ」
「・・・すみません。聞いてませんでした」
(岸本のおっさん、ちゃんと言っときなさいよ!あとで弁償してもらうからね!)
ミノスは、それから身を乗り出して四角い箱を美麗に向け、美麗の目の前で頭の上からなぞり始めたが、左胸に来るとまた「ピー!」と鳴った。
「その胸に付けているものはなんだ?」
「・・・ボイスレコーダーです」
「寄越せ」
「・・・はい」
美麗は、岸本が付けたボイスレコーダーを外してミノスに渡した。ミノスは、今度は右手の親指と人差し指で挟んで粉々に潰した。
(うわっ!スゴい力!・・・でも、これでこっちで用意した質問ができるわ)
美麗は、ボイスレコーダーを潰してくれたことを逆に喜んでいた。
その間、ハーデスは静かな目でずっと美麗を見ていた。美麗は、ハーデスのイケメンぶりが気になってチラチラとそっちも見ていたのでそれに気付いていた。
(注1)第二次大戦中の1944年までの硫黄島には一般市民も住んでいたが、島民に対して疎開命令が出されて以降は一般市民は居住していない。戦後は、昭和43年(1968年)に変換されるまでは米国の一部となっていて、現在は、自衛隊の施設のみがあり基本的に一般市民の立ち入りは禁止されている。
(注2)「エアフォースワン」というのは大統領が搭乗している機体のコールサインなので、機体(VC-25)そのものの呼称は「大統領専用機」が正しい。つまり、国務長官が乗って行ったガルフストリームでも大統領が乗った場合は「エアフォースワン」になるということ。ちなみに、副大統領が乗っている機体のコールサインは「エアフォースツー」である。
U-4小型輸送機の写真は航空自衛隊の公式サイトから、硫黄島の建物の写真はGoogleマップから引用させていただきました。




