第12話 インターネット
11話にも渡って序章を書いてきましたけど、ここからが本題です。よろしくご笑覧ください。
「首相、アメリカの国務長官は無事バラ空港に着き、今、空港のターミナル内で食事をしているそうです。このあと、ホテルに送り届けるとのことです」
バラ空港との電話を切ると、首相補佐官が言った。
「そうか。とりあえずは良かった。何かあったら後々面倒くさいからな」
ガシャーン!
そこへ、鷲のような姿をした1体の魔族が窓を破って飛び込んで来た。
「わっ、なっ・・・」
首相は、突然のことで動けなかった。首席補佐官は、椅子から転げ落ちて尻もちをついた。
「お前が首相のテイラーだな?」
その魔族は、そう言うと片手で首相の首根っこを掴んで持ち上げた後、後ろから抱き抱え、あっという間に入って来た窓から飛び出して行った。
「何事です!」
部屋の外にいた警備の男二人が部屋に飛び込んで来た。
「首相はどこです!?」
首相の姿が部屋の中のどこににないのを見て、一人が床に尻もちをついている首相補佐官に聞いた。もう一人は、窓が破壊されて窓ガラスが室内に散乱しているのを見て窓に走り寄って庭を見た。
首相補佐官は、震えながら窓の外を指さし、
「鳥のようなモンスターが連れて飛び去った」
と、絞り出すように言った。
それを聞いた男も窓に走り寄って視線を上げたが、その時には、もう魔族と首相の姿は点のように小さくなっていた。
大統領専用機は、着陸するといつもの駐機場所へ移動した。
2機のC-5輸送機は、続いて降りてきたが、それぞれが滑走路が空くのを待ってからだったので、2機目が大統領専用機とは離れた駐機場所に停止するまでには10分以上時間がかかった。
「失礼します・・・・・えっ!?」
タラップが機体のところまで来ているのになかなか降りる様子のない大統領たちを確認するためにパイロットの二人がやって来たが、ミノスとハーデスがいるのと大統領と首席補佐官が縛られて床に転がされているのを見て固まった。
ブルカは、素早く二人に飛びかかって正面から首をわしづかみにして宙づりにした。
「搭乗口のドアを開けろ。後ろからこのブルカが見ているから下手なまねをすると命はないぞ。開けたらすぐに戻って来い」
ミノスが言った。パイロットの二人は、恐怖の表情で2度ずつ首を縦に振った。
「ゲホッゲホッ!」
パイロットの二人は、ブルカが手を離すと、床に倒れこんで咳き込んだが、すぐに立って搭乗口に行きドアを開けた。ブルカは、手前の角に体を隠して様子を見ていた。
大統領専用機は、一般客からは見えない場所に駐機していたが、2機のC-5輸送機は、待合室から見える場所に駐機していた。職員や待合室にいた乗客らが見守っていると、負傷兵を運ぶためと思われる4台の大型の輸送車が近寄って行った。
しかし、それぞれのC-5輸送機の前後のカーゴドアが開くと、そこから飛び出して来たのは、大小さまざまの形態をしたモンスターたちだった。
「えっ?」
「何だ?」
見ていた人々は、それが何か分からず一様に怪訝な表情を浮かべた。
「うわぁぁぁ~!」
ただ、それは数秒間の事で、それが施設の方に飛んできてモンスターだとわかると一斉に窓を離れて逃げ始めた。
しかし、モンスターたちは、人間と乗客関連の施設には目もくれず、近くに駐機していた軍用機、および管制塔と施設のアンテナ類を破壊し始めた。
「ひいぃぃぃ!」
管制塔には、窓を割って数体の飛行型モンスターが飛び込んで来たので、中にいた管制官等の職員は慌てて逃げ出したが、ここでもモンスターは人間には目もくれず、ひたすら機器を破壊することに専念した。
一部のモンスターたちは、港湾内に停泊していた軍用艦を襲い、アメリカ本土やイギリスでやったのと同じように、まず、艦砲類、レーダーと通信装置、続いて推進装置を破壊していった。ただ、1隻の船を残して。
大統領専用機のドアが開いたところでタラップを接続した空港の作業員は、「ギャー、ギャー」という妙な鳴き声を聞いたためそっちを見たが、モンスターが飛んできて近くにあった軍用機を破壊し始めたので、慌てて空港の施設の方に走って逃げて行った。
「その二人も縛り上げて貨物室に放り込んでおけ」
「はっ!」
パイロットの二人が戻って来るとミノスが言ったので、ブルカは二人の首根っこを掴んで持ち上げ、隣室へ消えて行った。
大統領専用機内に転がされていた大統領と首席補佐官は、機外の様子を映したモニターを見て驚愕の表情を浮かべ、続いて、それが苦渋の表情に変わった。
「もうしゃべっていいぞ。その姿勢も窮屈だろうから、足だけ解いて椅子に座らせてやれ。ただし、動けんようにシートベルトはしておけ」
「はっ!」
ブルカが戻って来るとミノスが言った。ブルカは、言われた通りに二人を後ろ手で縛ったまま椅子に座らせシートベルトを締めた。
「こんなことを全世界でやるつもりか?」
大統領が外の光景を映しているモニタを一瞥してからミノスに向かって言った。
「すでにイギリスは無力化し、その戦力はヨーロッパ大陸へ移動した。ヨーロッパ諸国は、やっかいな軍事力を持っているからアジアより先に無力化する」
「なにっ?」
