第13話 魔王からの招待
次の日、美麗は、朝早く出社してきて山城に言われるまま5か国語の放送を流し終えてから30分後に自分のデスクで山城が用意してくれたスイーツを朝食代わりに食べていた。
すると、山城のデスクの電話が内線の転送音で鳴った。
「なに?・・・わかった。・・・はい山城です。はい・・・はい・・・えっ?・・・本当ですか!?」
電話を取った山城は、会話の途中でいきなり興奮した声を上げて立ち上がった。
「なにやってんのあの人?」
美麗は、スイーツを頬張りながらその様子を冷ややかな目で見ていた。
「おい、美麗!インタビューの約束が取れたぞ!」
電話が終わった山城は、嬉しそうな顔をして美麗に向かって大声を出した。
「ほあ?もぐもぐ・・・ゴクン・・・誰のインタビューよ?」
「魔王だよ魔王!」
「ええ?今ごろ浅〇真央ちゃん?なんで?・・・・・待って・・・まさか!?」
「そうだよ魔王ハーデスだよ!」
「えええっ!?」
「今の電話は政府の担当者からで、ミノスから連絡があり、ハーデスがさっきの放送を見てお前を気に入ったからインタビューを受けるって言ってるって!」
「ウソでしょ?いたずらじゃないの?」
「テレビ電話での連絡で、念のため画像解析もしたがCGとかじゃない本物の映像だったらしいぞ」
「え~・・・どうせスルーされると思ったから勢いであんなこと言っちゃったけど、まさかホントに受けるなんて・・・」
「いや、あの『私一人で来いと言われてもインタビューに応じます』って言った度胸が一番気に入ったらしい。しかも、場所も考慮してくれて、パスポートの必要のない硫黄島(注1)だってよ」
「そこまでして私と話がしたいってこと?でも、それって向こうは領空侵犯なんじゃないの?」
「そんなことハーデスが気にするかよ。日本政府もハーデスが乗ってる飛行機だとわかってるからスルーだろうよ」
「ああ、確かに・・・時間はいつ?」
「明日の朝10時だ。お前を怖がらせないように明るい昼間を選んでくれたようだな」
「ホントにそんなことまで考えてくれる?・・・で、誰が一緒に行くの?政府の誰か?」
「お前一人で来いってさ」
「ウソでしょ!?」
「だって、お前がそう言っちまったじゃねえか。さすがに心細いだろうからカメラマンを一人つけてやるよ。うちでいちばんガタイのいいベテランの大河原さんをな。カメラマンの同伴くらいは文句言われないだろ」
「・・・気休めね。いくら大河原さんでも魔族の前では無力だと思うわ」
「そうかもしれんが、少なくとも飛行機に乗ってる間は気が紛れるだろ?」
「飛行機と言えば、どの飛行機で行くの?」
「政府がチャーター機を用意してくれるってさ」
「あら?気前がいいわね」
「政府としても、ハーデスの思惑を聞きたいんだろうよ。だから、インタビューから戻ってきたら、まず、政府の聞き取りがあるって」
「うわっ、めんどくさ!」
「今んとこ政府が他の国には伏せてくれてるけど、聞き取りが終わったら記者会見になると思うから、それで全世界に魔族の思惑が知れ渡る。中途半端なインタビューはできないからな」
「あー、記者会見もやるのかあ。ホントめんどくさいわね」
「それじゃ、明日の質問内容を考えよう。ここは、本部長にも入ってもらった方がいいだろう」
「ああ、そうね。お年寄りも入れて考えた方が気のきいた質問ができるわね」
「お年寄りとか言うな。まだ52歳だぞ」
「私とにとったら、じゅうぶんお年寄りよ」
それから美麗と山城は、本部長と3人で小一時間会議室にこもり、ハーデスへの質問内容を検討した。
できあがったものは3部プリントアウトされ、3人それぞれが持つことになった。
「とりあえず、一回帰ってもらって明日の準備をしてもらう。相手は魔王といえど王様だ。失礼のない恰好でな。また、大きなニュースがあったら呼び出すかもしれんが」
会議室を出て本部長と別れると山城が言った。
「やめてよ。最後の一日になるかもしれないんだからゆっくりさせて!」
「お前が気に入ったって言ってるんだから危害を加えたりはしないと思うぞ」
「どうだか。じゃあ、帰るわね」
「お疲れさん。明日は頼んだぞ」
「まあ、なんとかなるでしょ」
テレビ局の入口を出ると、目の前に大きな黒塗りのリムジンが左向きに停まっていて、その脇に仕立ての良さそうなダークグレーのスーツを着たの50歳くらいの男が立っていた。
(なに?どっかのお偉いさんでも来てるの?)