大統領と首席補佐官の顔色が変わった。
「この作戦に一体どれだけの戦力を投入しているんだ?」
「そんな質問に答える義理はない。ただ、お前が思っているよりは、はるかに多いだろうよ」
「な・・・」
そこで、ミノスが二つ手を叩いた。
隣の部屋から、今度は、鹿のような顔と雌鹿のような短い角を持ち、ブルカと同じような服装に体格の魔族が現れた。
「ブルカ交代だ」
ミノスが言った。
「はっ!ありがとうございます・・・あの~、操縦席を見に行ってもいいですか?ちょっと興味あるんで」
「構わんがしっかり休んでおけよ。この先も長いんだ」
「はっ!大丈夫です!」
ブルカは、嬉しそうな顔でコクピットに向かって行った。
「カミーラ、ここでこの二人を見張っていろ。私とハーデス様は隣の部屋にいる」
「はっ!」
ミノスとハーデスは、隣の部屋に入って行った。
「へんな動きをするなよ。俺はブルカほど気が長くないからな」
ハーデスたちが出て行くとカミーラが言った。
大統領と首席補佐官は、黙って頷くしかなかった。
「私は、ここの制圧が終わるまでの間、ちょっと情報収集をします」
隣室に入ると、ミノスはそう言ってそこに設置してあった端末の前に座った。
「ほう。具体的には何をするんだ?」
「人間界にはインターネットという、多くの国で閲覧できるネットワークシステムがありますので、そこでニュースの映像を見て、アジアの国々がどのような対応を取ろうとしているのかを把握しようと思います」
「面白そうだな。俺も一緒に見よう」
「そうですか、わかりました。まずは、アジアで一番大きな軍事力を持つ中国ですね」
ハーデスは、端末に一番近い椅子に座った。
「・・・・・ふむ、イギリスでも国内の各地に一斉に我々が現れたことで、沿岸部だけでなく内陸部も警戒しなくてはいけなくなり、戦力を分散させてしまったようですね。これは好都合だ」
動画を見終わるとミノスが言った。
「しかし、この国は広いのだろう?少し面倒だな」
「そうですね。なので、この国は後回しで良いかと思います。他の国を攻めてる時に、それを助けに行ってさらに戦力を分散させるような愚行はさすがにしないと思いますので」
「なるほどな。では次は?」
「最新の装備と精度の高い戦力を持つといわれる日本ですね。ここは、島国ながら平地が少なく気候も中途半端で我々が住むには適していませんが、放っておくとやっかいですので」
「そうか、では見よう」
ミノスがニュースチャンネルの動画を再生すると、そこに映ったのは、スタジオでのいつものニュース姿勢をとる姿美麗だった。
「ほう、いい女だな」
美麗を見るなりハーデスがつぶやいた。
「おや、ハーデス様はこのような女が好みですか」
「うむ、かなり好きな顔立ちだ」
二人は、美麗の言葉に耳を傾けた。
『アメリカに続き、イギリスの軍事力も短時間で無力化され、モンスターたちはヨーロッパ大陸に移動し、まずは、フランスとドイツに侵攻を開始しました。今度は、沿岸部からの侵攻になった関係で、ある程度の反撃も出来ているようですが、やはり戦局はかなり不利なようです。ただ、沿岸部から侵攻したということは、冥界の端がイギリスどまりであるという事実が示されたことになりますので、これから、中東、アフリカに侵攻した場合は、ある程度迎撃態勢が整えられるということになると思います。それにしても、今回の冥界からの攻撃がアメリカからの攻撃に端を発したものであるというのは、ミノスというモンスターが語った一方的な情報のため、その信憑性が確認できておりません。アメリカの大統領が行方不明になっているということもありますので、関東テレビは、冥界の魔王ハーデスへのインタビューを望みます。これは、我が関東テレビだけでなく、世界中の報道機関の総意でもあります。それによって、盟約とは何なのか、冥界はどのような被害を受けたのか、世界のどの地域まで攻撃し、どういう状況になったら攻撃を終わらせるのか、そういった点を確認したいと思います。ハーデス、またはミノス、それかモンスター、いえ、魔族と呼ぶのが正しいのかもしれませんが、その誰かがこの放送を見ているのならインタビューに応じてください。場所はそちらの指定するところで構いません。私一人で来いと言われてもインタビューに応じます。どうか、よろしくお願いします』
最後に一礼して終わったが、続いて、英語、ドイツ語、フランス語、中国語で同じ内容の動画が流れた。驚くべきは、すべてそれを吹き換えではなく美麗本人が原稿も見ずにしゃべっていたということだった。
「なんですかこの女の不遜な態度!ハーデス様に対して失礼極まりない!」
ミノスは本気で怒っていた。
「いいではないか。俺が求めていたのはこういうハッキリものを言う芯の強い女だ。俺のところに一人で来るだと?その度胸も褒めてやろう。しかも、5ヶ国語を操るとはな。自分の美貌だけに満足せず、そういう勉強を怠らない姿勢も評価に値する。ますます気に入ったぞ。よし決めた!」
「何をですか?」
「この女のインタビューに応じよう。場所はお前が決めろ」
「本気ですか!?」
「この女と一度話をしてみたいのだ、ははははは!」
ハーデスは、楽しそうに笑った。