美麗がそう考えて通り過ぎようとした時、
「姿美麗さんですね?」
と、声をかけられた。
「そうだけど、あなたは?」
「日本政府のモンスター対策本部の者です。明日のインタビューに無事送り届けられるよう、お迎えにまいりました。お乗りください」
そう言いながら、男は後部座席のドアを開けた。
「ウソでしょ?」
「ここで立ち止まっていては不審がられます。さあ、お早く」
「・・・・・わかったわよ」
美麗は、一瞬、怪しい人かとも思ったが、インタビューの事を知っているのであれば政府の人間だろうと思って車に乗った。
車内に入ると、後部座席の奥に一人と向かい合わせの席に一人、同じくダークグレーのスーツを着た男が座っていたが、歳は二人とも30歳くらいだと思われた。
声をかけてきた男が後部座席のドアを閉めて助手席に乗り込むと、車は発進した。
「今回は、遠いところまでご足労いただくことになりますが、この世界の命運がかかっていると言っても過言ではありませんのでよろしくお願いします。申し遅れましたが、私は岸本と申します」
助手席の男が前を向いたまま、やや視線を落とした姿勢で言った。美麗からは見えなかったが、通常の車ならグローブボックスがある位置にモニタがあり、そこに後席の様子が映っていた。前席との間には、部厚そうなガラスがあったが、車内にインターホンのような機能があるらしく、美麗には声が上から聞こえた。
「ちょっと大袈裟じゃない?向こうの考えを聞いてくるだけよ?」
「はい、基本的にはそうですが、回避策がないかも聞いていただきたいんです。つまり、どうやったらモンスターたちが侵攻を終わらせてくれるのか」
「最初からそのつもりよ!あんた、さっきの私の放送見てないの!?」
美麗は、途端に不機嫌な表情になった。それは、訳も分からずどこかへ連れて行かれようとしているイライラのせいでもあった。
「これは失礼しました。もちろん、先ほどの放送は拝見させていただきました。一応の念押しでございます」
「そんなのいらないわよ!」
(たかがテレビ局のアナウンサー風情が、少しばかり見た目がいいからといい気になりおって)
岸本は、舌打ちしそうになるのをなんとかこらえた。
美麗の対面に座っていた男は、
(うわっ!性格きつっ!すごい美人だけど俺は無理だわ)
と、考えていたら、
「なにジロジロ見てんのよ!」
と、怒鳴られたので、余計に(無理無理無理!)と思った。
「で、どこに行くのよ」
「まずは、明日のハーデスとの会見用の服を選んでいただくために銀座に向かいます」
「あら?それって、私の体に合わせたオーダーメイドってこと?」
「もちろんでございます」
「気前がいいわね」
「ハーデスに失礼があってはいけませんので」
美麗は、オーダーメイドということは自分にくれる物だと思ったので少し機嫌が良くなった。
銀座の服飾品、靴、アクセサリーを一緒に扱う高級なブティックに着くと美麗は、
(お金気にしないで選べるっていいわね~、サイコー!)
と、ウキウキ気分で選んで行った。
服の採寸も合わせて1時間以上も時間がかかったので、一緒に店内に入った岸本はイライラして待った。
結局、3着の服とそれに合う3足の靴とネックレスやイヤリングなどのアクセサリーを数点選んだ。服は大急ぎて仕立てて、今日の夕方には届けてくれることになった。
「服は1着でいいのでは?」
岸本が困惑した顔で聞いた。
「何言ってるの?明日の天候によって着る服も変えなくちゃダメでしょ?常識よ」
「そんなものですか」
「そうよ。あんたのポケットマネーじゃないんでしょ?気にしなくていいじゃない」
「そうですが・・・会計をお願いします」
店員に言った。
「62万円ちょうどになります」
「えええ!?・・・・・では、このカードで」
「はい、お預かりします。こちらへどうぞ」
岸本は、どっぷり暗い表情で店員について行った。
「次はどこ?」
車に乗り込むと美麗が聞いた。すっかり上機嫌になっていた。
「この銀座で料亭を予約してありますので、そこでお昼を召し上がっていただきます」
「あらあ、いいじゃなぁい!」
美麗は、さらに上機嫌になった。
「あー、おいしかった!さすが銀座の料亭ね!」
美麗は、食事が終わって車に乗り込むと、ポンポンと軽くお腹を叩きながら言った。
「じゃあ、私の家まで送ってくれる?」
「いえ、本日は、姿さんにもしものことがないように、こちらで用意した宿泊施設に泊まっていただきます」
「そんなのダメに決まってるでしょ!」
美麗は一気に不機嫌になった。
「どうしてでしょうか?」
「私は、明日死ぬかも知れないのよ?身辺整理もしなきゃだし、部屋もちらかってるから片付ける必要があるわ。私が死んだら当然ニュースになるだろうから、家の中にカメラが入る可能性だってあるじゃない!」
「そうを言われましても、これは政府として決定したことですので」
「ダメなものはダメよ!どうしてもって言うなら、明日のインタビューはキャンセルよ!」
「それは困ります!ハーデスの機嫌を損ねたら、我が国などあっという間に叩き潰されてしまいます!」
「なら、言う通りにしなさいよ!」
「・・・わかりました。明日は、6時にお迎えに上がりますので、それまでに準備をお願いします」
「早いわね?でも、逆算するとそんなものか。わかったわ」
岸本は、渋々、美麗を自宅のマンションへ送り届けた。ただ、警備のために、入り口のドアが見える側とベランダ側に二人ずつ乗った車を一晩中貼りつかせた。
銀座で買った服は、夕方5時に美麗のマンションに、リムジンの中にいた二人の男の手で届けられた。その際、夕飯として高級な中華弁当を差し入れたら、美麗は大喜びだった。
(注1)アメリカに、この島から取った「イオージマ」という船があったり、映画のタイトルも「いおうじま」になってたりしてますが、正しい読みは「いおうとう」ですからね。富士山を「フジヤマ」と言ってるのと同じような勘違いかと。




